レベルを上げて、いざ雷獣戦へ!
雷峰高原。シズクのレベルを10まで上げたところで、経験値回収効率が悪いなと判断した私達は、その奥地に進んでいく。
ちなみに、ステータスはオボロのみ上げるだけ上げている。とある目的があって、霊力値を底上げしたのだ。それとレベルが20に到達したのでスキルをひとつ取得している。進化はいったん止めておいて、スキルレベルを上げるのとステータスを上げることに集中しているのだ。
これでやりたいこともお試しでできるようにはなったし、これで次の動画は決まりだね! なんて話し合ったりして。
そして、枯れ木の中に違和感ありまくりの状態でそびえ立つジェム・ツリーでガチャを回しつつ、辿り着いたボスフィールドに私達はいた。
配信を開始して『配信乙』の言葉に挨拶をしながら手を振る。鳥居をくぐってからはコメント機能も一旦目に映らないようにして、ボスフィールドを眺めた。
慣れてきたらちゃんとコメントを見ながらゲームをできたらいいな。
「さて」
ところどころに電気がパチリと走る地面が剥き出しの広場。
その奥、大木のある場所に近づいていくと雷が落ちてきて、木を真っ二つに貫く!
その中から立ち上がったのは雷とともにやってきた、全身が電気に覆われた獣――『ライジュウ』だ。
電気がまとわりついていて見えづらいが、ライオンとも、虎ともつかない顔立ちをしている大きな身体が特徴で、尻尾をぴしゃんと振るたびに、小さなイカヅチがその場に走る。
――そんなボスの相手を、私達はこれからするのだ。
「スピード上げて行きますよ! 【疾風の舞】!」
「あおーん!」
舞をする前に飛びかかってきたライジュウの攻撃をオボロに乗って回避し、【疾風の舞】を踊る。敏捷を底上げするオボロの【ウルフ・ステップ】に合わせて鉄扇を振れば、緑色のエフェクトとともに全員に舞の効果が付与された。
アカツキ、シズクの敏捷が上がり、そしてオボロは舞の効果に加えて【ウルフ・ステップ】による敏捷上昇でさらに速くなる!
そんなオボロに乗っていられるのはもちろん、彼女の【騎獣】スキルがあるおかげでもあるし、私の器用値がやたらと高いことも一因である。
白雪の狼が駆け抜けるその上で緋色の着物がひるがえる。
紅白の軌跡を描きながら私達はライジュウを翻弄して回った。
「シャァーッ!」
素早そうなライジュウに対して【アクアブラスト】を放って牽制する大人一人分ほどの大きさとなったシズクに、ライジュウが雷をまとったステップを踏もうとするタイミングで【クリムゾン・フェザー】を放ち足場を制限していくアカツキ。
高原のボスはルナテミスさんによってすでに完全浄化クリアがされているらしいが……さて、条件はなんだろうか?
さすがにルナテミスさんから聞くわけにもいかない。動画を撮っているわけでもないらしいし、私は初見で楽しみたいので聞こうとも思わない。
そしてライジュウを相手し始めてから五分ほど。
ライジュウが雷の軌跡を描くようにジグザグのステップを踏んでスピードを上げてきたり、吠えて雷を落としてきたり、強靭な前足でびたん! っと叩きつけるように攻撃してきたりしていたのだが……突然フィールド奥地に走り去る。
「え」
ボスフィールドから離脱してしまったライジュウに、もしや撃退成功なのか? 早すぎない? と思うこと数分……三分くらいだろうか? 唐突にフィールド外の茂みから飛びかかってきたその姿に驚いて回避する。
「なるほど、フィールド外に出て身を隠して、突然飛びかかってくる攻撃ですか……厄介な」
攻撃できない時間ができる……つまり普通にライジュウを倒して攻略しようと考えるとすごく面倒な敵だ。私達の場合は不殺前提だから休憩タイムって感じになるけれど。
このフィールド、常にどこかしら雷が落ちてくるのでその対処も心がけていないといけない。アカツキは雷が怖いのでよけいに空を飛んでもらうわけにもいかないし、シズクは後衛だから前に出すわけにもいかない。
雷が落ちてくるところには青いエフェクトで予告線が出るので避ける分にはいいんだけど……予告線が出てから雷が落ちてくるまでのタイムラグがほとんどなくて、集中していると気がついたときにはもう雷に打たれたあとという感じになりかねない。
しかし、オンラインじゃない、普通のオフゲームみたいな挙動をするんだな。
「シズク! そっちに行くよ、移動して!」
「シャア!」
ライジュウが狙いをシズクに定めたのが見えたので指示を出す。
飛びかかっていくライジュウに対して、地面に【アクアブラスト】をぶつけた勢いと共に素早く移動するシズク。そんな避けかたするの!? 指示なしでそんなことをやれるなんて、やっぱり賢いなあの子!
「はい、お手ぇ! おかわりぃ! 次 お手ー!」
ライジュウが右前足、左前足、右前足と叩きつけてくるので、それを『お手とおかわり』と称しながら、オボロとともに左右へのステップをして回避する。
ギリギリの回避が最高に気持ちいい! 思わず漏れる笑みに、好戦的な意思が乗り、だんだんとハイテンションになっていく。
オフゲームのバトルは退屈だからといって苦手意識があったけど、実際に体を動かすとなるとなぜか楽しい。これがリアルなら命の危機すれすれの状態だというのに。普通、ゲームのバトルが得意な人でもVRバトルだと怖気づくことがあるらしいって話は聞くけど、私はその逆だ。
髪の先をよぎっていく攻撃に、頬に当たる風圧。
ギリギリ当たらず回避して舞う。それがすごく楽しい。
パートナーと息を合わせて舞うのが楽しい!
ライジュウの行動パターンを読みつつ、もうそろそろライジュウが走り去る時間だなと判断。オボロに「次、ライジュウが走り出したら追いかけてください!」と指示を出す。
なにかギミックがあるとしたら、特殊行動をしている間に他ならないよね!
「今!」
「オオーン!」
このフィールド、実は水辺もある。それはライジュウが走り去る方向にあり、そしてその場所は不思議と上空を飛ぶのに邪魔になるような木々もない。
「よっし、当たりですねこれは!」
ライジュウと共にフィールド外に出る。
いや、『この奥も併せて』ボスフィールドなのだ!
走り抜けるライジュウについてどんな道を行くのかを確認する。
道中にはいくらかビックリ・トレント達がいて私達のみを邪魔してくる仕様だ。いくつかの崖を飛び越えたり、岩場を登ったり、曲がりくねった道を走り三分ほどで元のフィールドへと戻る。
ライジュウはこちらを窺いはするものの、走っている最中は一度も攻撃を仕掛けてこなかった。そして、フィールドに戻ると再び攻撃が再開される。
ライジュウの走るコースには続くように川が流れていたし、確定だな。どの聖獣が初期でもあのコースが回れるようになっているのだ。
つまりは。
「ライジュウレースですね? つまり、素早さやコースのカット走行でライジュウにレースで勝てばいいわけですか! やる気が出ますね!」
そう、ライジュウの攻略法は恐らくレースに勝つこと。
これが違ったらまた考えればいいわけだし、とりあえずやってみればいい。
それに、スピード勝負ならちょっと『やってみたいこと』がある。
オボロがレベル20になって手に入れたスキル。そしてそのスキルを連発できるように霊力値を底上げした結果。
本当はパフォーマンスのひとつで動画を撮ろうと思ってただけなんだけど……まさかこんな形で役に立つなんてね。
「アカツキ、シズク。待機していてくださいね? オボロ、練習通りにやりますよ」
「クー!」
「しゅるるぅ」
「ウォン!」
返事をしたみんなに微笑みを向け、そして配信の視聴者向けに言葉を放つ。
「これより始まりますは、わたくしとオボロによる氷上の舞! スケートリンクを作って走り抜ける、ライジュウとのスピードレースにございます! さあさあお立ちあい! どうぞ応援をよろしくお願いします!」
手に入れたスキルの名前は【アイシング・ブレス】
確定で対象を凍りつかせるものであり、対象が地面なら失敗扱いとなってクールタイムが発生しない。そういうぶっ壊れ技であった。
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