生配信じゃなくてよかったー!
ひらり、ひらり蝶が舞う。ひとつ、ふたつ、みっつと数えきれないほどに。
どこを見ても視界いっぱいに広がるその光景は――正直なところ気持ち悪かった。
蝶々はそれほど嫌いじゃないし、なんならカラフルで一匹一匹はとても綺麗で可愛いんだけど……それが大群となるとまた違う。
閲覧注意! と動画の説明文につけなくちゃいけなくなりそうなほどに、それは虫が苦手な人にとっては地獄のような光景だった。
生配信じゃなくてよかったー!
まさにそう思った瞬間。
「うぶふっ」
口元に蝶が当たって砕け散り、虹色のエフェクトが弾ける。
私は女の子らしい悲鳴なんてあげている暇もなく黙り込むしかなかった。
現実だったら確実に鳥肌が立ってうぎゃーっ! と叫んでいるところだよ。ゲーム内だと鳥肌って立たないんだね。いらない発見をしてしまったかもしれない。
「あ……?」
あれ、そういえば敵が砕けるときのエフェクトって虹色じゃないよね?
嫌な予感を覚えてステータスを――開けなかった。
否、開けなかったのではなく、勝手に疾風の舞を踊り始めてしまったのだ。いつもやっているオリジナルの舞の仕方ではなく、恐らくシステム的に定められた『疾風の舞』の動きで。いや、めっちゃ動く! 派手だね疾風の舞!
「ケイカ、どうしたの? さっきバフかけたばっかりじゃない?」
「あー、あー、テステス。言葉は出ますか」
爆発物を投げるのをやめ、いぶかしげにこちらを見るユウマ。
ひとまず説明のために口を開けば、一応言葉は変にならないようだった。これで言葉まで縛られたら大変なことになるところだったね。
「えーっとですね、ちょっと体がいうことを聞かないといいますか……今ステータスを開こうと思ったんですけど、そうしたらこうなっちゃいまして。ステータス開こうとしてるのに疾風の舞が出るっていうのはちょっとおかしいですし、パーティメンバーの状態異常の欄を見てください。多分なにか状態異常にかかってます」
「おっけー、分かった」
聖獣達が私の周りに集まってくる。
今迂闊に動こうとしたらどこに行くか分からないし、守ってもらうしかない。
蝶々が倒されるたびに光るキラキラとした黄色や紫のエフェクトが景色を幻想的に、綺麗にしているけど、あれはやっぱり倒したとき特有のエフェクトではなさそうだ。となると、状態異常特化型っぽい蝶々の種類からするに、黄色は麻痺。紫は毒。
あとはイリュージョン……幻覚で蝶々がいないように見せかけていたやつだけだと思っていたけれど、まだ別の状態異常のやつがいるのかも。
「ん、把握した。ケイカが今かかってるのは『反転』だね。やろうとしていることとまったく真逆のことをしてしまう状態異常。しばらくしたら終わると思うけど、異常回復薬もあるからちょっと待って」
ええ、『反転』かあ……普通のゲームなら反対に動かせば思い通りになるだけじゃんって状態異常かかったまま動けるけど、それをVRでやってくるとか鬼畜かな?
混乱する。
つまり脳から送られた電気信号と、まったく別の行動に反映させて表してるわけでしょ? これ、悪影響出ない? 大丈夫だよね? メーカーに対する信頼はあるけど、微妙に不安になる。現に今、一度行動が変になっただけでものすごく酔うような、気持ち悪い、気分の悪い状態になっている。
もう少しなんとかならなかったのこれ……。メール送ろ。
「あ、待ってユウマ。顔面は! 顔面はやめっんあー!」
投擲された回復薬のビンが顔面で割れ、もろに液体を被った。
目の前にビンが迫るとか普通に怖いからね? やめてね? 嫌がらせか? ユウマに嫌われてんのかと一瞬疑問になるじゃないですか。
「あ、ごめん」
「許せるかっ! 回復薬使うとき顔面に投げてやりますから!」
「う、うん。ぜひそうして」
「え、やだ……ドMですか? 引くわ……」
「そういう意味じゃないの分かってて言ってるよね?」
「はい、もちろん」
「もう」
と軽いやりとりをしながら立ち回る。
状態異常を仕掛けてくるやつがそこら中にいるので慎重に。
アカツキ達聖獣が数を減らし続けてくれているが、それでも見た目はなかなか減っていかない。どんだけいたんだよとか、これなら手に入るキャンディの数もうはうはだよねとか、そういうレベルじゃない。
しかもこの中に、さらに透明になったキャメレオンまで潜んでいる。
そいつの襲撃もあるわけで……やはり先に蝶々を一斉に無力化する方法を考えなければならない。
蝶々が苦手なものってなんだろう……?
それも、一瞬でたくさんの蝶々をどうにかする方法なんて。
考えろ、考えろ!
この状況を突破する、最善の方法を!
誤字報告・感想いつもありがとうございます!
あとないのはレビューだけ……! もらえるくらい素敵な物語を描けるよう、尽力いたします!




