なんだその、迷うことに対する信頼感は
「……」
「……」
突っ伏したまま沈黙するアインさんと、黙って彼を見つめるホウオウさん。
なんだろう……感動の再会(大事故)って感じ。
先に口を開いたのは、ホウオウさんだった。
「ああ、すまぬ。知り合いと名が同じだったものでな。して、アインとやら、怪我はないか? 動けぬのなら、翼を貸そう」
あ〜〜ほら!! アインさんがなんにも言わないから同じ名前の別人だと思われてる!! 私、ちゃんと再会って言ってるのに!! なにビビってるんだこらぁ!!
あと、どうでもいいけど「手を貸す」を「翼を貸す」って言ってるホウオウさん好き! 私は種族によって人間の慣用句とかことわざがアレンジされてるの大好き侍と申す!!!
それはそれとして、ホウオウさんがあまりにも大人の対応すぎる。
「ちょっとアインさん」
「……ごめん、ちゃんとやる」
肝心なときに怖気付くタイプか……気持ちは分かるけども。
低く言った彼の声にホウオウさんはやはり一発で気づいたようで、クチバシを小さく開閉して突っ伏しているアインさんを見つめた。
アインさんがゆっくりと立ち上がる。
少しだけ身を震わせて俯いていた彼は、被り物が180°回転して背後の私を見つめているとかいう若干怖い状況になっていたが、無言でその被り物を脱いで顔を上げた。
ホウオウさんの息を飲む音が直接聞こえてきそうなほど、その場の空気は静まりかえっている。
アカツキを肩に乗せてその様子を見守っている私と、ホウオウさんの前で緊張した面持ちになっているだろうアインさん。
かつて、彼も小さくなったホウオウさんを肩に乗せたりしていたのだろうか……? それはそれで……見てみたかったなあと、ふと感じた。このまま上手くいけば見れたりしないだろうか?
アインさんと同行するイベント、どうやらかなりレア物のようだし。
「アインよ、本当にお前なのか……?」
さあ、感動の再会だ。
この場に私が立ち会えることに喜びを感じる。画面越しでもなく、直接彼らの話を、会話を見ることができるのだ。それはとんでもなく幸運なことに違いない。
私という他者のいるところで話すのは、本人達的には少し恥ずかしいものかもしれないが、席を外してほしいというようなことは言われていないので静かに見守ることにする。
昔話に花を咲かせるなり、触れ合うなり、お互いの近況を話し合って和やかに会話を進めるなりすればいいのだ。
ちなみに、私が似たような立場になった場合はきっと、言葉よりも先に体が動いて抱きつきに行くと思う。
さて、アインさんはどうするのだろうか……?
大人のキャラだし、落ち着いて話し合うだけかなぁ。どんなことになるのか、期待大である。
今のところアインさんは沈黙。言葉が見つからないのだろうか?
確かに、最初はなにを話せばいいのか分からなくなるのも無理はない。いざ再会してもいろんなことを言いたくて言葉がなかなか出てこないということもあるだろう。
「……」
「共存者ケイカ。このかたは、本当に、アイン……なのか? 他者の空似ではなく、本当に……?」
「ええ、本人のはずですよ。自分で認めましたから。今はただ、感動で胸いっぱいで言葉が出てこないんだと思います。可愛らしい葛藤を見守ってあげてください」
「ちょっとケイカちゃん!?」
アインさんが抗議してきたが、私は華麗にスルーしてホウオウさんに向けて微笑んでみせる。
抗議に声をあげられるなら勢いで全部喋っちゃえばいいのに。
「アイン……」
「あ、えっと……」
私の隣でおすわりをしているオボロの頭に、そっと手を乗せる。
緊張していることが伝わったのか、オボロはますます足元に体を寄せてきたし、プラちゃんが私を囲むようにゆるく巻きついてくる。
そして、いつのまにかジンがいないなと思ったら、背中の羽織りに張り付いて
いたらしく、そのままよじ登ってアカツキと反対側の肩に落ち着いた。
「えっとね、その……ひ、久しぶり」
「アインよ……どうしてここにいる? お前は……まさか」
「ちょっと、事情があって……そこから話そっか」
ようやく会話らしい会話になってきた。
このまま事情説明して、会話が円滑になっていけばいいけど……。
アインさんが続きを話そうとした、その瞬間。
「まさか、あのときからお前は……何百年も迷っていたというのか……!? 私の名を案内役に渡したであろう……!! 迷ってしまったのなら、なぜもっと早くに言わなかったのだ!」
低くて渋いホウオウさんの、真面目な心配がアインさんに突き刺さった瞬間だった。
なんだその、迷うことに対する信頼感は。本当にあの世でも迷子になりかねないって思われてたのかこの人。自分のパートナーにまで? え、本当?
私の頭の中で、ネットミームと化した顔だけ饅頭のキャラクターが「シリアスだと思った? 残念シリアルでした!」と叫んでいる。ほんとだよ。
ホウオウさんの言葉の直後にした「え?」っというアインさんの困惑顔は、それはそれは見事なものでした。
#神獣郷こっそり裏話
アカツキ達にとっては、ケイカの散財癖もアインの迷子癖もそう大差ない物として認識されています。
ケイカとアカツキ。アインとホウオウ。プレイヤーとNPC。立場が逆だったとしても両者ともに同じ反応をしているでしょうね。
ようするに、パートナー側から見ればどっちもどっち!!
なんと700話め!!
まさかここまで続くとは……。
たびたびお待たせしてしまい、申し訳ありません。
更新頑張ります。




