シズクの進化先は二つ!?
「それでは、はじめましょうか」
「待ってたにゃーん!」
向かい側にルナテミスさんと、膝の上に乗っているディアナ。足元にオボロ。隣にアカツキ。膝の上にシズク。
心なしかわくわくとした視線でこちらを見るシズクに、罪悪感のようなものが込み上げる。この、いつもクールでお嬢様然とした子を……今からとろとろにしちゃうの……? なんておいし、じゃなくて、背徳的なの……!
内心荒ぶりつつも表は冷静に。
ルナテミスさんから買い上げたふわふわのタオルと、清水入りの霧吹きをまず用意します。霧吹きの中身は冷たいものではなく、少しだけぬるいものを用意してある。なんせシズクは蛇。蛇はリアルだと変温動物なので、いきなり体を冷やしすぎたりするのはよくないと判断してだ。よって、肌に触れてもひやっとしない、ぬるめの温度にしているのである。
蛇を飼育する際は脱皮期間に霧吹きで水をかけてあげるといいらしい……とネットで見たのでそこからの発想だ。進化も脱皮みたいなものでしょう。多分。
「シズク、少し顔を覆いますよ」
「しゅるるるぅ」
舌をぺろぺろとしながらシズクが頭を下げる。
そっと手のひらで目に水がかからないように覆ってから霧吹きの水をかける。
ぷるぷると体を震わせていて、もしやこれでも熱かったか? と心配になったけど、よく見てみるとすごい気持ちよさそうにしているだけだった……。
蛇は顔の表情が全く分からないかと思っていたけど、ゲーム的表現なのか、かなり分かりやすい。クールで涼しげなお顔がとろーんとしてきている。
「そのクールなお顔をとろとろにしてさしあげます。どこまでその余裕が持つでしょうね〜?」
「にゃははは! ケイカさん悪い顔ー! どこの悪役にゃん? それともエロ同人みたいなセリフ?」
「失敬な、決してそのような意図はございません。ほらほら、ここがいいんじゃないですか〜?」
嘘だ。意図はある。
ふわふわのタオルで優しくシズクの体を包み込んで、ゆっくりと強い刺激にならないように揉んでいく。これで蛇のお手入れ法が合っているかどうかは分からないが、シズクの顔がこれ以上ないほどにとろけて私の腕にしなだれかかってきているのは事実だ。なんだこのシチュエーション。
「くっころ感あるにゃん」
「うちの子で変な想像したら張り倒しますよ」
「はいはいエレヤンエレヤン」
くそう、自分のほうが強いからって余裕ぶってこの人は……!
廃人には勝てないかもとか思っていたけど、悔しいから絶対理詰めで勝てるようになってやる……! ガチの対人戦やると不殺が達成できないから、理詰めで降参させる方向だ!
ただの怒りで不殺プレイを達成できなくなるなんてことになったらそれこそ『負け』みたいなものでしょう。
「ほーれほれほれどうですかー?」
「るるるぅ……うぅ〜」
おお、すごい。あのシズクが完全に力を抜いてこちらに全身を預けてきている。いや、いつも首に巻いてるんだから全身を預けているようなものなんだけど、それとはまた違った風情だ……可愛い。スクショスクショ。
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聖獣個体名【シズク】の進化が可能です。
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と、きたきたきた!
「来ました! 進化可能ですよ!」
「早すぎにゃい!?」
グルーミング開始からだいたい二十分後くらいの出来事であった。
オボロがスカウトでオチたのが十分だったから、シズクは結構粘ったほうだね……粘ったってなんだ? なにかの勝負?
自分で内心のノリツッコミをしつつ進化の選択先を見る。
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進化可能な形態
壱 ルナ・アクアマリン・サーペント
弐 ルナ・アクア・レッシー
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え? 進化先が二つある……だと!?
待って説明説明……!
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ルナ・アクアマリン・サーペント
淡水だけでなく海水にも対応するようになったサーペント系聖獣。
細長い蛇の体が大きくなり、ツノに水を浄化する神聖な力が宿っている。
隠密行動と霊術スキルに特化した姿。
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ルナ・アクア・レッシー
海水で行動するようになり、大きな手足代わりのヒレが生まれた海竜系聖獣。
体長が大幅に変化し、人一人を乗せて運ぶことができるようになるが、体重が増加するため移動は不得意になる。
ルナ・アクア・レッシーの泳いだ海水はどんなに汚れていても清らかなものになるという。霊術スキルと耐久性に優れた姿。
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なるほど、蛇のままか海竜系になるかの選択肢……! えっと……どうしよう?
シズクの体を霧吹きで濡らしたりタオルで揉んだりし続けながら、私はどうせなら――と、配信している皆さんに向けて声をかける。
「あの、皆様のご意見を聞かせてくださいませんか?」
こういうときこそ、配信中のアンケート機能だ!
私はいそいそと、コメントの皆さんに相談し始めるのだった。




