嵐のあとに
「それじゃあ、街まで戻りましょう」
ひととおりピクニックを楽しんでの言葉だ。
みんなの回復も料理と共に済ませたし、ほのぼの配信もさっき終わらせた。あとは街に戻って鳳凰さんか、麒麟さんへの謁見を行いたい。
和種転生進化という新たなシステムも知れたことだし、もしかしたら他の子もなんらかの条件が揃えばシズクと同じように進化することができるかもしれない。そのためにはキャンディの報酬としてもらえる『ビット系アイテム』を集めたり、鳳凰さんから教えてもらえる『特別なスキル』というものが、どんなものなのか知る必要がある。
あと、リアルのほうで妖怪とか神様を検索してみたりとか……それぞれの進化先をイメージできたら、それに沿った進化条件を探り当てることもできるだろうからね。やることはたくさんある!
「あのさ、ケイカ。その、シズクに乗って移動する……とかどう?」
「え、シズクに?」
ユウマはキラキラとした目でシズクを見つめている。頭上から見下ろすシズクの表情は若干困り顔だ。でもこの困り顔は『嫌』というより、『期待されすぎての困惑』のほうが近そう。
でも……龍に乗るとか夢だよね。
日本昔話ごっこ……みたいな。
「シズク、いいですか?」
「クルルルォォォォォン」
透明度の高い、クジラのような澄んだ鳴き声。
了承の意味だろうことは、彼女が体をうつ伏せにして顔だけこちらを見てきたことで理解する。つぶらな瞳がじーっとこっちを見ている。か、か、可愛い。
また鼻先でぎゅーっとしてみたいところだけど、我慢。我慢だ!
シズクの体は森の木々より背が高く、その背中は大木や神社の御神木よりもずっとずっと大きい。本当に大きくなってしまった。狭いところで戦闘するには少し不利かもしれない……ペット化アクセサリー以外に、少しだけサイズを抑えるアイテムはないかな。今度探してみるか。あんまりユウマに頼りすぎるのも面白くないし。攻略本があれば参考にはするけど、やっぱり探したりする楽しみはあるよね。
「さ、乗りましょうか。オボロとジンはペット化アクセサリーで縮めば乗れますね。ちゃんとたてがみか飛膜に掴まっておかないと……アカツキはどうします?」
「クオォ」
翼を広げて少しだけ浮かんでみせるアカツキ。一緒に飛んで街まで向かうという意思表示だね。これは街の人驚くぞ!
「それじゃあ、お邪魔します……」
「僕も……シズク、ありがとう」
「ルー」
恐る恐る背中へ。
背中から両側に羽衣のように生えている飛膜? 皮膜? どっちだろう。うーん、これで飛んでるようにも見えるから飛膜かな? ……その飛膜の間に入って両手で捕まる。私の前にジン、後ろにオボロ。更に後ろにユウマ、そしてユウマの聖獣達は……?
「タイガー、モードチェンジ『キュウキ』」
パトリシアという名前のユニコーンはスキルを使ったのか、一瞬光り宙に浮いて蹄を鳴らした。併走することをアピールしているようだ。
そしてユウマがタイガーという名前の牛に声をかけた途端、牛が激しい電撃の繭に包まれる。
そして繭から鷲の翼のようなものがバサリ、バサリと突き出して生えてくる。
「ガウッ、グガァァァァ!」
――咆哮。
牛らしくない……むしろ凶暴な犬みたいな鳴き声にびっくりしていると、電撃が弾け飛んでその中身が露わになった。そこにいたのは牛ではなくて、虎。
翼の生えた虎がそこにいた。
「キュウキ……って?」
「窮奇は妖怪……っていうより、四凶って呼ばれる中国神話の怪物。でも霊獣でもあるよ。前者だと善人を喰っちゃう怪物。後者だと、逆に悪を喰い滅ぼすって言われている霊獣。ほら、僕の聖獣はみんなカルマ値で特効がつくって言ったでしょ?」
「なるほど……」
「この子も風神の気質がある。空も飛べる。あうんとアメミットは小さくなれるからシズクの背にも乗れるけど、蹄のあるこいつらだと滑りそうだし」
それは確かに。四足歩行の子は掴まるのが大変そう。オボロは私とユウマでサンドするので大丈夫だろうけど。
「んー、いろいろ聞きたいことはありますけれど、先に出発しましょうか」
「おーけー」
怪物でも聖獣扱い……か。まあ天使や神様を悪魔で一括りにするゲームもあることだし、人間と共存している獣はみんな聖獣扱いなんだろう。そういうものだと思えば別に違和感はない。
ユウマのパーティメンバーのこともあるし、まだまだフィールドが広がっているのもあるし、この世界『神獣郷』への興味は尽きない。
大空に舞い上がった私達は、はしゃぎながら大型の聖獣の群れとして街へと向かうのだった。
本日夜、感想返信をいたします。




