†黒騎士†との合流
「お待たせ」
「……遅いんですけど」
噴水広場でジンのブラッシングをしているところに、ようやく待ち人が登場したのだった。
意識してジト目になって見上げれば、ツノの生えた白い馬に乗っている黒い騎士がそこにいる。
「っふ、もしかして、迎えに来た白馬の王子様をやりたかったんですか? それやるなら厨二病全開の暗黒騎士みたいな格好じゃなくて、白系統の王子様スタイルで来てほしかったですね。いやー、似合わない。似合わない。あと遅刻は普通にギルティです」
「うっさい! ただ単に遅れただけだよ! ごめん!」
「素直でよろしい」
澄ました顔で馬に乗っているものだから、思わずからかいの言葉が口をついて出てきてしまった。
馬から降りてきた遊馬……プレイヤー名ユウマに「本名まんまじゃん」とブーメランが刺さりそうなことを考えながら、彼の仲間達を見やる。
馬……多分ユニコーン。さらに後ろに牛。ツノにときおりパチリと電気が伝う様子があるので雷属性かな? それから彼の横に木の葉がはらりと落ちれば、そこには赤いバンダナを巻いた白い狐さんが現れる。それと……このこはなんだろう? ライオンのような……ワニのような……不思議なキメラじみた生き物がいる。
まだ見たことがない牛に狐さんまで!
うう、もふりたいけど今は我慢。
……彼の聖獣はこの四匹のようだけど。
「えっと、ユウマは動画見てるんでしたっけ」
「うん、君のパーティの子は把握してる。元ニワトリのアカツキに、こないだ進化したオボロに、水源で仲間になったシズクに、高原で仲間になったジン……で合ってるよね?」
「合ってます」
「それにしても、普段丁寧語でもないのに、こっちではこうも丁寧だっていうのが違和感すごいね」
「うっさい。いかにも『暗黒騎士です』みたいな格好をしている癖に口調がナヨナヨしてる君に言われたくないですよ」
「格好いいでしょ?」
彼は胸を張ってドヤ顔をした。おいおい。
「嫌味へのスルースキル高すぎません?」
「照れる」
「なぜそこで照れる!?」
「ケイカ、化けの皮が剥がれてる」
「素と言ってくださいます!? あと化けてなんかいません!」
気安いからこそポンポン進む無駄な会話に疲れてしまいそうになる。調子が狂うというかなんというか。
「しっかし、すごい装備ですね」
「マイデザイン。自分でアイテムも調達して自分の生産スキルで作ってる。いやー、リアル技能って大事だよね」
「え、マニュアル操作で作ってるんですか……? これを……?」
上から下までデザインを眺めてみる。かっちりした黒と金の軍服に黒いマント。そして所々に鎧がついたデザインの装備だ。全体的に黒いので夜闇に紛れたら見失いそうな見た目である。しかしこれを自力で製作するとなると、相当のセンスと技術が必要そうなんだけど……この人、自作するタイプのコスプレイヤーだからなあ。
「PK鯖でよくそんなの作れましたね」
「むしろあっちだと、自力で作る以外に信用できないよ? ちゃんとした性格と技術の人選ばないとアイテムを持っていかれるだけとか、わざと最低な装備を渡されるとか、ぼったくられるとか、装備納品したその場で襲ってくるとか」
「こっわ」
PKサーバー魔境すぎない?
「もう自分しか信じられない……みたいな? 自分自身のほうがよっぽど信じられないものなのにさ。まあ、誰かに任せて後悔するくらいなら行動するよ。先にできる後悔はないってね」
「その前向きな卑屈っぽさどうにかならないんですか?」
「あっちも結構楽しいよ」
「そうですか、絶対行きたくありませんね」
感覚麻痺してるんじゃないの?
とにかく、幼馴染がいつも通りなのは安心した。でも同時にそんな魔境でやっていけるほど強かなのも確認した。私にはとても無理だが。
「そうだ、君の最初のパートナーは馬なんでしたっけ。ならそのユニコーン?」
「そうだよ。ユニコーンのパトリシア」
「ユニコーン……ねぇ……? 君自身もユニコーンだったりするんです?」
「まるで品のない質問をするのはやめてくれない?」
「失礼、わざとです」
「素直だね!?」
「それで他の子達は?」
「あ、話続けるんだ……こっちの牛はタイガー。狐はあうん。それでこっちの子は……カルマ」
牛なのに虎とはこれいかに……。
最後に。ワニとライオンを思わせるキメラを指差して彼が答える。
しかし明らかになにかの幻獣をモチーフにしているだろうこの子のことが気になって、ユウマに尋ねることにした。
「ふむふむ。キメラっぽい子の名前はカルマ、と。その子はどんな聖獣なんですか? 普通の動物モチーフではないですよね?」
「……こいつならいっか」
ぼそりと彼が呟いて、手で招いて『カルマ』を前に立たせる。
「こいつの種族名は『アメミット』猫からの進化だよ。進化条件はちょっと話せない。ごめん。えっと、アメミットっていうのは――」
彼の説明によると、アメミットはエジプト神話の幻獣の名前なのだそうだ。
アヌビス神と一緒にいて、冥界にやってきた死者の裁きに関わる。転生前の裁判で真理・真実の象徴である神の羽根よりも死者の心臓が重かった場合、その心臓を食べて裁くのだという。
喰われた魂は二度と転生できず、霊魂の不滅が信じられていたエジプトだと、心臓をアメミットに食べられることは永遠の破滅を表すのだとかなんとか。
なるほど、カルマ。業の名前はそこから?
でも猫のときからの名前なんだろうし、偶然か?
「こいつは元からちょっと特殊なスキルを持ってたんだよ。他人のカルマが見えるっていうスキル」
「あ、なるほどそれでカルマ」
「そういうこと」
ユウマが頷いて微笑む。
「プレイヤーキルとかしてるとカルマが溜まっていくんだけど、こいつらみんなカルマ値が高い相手に攻撃力が上がったり、必殺になったり、カルマ値に比例して継続ダメージが入ったりするスキルがあるからさ」
「こいつら? この子達みんな!?」
「そう」
なるほど、これでユウマがPKサーバーで今までやってこれた理由が分かった気がする。あちらのサーバーなら、そりゃ活躍できるよね。
「えー、格好いいじゃないですか」
「そ、そう?」
「うちの子が一番可愛くて強くて格好いいんですけどね!」
「あ、うん。君らしいよね……そういうところ」
互いの情報を交換しながらその場でお昼になるのを待つ。
彼の聖獣達のことももふもふさせてもらえて大満足した頃……広場に鐘の音が鳴り響いて、頭上に大きな影が差した。
「無事、今日のこの日を迎えられたことを嬉しく思う! 皆のもの、このめでたき日によくぞ集まってくれた!」
空高く、しかし私達に姿がよく見えるように飛んでいる鳳凰さんだ。
「あ、こっちの鳳凰は男性寄りなんだ」
そんな隣の呟きを聞き流しながら、プレイヤー達はみんな鳳凰さんに注目する。
そう、イベント開始時刻になったのである。
これから楽しい楽しいイベントの始まりだ!




