再会、うさぎのご令嬢!
イベント当日……。
お祭り騒ぎのその喧騒の中に、私は足を踏み入れていた。
色とりどりの紙でできた丸い円盤みたいなのが吊るされていたり、カラフルな卵形のなにかが吊るされていたり……『キャンディ・ピニャータ・パニック!』のイベント名の通りにカラフルなそれがあちこちに飾り付けられている。
ピニャータは紙でできたくす玉人形で、中にキャンディなどのお菓子を入れて、お祝いの席で割って中身を食べる。そんなアイテムなのでそこら中にあるものも中身はお菓子だ。
また、聖獣をモチーフにして、けれどもっとカラフルにした可愛らしいピニャータがあちこちの店頭に飾られていたり、吊るされていたりする。お店もカラフルに彩られ、アルカンシエルの街全体がお祭りです! と全力でアピールしているような感じだね!
そんな中、私は今までレベル上げとステータス振りに集中して我慢していたとある店へと急いで向かっていた。
一日、二日ほど学校の宿題をやったり、少しだけゲームを控えていたのでその『店』にも行けていなかったんだよね。まあ、おかげで夏休みの宿題も三分の一くらいは片付けた。ゲームを早くやりたいからという情熱の賜物である。
朝早くから宿屋でログインをして、ベッドの脇にあるテーブルに現れている卵を回収。一週間でアニマ・エッグ・ジュエリーもほぼ毎日集めているし、一度ストッキンさんに装備を預けて強化してもらっている。
その結果、スカートの両脇のあたりが微妙に長くなったり色々とデザインにも手が加えられていたり……。
私の専用掲示板を見てドン引きをしたり……色々あったけど、ついに今日再会できるんだ!
ワクワクを胸に角を曲がって、一度訪れたその場所へ。
ジンもレベルは8くらいまで上げているので足手纏いにはならないようにしてある。これからまたどんどん強くなっていけばいいことですし!
ペット化アクセサリーで小さくなったみんなと走る。走る。
そして、周りの店よりもいっそうカラフルで、店の前にたくさんの『うさぎ』のピニャータがある場所へと向かった。
カラン、カランと扉を開けた際の音を聞きながらカウンターへ。
え、あれ? え?
『彼女』の変わりようにちょっとびっくりしながらも声をかけた。
「リリィ!」
「あ、ケイカさん!」
たくさん来ている客に対処しながら顔を上げた彼女は、パアッと顔を明るくして嬉しそうに声を上げた。その衝撃で、彼女の頭の上に揺れる片方だけ垂れたピンク色の兎耳がぴょこんと揺れる。は? え? 可愛すぎでは?
前より衣装的にも表情的にも、もっと可愛くなってない? え、反則でしょう! なにあのバニー耳! 白とピンクのエプロンドレス! ふわふわの巻き髪! ザ・兎耳のご令嬢! なにあれー!?
内心混乱しつつもお客さんのいる列に並んで十分ほど。心を落ち着けていたらようやく順番が回ってきたので、カウンターで話しながらアイテムの購入を進めることにした。
「お久しぶりです! ほら、こっとんも」
「!」
彼女の肩のあたりからピンク色のうさぎ……こっとんが顔を出す。その顔を覗き込むとブルーの瞳に浮かぶピンク色の月。あれ? 前は目が赤くなかった?
「その、リリィ。その格好とこっとんの目の色は?」
「ええ、この格好はこっとんの専用装備ですね。和解したことをしっかりと示すために、常にこの装備でいろとの条件で監獄から釈放されたのですわ。この耳と……この尻尾は罰も兼ねているので装備が外せないのですが」
彼女がくるりと後ろをむけば、確かにスカートのところから丸い兎の尻尾がちょこんと見える。後ろに並んでいる人達の黄色い悲鳴は聞かなかったことにした。
「なるほど、それではこっとんの目は?」
「目が赤かったのは、魔獣堕ちしていたからなのです。本来は夜空に浮かぶピンクムーンがこの子の種族の特徴なのですわ。こちらが本来の姿ですの」
「へえ、どっちも可愛いですけど、今のこっとんはリリィと瞳の色がお揃いですね!」
「……そうなんです。うふふ、そう言っていただけるとすごく嬉しい……な」
照れたように頬を染めて目を細める彼女に、私も笑顔を向ける。
もしかして、前のほうが好きとか、今のほうが可愛いねとか、そういうことを言われると思っていたのだろうか? 私がそんなことを言うはずがない! どっちも素敵に決まってるでしょうに!
「ケイカさんは猫ちゃんが増えましたね」
「ええ、この子はジンです。よろしくお願いします! オボロもシズクも進化しましたし、今度たくさんお話したいのですが、空いている時間はありますか?」
「それなら、夕方の6時にはお店を閉めるのでそのあといかがですか?」
「分かりました。楽しみにしています! あ、このピニャータください」
「はい、どうぞ。ひとつ50ゴールドです」
「え、半額」
「ケイカさんは恩人ですから」
なるほど。知ってはいたけれど、これがストーリークエストクリアの恩恵か……ゲームの仕様だとしても、すごく嬉しい。
これからも仲良くしたい。でもいつまでも店頭で話しているわけにもいかないからと、ニワトリとオオカミ、ヘビにネコとピニャータをひとつずつ小さいものを購入した。
「それでは、お待ちしていますね!」
「また来ます! リリィ、これからもよろしくね!」
「こちらこそ!」
商売繁盛で忙しそうなリリィの店を離れる。新装オープンした彼女の店はすごく可愛らしくて、あんなところなら毎日でも通えちゃうなと笑った。
「さて、これから遊馬と合流です。みんな、キャンディを食べながら行きましょうか」
「クー!」
「うぉん!」
「るー」
「みゃあん」
足元にオボロと、オボロに乗ったアカツキ。首にシズク。頭の上にジンの布陣で賑やかな街道を歩く。
お昼頃になればイベント開始だ!
その前に幼馴染と合流するべく、私は中央の噴水広場を目指すのだった。
さてさて、ようやく今回からイベント編開始!




