幸運の爆弾魔!? 幼馴染も人外プレイヤーだった件
現在……。
ケイカ レベル25。
アカツキ レベル25。
オボロ レベル23。
シズク レベル15。
ジン レベル10。
ジンは例によって例の如く、ブラッシングとお店で買った猫じゃらしで遊びに遊び、最初の進化を迎えている。
スキルはとりあえず欲しいものができるまで保留中。
ジンの種族は今、『ライトニング・フォーチュン・キャット』だ。多分、フォーチュンは運勢のほうの意味かな? オスの三毛猫の姿をしているわけだし。
世界的に三毛猫のオスはものすごく珍しく、幸運の象徴なんだとか。だから、ジンを連れて宿屋に帰ったあと、ルナテミスさんのところにいったらもみくちゃにされちゃったんだよね。
そのせいでジンは彼女のことを嫌いになっちゃったようだけど……肝心のルナテミスさんはまったく懲りてない。猫好きだからしつこくするのはNGだって分かってるだろうに。それだけ珍しくて、テンションが上がってしまったのかもしれない。
ついでにユウマのほうは全員レベル30台だ。
最先端が40以上と考えると低いのかもしれないけれど、彼らは相手がPKしていればしているほど有利になっていく特性のパーティなので、いわゆる格上殺し……ジャイアントキリングが可能だ。だからこそ、魔境である『あり鯖』でもなんとかやっていけているんだと思う。
堅実に、不意打ち特化として。そう、思っていたんだけどなあ?
「メテオ!」
パァンッ! とユウマが剣先で示した先のピニャータが爆発して自動的にドロップしたキャンディがアイテムボックスの中に入ってくる。
メテオとは?
爆発。爆発。爆発。ついでにシステム的な履歴を見れば、爆発のたびに発生する『critical!』の文字。
なにこれどういうこと?
舞姫らしく速度上昇と攻撃上昇の全体バフをかけつつ、首を傾げる。
次々と現れるいろんな種類のピニャータに対してアカツキやシズク、大型犬サイズになったジンがじゃれるようにして倒していくが、ユウマとその仲間達の挙動が不思議すぎて目が離せない。なにあれ。
「あの、ユウマ。メテオってそんなまほ……霊術でしたっけ?」
本来は魔法とそう変わらない認識なので言い間違えそうになる。が、このゲームでは魔法イコール霊術だ。
「ケイカなら別にいいかな」
「え、なにがです? ってステータス……は!?」
他人のステータスは特に意識して見ようとしなければ見ることはなく、パーティを組んでも常に見えるのは体力とSPのみ。だからまったく気がついていなかった。
「幸運極振り……ですって?」
「うん、そう」
そこにあったステータスは見事に『幸運』以外ゼロの羅列。
「ちょっと黒騎士なんですから剣を使いなさい。剣を」
「剣はフェイク。霊術の目標を定めるための道標的な役割だね。器用値がないから目測で霊術当てないといけないし」
「しかし、SPも少ないのに剣でなくて霊術遣いなのはなぜですか? それにやっぱり、メテオって爆発する霊術じゃないですよね?」
「その通り。霊力がゼロの状態だと、バフデバフとかの身体強化、弱化以外の霊術は失敗するんだよね。んで、自分に見合わないコストのでっかい霊術を使おうとすると、大失敗になって小規模な爆発が起こる。でもこれにもダメージが発生するから……」
その小規模な爆発ダメージを全部『幸運値』で『クリティカル』にしてしまえと? 確かにものすごい威力出ているみたいだけど、騎士の定義が問われる。
騎士、とは。
「あとはほら、ほいっと」
ユウマが懐から出したビンを空を飛んでいるピニャータに投げつけた。
するとビンが割れ、一瞬チラリと炎が見えたかと思うと次の瞬間――爆発。
「爆薬ビン」
「うわ、爆弾魔じゃないですか、引く……」
「引かないで、幼馴染でしょ」
「都合の良いことに幼馴染を引っ張り出さないでください。爆弾魔の友人とかちょっとイメージ崩れるんで他人のフリしていいですか?」
「ひでー」
私は口元を和服の袖で覆って身を逸らし、ドン引きの動作。
対してユウマはショックを受けた顔でこちらににじり寄る。
「わりと切実に」
「え、嘘だよね? ねえケイカ」
「嘘です」
「ならいいんだ」
あからさまにほっとした様子に笑う。
まさか自分以外にも極振りなんてやる人がいたのかとびっくりしたけれども、ゲームなんだし、そういう変わり種を試す人がいっぱいいても不思議ではない。
「ちなみに僕のは幸運爆弾魔の中でも見た目でまず騙すタイプ。他にもヒャッハーしてる人とか、料理スキルでわざと失敗して毒を作り上げて投げつける暗殺タイプとか……」
暗殺の定義が問われる。
というかPK鯖のイメージが内容を聞くたびに世紀末になっていくんだけど。
なし鯖でよかったぁ。平和で優しくて不殺可能なゲームでほのぼのできればいいんだよ私は。配信でみんなの可愛さを広められればそれで満足。
「みんな、いったん休憩ですよ。おいでおいで」
あ、そうだ。配信どうしよう?
男のゲストって絶対荒れるよね……それにこの様子だと爆弾魔なのはPK鯖にいる人は知ってるだろうし、掲示板見る人は噂くらい知ってそうだ。ある意味盛り上がりそうな気もするけど、事前告知していないとユウマが叩かれそう。
今回はちゃんと告知しよっと。
ピニャータ追うのも慣れてきたし、夕方の一時間くらい配信しようかな。
「はい、アカツキ。あーん」
「くー」
休憩にやってきたみんなの前で、ボックスからアップルパイをひと切れ取り出して、雛鳥のように口を開けるアカツキに与える。
「オボロもあーん」
「わふ!」
喜んで口を開けるオボロ。体が大きいので一口でぺろりだ。
「はい、シズクもね。あーん」
「る」
若干顔を逸らしていたシズクは恥ずかしいらしく、控えめに口を開ける。可愛い子だなあ。
「ほい、ジンもあーん」
「なあーん!」
ジンはまだ他の子と違って、まだ常識的な大型犬サイズだから少しずつぱくりぱくりと食べていく。そして最後に自分もアップルパイを食べて体力とSPの回復。このアップルパイは両方回復できるからお得だ。
「ねえ、ケイカ。僕には?」
「ない」
「即答!?」
「こういうのはPK鯖だと自分で用意するんじゃないんでしたっけ?」
「そうだけどさ……」
言いながらユウマはおにぎりをいくつか取り出した。
そして私と同様に、自分の聖獣達に配っていく。
馬や牛がおにぎりを食べるというちょっと奇妙な絵面だけど、彼の聖獣達も可愛いのでしばしの『ほっこりタイム』となった。
「よし、説明もしたし、次行くか」
「りょーかいです。もっと奥に行きましょうか。人も増えてきてピニャータの取り合いが発生してきてますし」
「なら滝壺のボスフィールド近くから少し外れた場所とか」
「いいですね。ボスフィールド近くそのままだと人がいそうですし、そこから逸れた道で」
話しながら歩いていく。
和やかな一幕であった。
◇
森の奥深く。足を踏み入れピニャータを狩る三人パーティがそこにいる。
次々とピニャータを狩り満足するプレイヤー達はキャンディの数を数えながら大声で喜びのハイタッチを交わしあっていた。
しかし、幸せなひと時もつかの間の出来事。
一人が、唐突にその場で倒れた。
「え? ちょっとどうしたの?」
風でざわつく森の中、歪む景色。
ペタリ、ペタリとした小さな足音は風の音でかき消されていく。
「な、なに!?」
衝撃。
動揺していた一人が首の後ろを強く叩かれたように前屈みになり、その場に倒れる。
「うそ、どうなってんの!?」
最後の一人は怯えながらキョロキョロと辺りを見回す。
しかし、歪んだ木の葉や地面を見ても彼女は気づくことなく、他の二人と同じようにその場に倒れた。
『麻痺』
『猛毒』
『沈黙』
三つの状態異常に彩られるステータス。
彼女達の聖獣もその四つ足で辺りを見回すものの、なにも見つけることができず、やがて同じように倒れてしまう。
声を上げることもできず、体を動かすこともできず、毒を解除することもできず、このパーティメンバーは光の粒子となって始まりの街『アルカンシエル』に戻っていく。
この日、『王蛇の水源』でピニャータ狩りをしていたパーティのいくらかが、こうして全滅する事態が起きた。
それは、PKのないサーバーの根底を揺るがす大事件。
「しゅるるるるるる」
一瞬だけ姿を現した犯人は、長い長い舌でプレイヤーからドロップしたキャンディを回収すると、再び木々の中に体の色を溶け込ませるように消えていく。
――――――
シークレットピニャータ、『不可視の大泥棒』が現れました。
シークレットピニャータ、『蠱惑の幻影』が現れました。
シークレットピニャータ、『連携断ちの羽音』が現れました。
――――――
それは、鳳凰らイベント主催者が言及していた『強い敵性反応を示すシークレットピニャータ』の出現である。
ケイカ達の向かう先にそれが待ち受けていることを、彼女達はまだ知らない。
今夜辺りに感想返信しますね。
いつも誤字報告、感想ありがとうございます!
バトル多め……熱く、格好良く書けたらいいなあと試行錯誤中。
霊術失敗についての詳細は次辺りにでも。
簡単に自分のレベルに合わない上位スキルだった場合のみ大失敗になり、爆発を伴う。それ以下なら普通の失敗でスカるだけ、みたいな。霊力を1でも振ってればこうはならない感じですね。




