綺麗なディテールっていつまでも眺めていたくなるよね
さて、宿を取って部屋についたところでスキルの取得だ。
ミズチ戦で手に入った『アクアビット』という、ひし形になった青色の宝石を使用することで、その属性にあったレアスキルを取得することができる。
レア……というより、上級スキルと言えばいいのかな? 普通なら初級スキルの一覧から徐々に取れる範囲を増やして中級やら上級に繋げていくんだけど、このビットを使うといきなり上級スキルを取得することが可能だ。
ただし、ビット系アイテムはボスを周回すればいくらでも手に入るものではなく、初回は確定報酬でそれ以降は超低確率で手に入る仕様のアイテムだから使いどころは慎重に選ばないといけない。
それでも廃人さんとか……それこそルナテミスさんみたいな意味分からんくらい雷ボスを周回しているだろう人は数個持ってるだろうけれど。
プレイヤー専用のウェブ販売所とかはこのビット系アイテムが高値で取り引きされていたりする。みんなほしいからね。仕方ないよね。
種類はそれぞれ、晴れがフレアビット、雨がアクアビット、雪がオーロラビット、雷がサンダービット、太陽がシャインビット、月がナイトビットだ。
今回はアクアビットなので、選択できるのは雨属性のみ。
シズクに雨属性の回復スキルを覚えてもらいたかったから、ちょうどいいというわけだ。
「うわぁ、綺麗」
「るるー」
私がアクアビットを覗き込むと、首に巻きついたシズクも覗き込む。
ひし形の宝石の中に水泡のようなものが浮かび上がっていて、とても綺麗だ。真ん中にはピンク色の水蓮の花みたいな植物が見える。大きさが水蓮ほど大きくないし、ゲーム内の特殊な植物なのかそれともゲーム的表現の一種かな?
まるでハーバリウム。
「ハーバリウムみたい……綺麗」
「しゅ?」
「あ、ハーバリウムっていうのはですね……植物とか、花とかを特殊なオイル……油につけてビンの中に入れた標本のことですよ。インテリアとかで売っていたりします。えーっと、ほら、こういうのです」
シズクを筆頭に興味を示したようだったので教えてみる。
しょせんAIなのだし、別になんでもかんでも疑問に答える必要なんてないとは思うけど、私が教えたいんだ。語りたいともいう。
ゲーム内からアクセスできるネットから画像を検索して見せてみると、アクアビットの状態と似ている! と思ったのか、みんなは目を輝かせながらうんうんと頷いていた。
「はー、このゲーム……いちいちアイテムが宝石モチーフだからすごく綺麗でディティールが好き……です……もちろん、君達のことも大好きだからね? しゅきしゅきー」
「くー!」
「あうーん!」
「るぅ」
感嘆の息をもらしながら大好きなパートナー達に愛をささやくと、応えるようにアカツキは翼を広げて私の背中に乗ってくるし、オボロは頭をぐいぐいこすりつけてくるし、シズクは肩に乗っている特権で控えめな頬ずりをしてくる。
幸せ……と数分浸ってからハッと目的を思い出す。
「そうだ、スキルスキル……」
こんなに綺麗だと使うのももったいないなあ、なんて思うがそこはゲームの消耗品アイテム。ラスボスまで行ってももったいなくて使えないエリクサーやらかいふくのくすりやら……万能アイテムはもったいぶらずに使わなければいけないのだ。エンディングまで結局使えませんでしたーじゃ、持ってる意味ないからね!
「回復スキルはっと……」
シズクの額に当てて、対象を選択。
それからメニューを開いてずらっと並んでいる雨属性の上級スキルを眺めていく……どうせなら味方全体に効く回復スキルとかあるといいよね。
お? 『リ・ヒール・レイン』か……あ、でもこれ上級は上級でも、一個前の上級スキルがないと覚えられないやつっぽいな。一覧に出てはいるけれど、選択できない灰色の文字だ。
全体回復に加えて雨を降らせている間は霊力の続く限り徐々に回復し続けるとかいう、ものすごく便利な性能なんだけど……しょうがないね。
これの一歩手前が『ヒール・レイン』だ。これなら覚えられる。一定時間、自分のパーティメンバーがいる範囲に光の雨を降らすスキルで、雨に当たれば味方のみ回復することが可能。5分間持続可能だけど、15分間クールタイムを要する……と。
クールタイムがちょっと長いが、5分間も続くのならスカウト戦に重宝すると思う。なんせ不殺プレイでスカウトのみにしていると、攻撃を避け続けたり説得の材料を探したり、ギミックを解いたりする必要があるからね。
その場で粘る時間ができるから使い勝手も良さげ。欠点があるとしたら、天井のあるところだとヒール・レインが届かないことくらいかな。
味方の頭上に雨が降るわけじゃなくて、あくまでその一帯の天候を雨にして、さらに回復するスキルみたいだからね……そこはまあ、仕方のないところか。
「よし、決めました」
「るーる」
私に身を任せようとするシズクを見ながら、いざメニューをタップ!
片手に持っていたアクアビットが淡い青色の光となって、溶けるようにシズクの額へと吸い込まれていく。
「よし、できましたね」
シズクのステータスに『ヒール・レイン』が追加されたことを確認して頷いた。あとは……今日は猫喫茶の取材兼配信もしたことだし、一旦寝よう。それでまた卵をもらって、高原へゴーだ!
雷属性はなにがいいかなあ。
レアな種族とかいたらいいなあ……なんて思いつつ、レベル上げ前の一休みに入るのだった。
そろそろ進めたいのでレベル上げはカットするかも?




