どんぐりの背比べ
「っ……ふっふふふふ」
イケメンの絶望顔って美味しいなあ……とか他人事のように思いながら、本人達の間だけは重たい沈黙に堪えきれなくなって笑ってしまう。
「ケイカちゃん……笑わないでよ」
「いやだって……! そうですよね! ホウオウさんもやっぱりそう思うんだなあって思ったら面白くて」
「うん? なぜ笑う……」
一羽だけついていけてないホウオウさんがしょんぼりしている。なんと可愛いらしい。
アカツキがバサリと翼を広げて、ホウオウさんの頭の上に飛んでいく。き、君そんなの許されるの……? あっ、普通に受け入れられてる。いいのかホウオウさん。前から気安いほうだなとは思ってたけど、かなり懐が広いよね。
「えーっとですね、一応アインさんはケルベロスさんの依頼でこちらに来ているらしいので、何年も迷っていたわけではないらしいです。私と出会ってから何回迷ったのかは数え切れないほどですけど……」
私やレキがあんなに頑張って止めても迷子になる人なのだ。正直なところ、ホウオウさんのお名前が冥土の案内になっていたとしても、それでもこの人は迷ってそうだなとしか言えない。
単純に道に迷わずに行けるかどうかの信頼が最底辺である。
私にその辺のことで嘘をついていないとも限らないし、本人が迷子になっていた自覚がないだけという可能性すら、この人の場合は存在するのだ。
……あれ? やっぱり絶対何回かは迷っているのでは???
もはや彼の言葉の信用は皆無といっていい。迷うことに対しての確信的な信用はあるけども。ダメじゃん。
ケルベロスさんことアートさんに彼のことを訊いたら、絶対苦労話をしてくると思うんだよね。今度会う機会があったら訊いてみよう。
ここに来るまで、私が道案内していたことを知ったホウオウさんは、首をぐぐっと下げて私を見つめた。その顔の、眉っぽい部分は困ったようなハの字になっている。
ホウオウさんのそんな弱気そうな顔を見たことがなかった私は、正直かなりびっくりしてしまった。いつもは街を治める神獣らしく、すごく威風堂々としていて格好いい年長者って感じだから。
「すまないな、共存者ケイカ。苦労をかけただろう」
「ちょっと!?」
ホウオウさん、突然の保護者ムーブ!!
頭を下げて謝罪する彼の頭の上で、アカツキもうんうんと頷いている。もしやなにかしらシンパシーを感じるところがあったのかもしれない。
……こう、共存者のパートナーに対する保護者苦労人ポジ的な意味で。
チラッとアインを見ると、ホウオウさんのことをなにを言い出すの!? みたいな顔で見ており、私の視線に気づくと今度はジッとこちらを見出した。絶対あれ、「そんなことないですよ〜」みたいな回答を求める顔だと思う。
「ええ、それはもう……すっごく苦労しました! 頑張ったんですよ私! この人、縛りつけててもいつのまにか消えてますし、どういう教育をなさってきたんですか?」
「すまない……これでも、これでもはじめて旅に出たときからは大分良くなったほうなのだ」
「ふぁっ!?」
苦労しました〜って顔をノリでしながら話を続けていたら、予想外すぎる事実を知らされてさすがにびっくりである。
嘘でしょこれでもマシになったの……?
というか、さらっと「教育」が否定されず流されていることに笑う。まあ、マシになっているということは、実際に少しは教育されているのだろう。その迷子癖を治すために……想像できない。
「ケイカちゃん!? そこは謙遜したり否定してくれるところじゃないの!?」
「否定するわけないじゃないですか。事実ですよ事実。私は正直なんです。それにほら、ここで嘘をついたらアインさんのためにならないですから」
アインさんのことは適当に返事をしつつ、ホウオウさんとの会話を続ける。
「ここまでするには、さぞ大きな苦労があったことでしょう……これ以上は良くならなかったのですか?」
「老人になるまで、とうとう治らんかったのだ。こやつの迷子癖を完全に無くすとなると、何百年かかることか……恐らく、あの魔王を癒して救うほうがまだ容易いだろう」
アインさんの評価が酷すぎて草が生えるんだけどどうしよう。すっごい真面目に言っているホウオウさんの手前、あんまり笑ったら失礼だしなあ……笑ってはいけない神獣の御前24時かなにか?
しかし……。
「ちょっとちょっと! 二人してひどいじゃないか!!」
「事実ですし……」
「揺るぎない事実だろう」
ホウオウさんは、はーやれやれみたいな顔をして首を振っている。
うーん、どこのパートナーも似たような反応をするものなのだなあ……と、実感した。パートナーくん達、AIなのに苦労人になりがち。
「カァ」
ホウオウさんに同意するように、彼の背中で翼を上げたアカツキが鳴く。
「共存者ケイカのパートナーとなったルースター……今はもはやヤタガラスか。立派に成長したものよの。お前はどうだ、楽しく過ごせているか?」
「クー、カァ、ガァッ!」
「そうかそうか、お前も苦労しているのだなあ」
「カァーッ!」
なにを言っているのかは分からない。
分からない……が、なにを言っているのかがなんとなく予想がついてしまうこの悲しさ。
「ほらー、アカツキくんに言われてるよ? 僕達似たもの同士だね〜」
「アインさんの迷子癖よりはマシですよ」
「散財癖がすごい君に言われたくないな〜」
「は?」
「うん?」
視界の端でプラちゃんに引っ張られ、オボロとその上に乗ったジンがホウオウさん側へとスススッと移動していく。
私とアインさんの間でカーンッと、戦いのゴングが鳴る音がした気がした。
「いやいやいや、私はちゃんと節制することもできるんですよ? 絶対に迷子になるアインさんのほうがひどいですよ」
「いや、ケイカちゃんだってなんだかんだ言いつつも必ずなにかしらにお金使ってるでしょ。僕は案内さえしてくれれば大丈夫だし」
「どの口で言ってるんですか。案内どころか手を繋いで歩いていてもいつのまにかどこかに行ってるじゃないですか」
「いやいやいや君のほうが」
「は? なに言ってるんですかアインさんのほうが」
「……」
「……」
火花を散らす私達の背景で、そっとクチバシを開いたホウオウさんがポツリと呟く。
「よいか、お前達。あれが『どんぐりの背比べ』というものだ」
「カァ……」
「くん?」
「なぉん」
「きゅるぅ……」
私達よりも、パートナー達のほうが大人ってどういうことなの……。
明日の夕方4時〜5時くらいに、神獣郷のコミカライズ第12話がコミックポルカの公式サイト様で配信開始となるはずです。
ぜひご覧くださいませ〜!!




