乱入?蠱惑の幻影!
「なんかこういうやつ見たことある気がするんですけど!」
「奇遇だねケイカ。まさか直接対峙するようなゲームで会うとは思わなかったな」
蛇腹折りの舌が伸びて来て地面を叩く。
「うるなぁーん!」
それに飛びかかったのは大きな猫のジン。
相手は動いているとはいえ、紙でできたアイテムだ。爪を舌の部分に引っかけて全身から電気を流せば、舌先から焼け焦げて炎が発生する。
しかし相手もむざむざ焼かれるままになっているわけではない。
燃える舌先を自らの爪で切断して引火していくことを防ぎ、その場でキャンディをどこからか取り出してばっくりと捕食。あとに残った包み紙で舌先を再生した。
「そんなのありです!?」
「包み紙って……もしかしてこれ、消費され続けたらドロップするキャンディも減る? それはちょっと困るな」
「ツッコミどころが思っていたものと違うっ!」
って、変なやりとりしている場合じゃないね。
ユウマのアメミット……カルマが噛みつきにいったと思ったらその場で食い千切った部分が凍りついたり、光の球のようなものからレーザーを射出したりとキャメレオンを攻撃する。
確か、道中でアメミットは太陽と雪の属性だって言ってたかな。
烈氷牙に、太陽の光を込めたソル・レイ。
ユウマの聖獣は対人特化で、こうした野生戦だと真価は発揮されない……けど、普通にレベルが高いので攻撃は結構通っているはず。
このゲームはHP表示がないので、あとどのくらい攻撃すればいいのか分からないのが難点というくらいで。
「オボロ、意地でも匂いを覚えて!」
「わふん!」
ときおり感覚共有で視界を切り替えながら透明になったキャメレオンを探す。
私とシズクしか分からないのはあまりにも不利すぎる。だからオボロにも居場所を探れるようにしてもらわねばならない。
「アカツキ、クリムゾン・フェザーで足を狙って!」
「ケェーッ!」
炎を纏った羽根が足に突き刺さり炎上。その場に縫い止めることで移動を抑えて、見えずとも攻撃できるように。
「あうん、狐火の舞」
「コーン!」
一本尻尾の狐さんがその場でくるりと回転すれば三つの火の玉が発生してキャメレオンへ向かう。
「防御力低下デバフだから今のうちに叩き込んで」
「なるほどデバフ特化」
ユウマの情報は最低限、特に聖獣の名前と属性くらいしか教えてもらわなかったために連携するにしても新鮮だ。それぞれどんな戦いかたをするか分からないからね。
「また見えなく……」
視界を切り替えてキャメレオンを追う。
木の幹に張り付いてるとか? 違う。花畑で植物食べてるか? 違う。どこだ。
「ヴォン!」
鼻をひくりと動かしたオボロが、頭上に向かって吠える。
「ッ、クェーッ!」
瞬間、アカツキが飛び上がり私の頭上に突進していった。
そして衝撃音。透明ななにかにぶつかる形でアカツキが弾かれ、炎を撒き散らしながら強く羽ばたく。なおも突進するアカツキの足が『なにか』をガッチリと掴み上空へ舞い上がった。
透明なままだがときおり波打つように姿――ぐわりと噛み付いたり舌で巻きついたりしてくるキャメレオンをクチバシで突き刺し、ついばみながらも空へ、空へ。十分な高さに達した頃、身を翻してキャメレオンを放り投げ、空中でどうすることもできないその体に鋭い蹴りをたたき込んだ。
「グルルルギャァーッ!」
ダメージを負って落ちていくキャメレオンに対して、追ってアカツキも翼を折り畳んで突っ込んでいく。
「オボロ、地面を氷漬けに! 落下地点は……そう、そこです。でっかい氷柱でも作って串刺しにしてやりましょう!」
「こわ」
「うっさい!」
PK鯖民に言われたくないかな!
「オオオーン!」
オボロが辺りを凍りつかせていき、鋭い氷柱が作られる。そこへ向けて落下してきたキャメレオンがグサリと突き刺さり……赤いエフェクトと共に体に大きな風穴が空いて氷が砕け散る。多分、それだけ叩きつけた際の衝撃が強かったからだ。
後から追いかけてきたアカツキが追い討ちをかけるように蹴りを入れ、また舞い上がる。オボロの氷とアカツキの炎、そして落下時の衝撃で土煙が上がった。
「やったか?」
「待ってください、それフラグ」
変なことを言うユウマに文句を言って、現場から目を離さないようにする。
視界を切り替えて見てもキャメレオンは動かない……しかし、そもそもエフェクトと共に消失しない時点でまだ倒し切れていないということになるのだけど……。
「いや、だって赤いエフェクト散って消滅してないか?」
「え? だって感覚共有だとちゃんと見えてて……」
こちらを騙すための罠? 幻覚?
とにもかくにも、ユウマの視点だとしっかり消滅するエフェクトが入ったということだけど……そんな死んだふりが成立するのかな。
警戒を解かないままにキャメレオンのいるだろう場所を見つめる。
「いや、終わりのはずがない……ですよね?」
「うなーん!」
自分の感覚に自信がなくなってきた頃、走り寄ってきたジンが私へ思いっきり飛びかかってきた。
じゃれつく癖がついているらしくて、小さいときも大きいときも私を押し潰す勢いで抱きついてくるんだよね、この子。
「待ってジン、おっきいときにそれやったら潰れちゃいま、す……!?」
言われて気がついたらしいジンが、飛びかかろうとしてから直前で前足を振り下ろし、ブレーキをかけた……そのときに、同時に爪に引っかかったらしいカラフルな紙のようなものがひらりと舞い落ちる。
「え?」
地面に落ちたそれをよく見れば、真っ二つになった蝶々のようなピニャータで、そいつが赤いエフェクトになって完全に散る。そして一瞬のまばたき……その間に、私達が見ている景色は一変していた。
視界いっぱいに映り込む粉、粉、粉。蝶の鱗粉。
100、200、いやそれ以上の蝶々の群れが視界いっぱいを埋め尽くすようにして羽ばたき、一匹一匹は綺麗でも無数集まると気持ち悪さしか感じない景色。
そして、既に起き上がってこちらに舌を伸ばすキャメレオン。
まるで今まで見えていなかったものが見えるようになったような変化だった。
「うそ、蝶々なんて分からなかったのに……どうしてこんなにいるのに気がつけなかったんでしょう」
「体温を持ってる部分が小さすぎて、周りとの変化がほとんどないからじゃないかな? それならサーモグラフィー状態でも感知できない」
視界を埋める気持ち悪いほどの蝶の大群に毒を撒き散らすキャメレオン。最悪な組み合わせに口元が引きつった。しかし、これはこれで動画映えするというもの……負けなければね。負けるつもりなんてないけどさ。
「オボロ、一斉に凍らせてしまってください」
「オオーン!」
一部を凍らせて踏み潰す。
しかし数が多すぎてちょっと追いつきそうにない。なんせ喋れば口の中に入ってくるんじゃないかというくらいの大群である。
カラフルな蝶達はそれぞれ見覚えのある翅の色をしているため、それぞれが状態異常特化であろうことを考慮。
図鑑を確認してみれば……。
――――――
『蠱惑の幻影』
サワー・ナイト・スリープ・バタフライ
サワー・ナイト・パラライズ・バタフライ
サワー・ナイト・ポイズン・バタフライ
――――――
それぞれの色に対応して名前が決まっているみたいで、あからさまな状態異常特化に思わず苦笑いをした。
ジンが倒した蝶々と同じ色が見当たらないのでログをさっと確認すると、ジンが倒したのは『サワー・ナイト・イリュージョン・バタフライ』ということになっている。そいつ一匹が幻覚を見せて、他の大量の蝶々をカモフラージュしていたらしい。
最初からこの場はシークレット・ピニャータが二種類いた……ということだ。
「鬱陶しいですね……けど、これはますます動画映えもしますね?」
「虫が苦手な人向けに注意書き入れとくのを忘れずに」
「あ、はい」
しかしやることは変わらない。
鉄扇で手近な一匹を叩き落としても普通に倒せるようだし、キャメレオンに注意しながら全部倒すだけだ。
「第二ラウンドと行きましょう」
苦戦するわけではないけど、鬱陶しい。
なにか蝶を一気に無力化できる案はないかな……そうして、私は考えを巡らせていくのだった。




