シークレットピニャータ三種混合バトル!対策は……『ダブル生配信!?』
「配信、開始です」
口がぱくぱくと動く。しかし自分の耳にはその言葉が届かない。
配信画面には万が一蝶々がいた場合に備えて【ネタバレ・閲覧注意】の文字を書き加え、そして無音動画になっているかもしれないことを説明文に。
『はいつー』
『はおつー』
次々と読み上げられるコメントが耳に伝わり、「あれ?」と首を傾げる。
「私の声は聞こえてますか? 今ちょうど、『連携断ちの羽音』に遭遇して友達の声はおろか、自分自身の声も聞こえない状況なのですが」
はくはく。
やはり自分の声は聞こえない。
『聞こえてるよ?』
『無音動画ってそういうことか。聞こえてんよ』
『シークレットピニャータに遭遇したのね』
『ゲリラ生配信してると思ったらそういうことか』
『えっ、友達って男……? ギリィ』
『やめろよ、もしかしたら男のアバターの女子かもしれないだろ! wktk』
「あ、いやユウマは普通に男ですね。このゲームに誘ってくれた人です。普段はPK鯖にいるので中々会わないんですけど、お互いどうなってるか見たいってことで合流してます」
生配信には音が伝わっている……? どうしてだろう。もし直接音を奪っているのだとしたら、配信にも伝わらないものだと思うが。
「現在、『連携断ちの羽音』と『不可視の大泥棒』二体が確実にいます。不可視の大泥棒のほうは一度撃破済み。透明になって隠れているカメレオン型のピニャータですが、蛇系列が持っている【ピット器官】なら温度感知で居場所が分かります。【感覚共有】を持っていれば共存者のほうも居場所の把握は可能です。けど、音が奪われていて他の人に共有不可能状態なので、ユウマとの連携は断絶。どうしよっかなーと考え中ですね……」
今回はあえてコメント機能を切らない。
なんというか、完全に無音の中で戦うというのは結構きついからだ。
「配信のコメントは聞こえますし、私の言葉も聞こえてるんですよね? こっちだと私自身も自分の言葉が聞こえない状態なんですけど……」
ひとまず状況を全て話して動き出す。
アクアブラストの連射でシズクがキャメレオンを追撃している。キャメレオン対策はシズクやアカツキに任せていればいい。オボロも匂いを覚えているので追撃はできる。オボロが追撃できなくなったら……そのときは蝶々の出現と見て間違いはないはずだ。鱗粉の匂いでかき消されてオボロがキャメレオンを追えなくなる。
ジンは薄い電気を方々に放ってみているようだ。もしかしたら、連携断ちの羽音を探しているのかもしれない。
ユウマのほうも聖獣を散開させ、探させているみたいだ。
『俺らに聞こえてケイカちゃん達に聞こえてないなら、配信用に音は拾えてるわけだろ? なら、ケイカちゃん達の出す音が封じられてるんじゃなくて、耳だけ封じられてるんじゃない?』
『こっちには聞こえてるからね』
『耳以外で連携できればなんとかなるかな』
「耳……以外……」
呟く。耳以外で連携可能なものを考えて。
配信開始してよかった。コメントのみんなは親身になって話を聞いてくれる。聖獣達は積極的にピニャータを襲いにいってこちらに近づけさせないようにしている。
だから、安心して私は考えることができる!
「耳以外で……」
『脳内再生中〜。頑張ってケイカちゃん!』
『うげー、脳内再生とかよくできるね。難しくない?』
『リアルでマルチタスクできるなら余裕でしょw』
マルチタスク。
「それです!」
『へ? 俺なにかやっちゃいました?』
『おいやめろ』
そうだ。脳内再生!
耳が封じられているなら、耳で聞かなければいいんだ。
ゲーム内ならそれは不可能なんかじゃない。ヘッドセットで脳波を測定しながらゲームに反映させている、この状況なら目の前に表示しなくてもスレッドを開いたりネットの情報を閲覧することができる。今までは普通に目の前に表示してたけど、脳内だけで表示して指示を送ることができれば連携はできる!
「――」
「――?」
ユウマに近づき、配信のことを説明。
私からの指示をユウマに伝えるだけなら配信を見てもらえばいいだけ。でもユウマからの指示はこちらに届かない。だから。
お互いに配信する。そして、お互いの配信を視聴する。
そうすれば音声は届く。配信の音声は脳に直接作用して耳を介していないから!
「――」
配信画面をなんとか身振り手振りで開いてもらって状況を把握してもらう。
この場合……アカツキ達には指示が通らないけど、その辺はあの子達も頭がいいから大丈夫なはず。
シズクは元よりキャメレオンを狙ってくれているし、アカツキもその補助。オボロは雪属性ブレスを扱いながら、ときおり私のそばまで戻ってくる。ジンは身軽にあっちこっちにいきながら、ときおりその場で引っかく動作をしてみたり……多分あの子なりに蝶々を探しているんだと思う。
この状況で『蠱惑の幻影』がいないわけがないからね。
「えっと、対策……見つけましたよ。皆さんの言葉のおかげです」
『お、早い』
『なになに?』
『こういうとき強いよなーケイカさん』
「お褒めに与り光栄です。対策ですが――ダブル配信することにしました。配信の声が聞こえるならお互いに配信して視聴し合えば伝わります。ですから、配信内で指示出ししたりするのでご了承くださいね」
『おおなるほど!』
『え、あっちのURL教えて!』
『こっちもダブル視聴しよう』
『あ、ケイカさん。配信内容を音声入力で拾ってスレッドに投下していい? 今見れない人用に、流れをコメント抜きで同時に見れる場所がほしい』
ふうん、スレッドか。
あとで見直すのにちょうど良さそうだし、許可しちゃおう。
「いいですよー。ユウマもいい?」
言いながらユウマのほうへ向けば、頷く姿が見えた。
「あっちもいいみたいですね。なら、スレ立てよろです」
『URL貼っとくよ』
『有能』
『有能』
URLを確認してブックマーク。あとで確認するために記録しておく。
それから、と準備を進めていけばこちらに走り寄ってきたオボロが私の着物の裾を咥えてアピールをする。
首を傾げて見下ろすと、静かにオボロは視線を彷徨わせたあとに伏せをして鼻を両前足で覆う。困ったような表情で首をぶんぶん振るものだから、キャメレオンを匂いで追えなくなったのだと理解した。
――ということは、シークレットピニャータ三種類が大集合か。
「皆さん、良いんだか悪いんだか分からないお知らせです」
『どっちw』
『オボロがいきなり可愛い仕草してる』
『鼻がどうしたの?』
「どうやら、『蠱惑の幻影』も現れたようです。蠱惑の幻影は100、200じゃ収まらないほどの大群の蝶々なんですけど、その中に一匹『サワー・ナイト・イリュージョン・バタフライ』というやつがいるんですよ。そいつがいると『ピット器官』でも探知できません」
最悪だ。でも動画映えするといえばするんだよね。
信仰がたくさん来るといいなあ。
「ピット器官で探知できないのは、体温を発している対象が小さすぎること、そして大量にいすぎてサーモグラフィーでひとつひとつ判別が不可能になることが挙げられます。でも、鱗粉の影響でオボロがキャメレオンを探知できなくなるので出現したこと自体は分かります」
『なるほど、さっきのオボロのサインはそれか』
『鼻が利かないよー> < ってことなのね』
「――」
ジン、分かる?
はじめてのとき、ジンの幸運で真っ先にイリュージョンバタフライを倒すことができた。だからジンに空中を指差しつつ聞いてみたんだけど……。
「――!」
バチリ、と電撃が弾ける。
広範囲に薄く広がっていく電撃……嫌な予感を覚えた私は、配信を見ている視聴者向けに注意喚起をした。
「多分ジンがやってくれます。皆さんは本当に閲覧注意です。大量の蝶々が苦手な人は気をつけてくださいね」
その次の瞬間――暗幕が剥がれていくように、瞬きとともに景色が一変した。
一度経験した地獄絵図。それが再び目の前に。
「さて、やりますか」
視線をシズクに移す。
彼女は「任せて」と言うように頷いていた。
◇
ローディング……。
和種転生進化に必要な条件を検索しています……。
検索結果『龍神種の に該当』
充分な信仰を確認。
『嵐』スキルを確認。
『風』スキル未確認。
『風』スキルを取得してください。
複数回、広範囲の降雨を行う……条件未達成。合計二回の降雨が必要です。
あと一度の降雨が必要です。
あと一度の降雨が必要です。
あと――。
和種転生進化。ロマンですよねこういうの。
今までずっと、和風モデルでも名称はカタカナ表記でした。和種転生進化はちゃんと漢字表記に変化します。
キーワードは
龍神
嵐(暴風雨)
降雨
あと進化後のスキルに狂化が入るでしょう。
さて、なにに進化するでしょう?




