生産職のファンクラブ会長さんはイケオジ紳士です?
町中に繰り出してから数十分。
森で手に入れた換金アイテムっぽいものをいくつか売り払ってゴールドを作り、シズク用のオケがほしいなと目移りしつつも食べ歩きをしていた。
この子達は聖獣なので特に食べてはいけないものとかはないみたい。そういうところはゲームだ。ここから動物に触れ合って、リアルでいざペットを飼い始めたときにチョコとかネギとかむやみに海産物とか与える人がいないといいんだけれど……。
ピッ。
と、思ったら食べ物類を【観察】すると、説明文にちゃんと書いてあるな。リアルで犬猫にあげるとダメですよーって言葉。さすが、動物愛に溢れたゲーム製作会社だ。今朝は産卵フェチの特殊性癖野郎のいるやばいところだと思って通報という名の強めのメッセージを送ったのだが、可哀想だったかな。
いやでも血迷うなよ私。あれは完全にセクハラだ。怒ってもいいポイントのはずだ。まったく、どんなことになったらあんなシステム入れようと思うのか……。
「はい、アカツキ。オボロも。オボロはチョコが好きです? アカツキは辛いものかな。シズクは……卵系に海鮮系。似合いますね」
町中を巡っているうちに気がついたのだが、カラフルな紙でできた飾りがちらほらと見える。あれがピニャータというやつの一部らしい。イベントはもう少し先だが、リアルよろしく当日より前から粛々と準備をしているみたいだね。
気になってリアルのほうで調べてみたけど、ピニャータというのはメキシコや中・南米で子供の誕生日などに使う、中にキャンディなどのお菓子を詰め込んだ紙製のカラフルなくす玉人形のことを言うらしい。
イベント名は【キャンディ・ピニャータ・パニック!】だ。
先に飾られるのも納得というものだね。
イベントの内容はシンプルなアイテム集め。
聖獣や神獣の姿を模した紙製のアイテム『ピニャータ』を発見、戦闘、破壊して中身のキャンディを集めていくというイベントだ。
あくまで『ピニャータ』は動くアイテムであるため、不殺プレイには関係なし。それはそれとして、世界観的に聖獣や神獣を模したものを破壊するのはどうなの? と思うだろう。ところがきちんと、そういうイベントとなった理由までしっかりと用意されている。
むかしむかし、とある共存者のパートナーがたくさん怪我をする不幸に見舞われました。
パートナーがあまりにも大怪我をするので、共存者は心配をして、己の信仰する『神獣』にこれを相談したところ、『神獣』は彼らに『厄』が付いていると言いました。
そしてその『厄』を祓うために、とある手順を教えたのです。
その手順とは、パートナーに似せた紙人形を作り、それに厄を封じて壊すというものでした。厄災が祓われ、そのあとに残った紙人形はなんと二人の大好きな甘い甘いキャンディへと姿を変え、厄災から守り幸福をもたらしたのです。
それ以来、共存者と聖獣がいつまでも幸福に、そして息災でいられるようにと定期的に紙人形である『ピニャータ』を作り、厄を移して中身のキャンディを得るという幸福に変換する行事ができたのでしたとさ。
これがイベント概要である。
正直こういう『その世界ならでは』の行事が好きなので、ワクワクが止まらない。そっかー、そういう理由づけしてくるかーという納得と感動だ! 実に平和でいいよね。
「しかもこれ、神獣様主催なんですよね」
この町『アルカンシエル』は虹。つまり鳳凰の治める町だ。鳳凰が自ら主催し、キャンディをたくさん集めた共存者に褒美を与えてくれるらしい。つまり集めた数による一定の報酬と、ランキング入りしたときの報酬がそこから出るのだ。狙う他ない!
「それに、鳳凰印のついた装備のまま強化したいんですよね……生産職でもできると言いますが、高レベルの生産職じゃないとダメって言いますし……」
鳳凰印装備は可愛いので初期装備ながら、案外気に入っているのだ。できればこのままお洒落な方向にグレードアップしていきたい。
「あの、もしかしてケイカさん……ですか?」
「はい?」
考えながら歩いていると、声をかけられたので振り返る。そこにはいかにも紳士という感じの、シルクハットにお洒落なスーツというダンディな男性が立っていた。
おお……これはなかなか。いわゆるおじさん萌えされるタイプの見た目。顔がいい。本人がリアルでもイケオジってわけじゃなければ、めちゃくちゃアバター作るの大変そう。一、二時間はかかりそう。偏見だけど。
「いえ、先ほど生産職を探しているようなことをおっしゃっておりましたね? 私、貴女の動画のファンでして。少しでもお力添えができれば、と思い、つい声をかけておりました」
「え、本当ですか? そ、それはありがたい申し出ですけれど……初対面ですし、えっと、本当にいいんでしょうか?」
微妙な警戒を混じらせながら話すと、男性はハットを優雅に外してお辞儀をする。おお、様になるな……。
「わたくし、プレイヤー名をストッキンと申します。生産職の織物屋をしておりまして、お力添えできれば嬉しいですね」
「ううーん、と……それじゃあ、私のパートナーとその名前は?」
「ケイカさんのパートナーは初期ニワトリに、名前がアカツキくんですよね。それに魅せプレイのときにいたのはそこのウルフ系統のオボロ。その蛇はこの前生放送していたミズチ戦で仲間になった子ですね。お名前はあのとき決めていらっしゃらなかったようですが、どんな名前になりましたか?」
おお、お見事。全部当たってるな……ということは本当に私のファンか。なら信用してみてもいい、かな? こっちのサーバーには悪質プレイヤーなんてほとんどいない……と思いたいんだけど、警戒するにこしたことはないし。
「お店とか、お持ちですか?」
「ええ、持っております。なんなら案内いたしますよ」
「あなたのパートナーは?」
「こちらに」
ストッキンさんがスーツのポケットをちょこんと指でさすると、中から白いネズミが顔を覗かせた。ハツカネズミに似ているが、この子も隈取りみたいな模様が入っていて聖獣らしい見た目である。初期ネズミだろう。
「お名前は?」
「レッグですね」
「へえ……」
ちろちろと動いて鼻をひくひくさせている。可愛らしい。けれど恥ずかしがり屋なのかすぐにポケットの中へ入って行ってしまった。なんとなく不思議の国のアリスに出てくる帽子屋さんとヤマネの組み合わせっぽいなと感じた。
「その、ストッキンさんは初期装備の見た目を変えずに性能を上げることってできますか?」
「できますよ。ですから、声をおかけしたんです。これまで購入してこなかったということは、気に入っているでしょう?」
「ええ、その通りですね」
本当はお金がなかったという話もあるが、それは内緒で。
「うん、信用してみることにしました。お店への案内、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。可愛らしいお嬢さんのエスコートをするのがわたくしめの役目ですから。サイズを測ったりするのも必要はございませんので、ご安心ください。もうプロですからね」
「へえ、それは期待しちゃいますね?」
「どうぞ、期待していてください」
これは見た目通りの紳士だね。間違いない。
サイズを測るのがデフォだとばかり思っていたから、余計安心した。相手は男性だし、アバターとはいえ、じろじろ見られ続けるのはそこまで好きでもない。上級職とかレベルがすごく高いとかなのかな? もしやガチ勢? すごいなあ。
「そうだ、わたくしケイカさんのファンクラブの会長を務めておりまして。そのご挨拶をと」
「ファンクラブ!?」
まさか、まさかのファンクラブができていた事実に驚きながら、私はストッキンさんについていくのだった。
◇
598 変態紳士の共存者
皆様聞いてください朗報です
ファンクラブがケイカちゃんに認知されました
599 名無しの共存者
会長は出てこないで
600 名無しの共存者
って
601 名無しの共存者
まじ?
602 名無しの共存者
嘘やん……ひっそり活動するって方針じゃなかったっけ?
603 変態紳士の共存者
以前許可を取ろうと言ってたでしょう?
取ったぜ(ドヤァ)
604 名無しの共存者
ということは話したの!?
605 名無しの共存者
ケイカちゃん逃げて超逃げて
606 名無しの共存者
お前変なこと口走ってねーだろうな?
607 変態紳士の共存者
ご安心を
これでもロールプレイは完全な紳士だ
一目でスリーサイズまで全部分かるようになった立派な魔法使いなんで生産職までやってるZE☆
608 名無しの共存者
やっぱこいつに会長やらせるの大失敗だろ……
◇
世の中知らない方がいいことがあるのかもしれない。
感想返しは今夜に。
明日の更新はお昼ではなく、試験的に夜9時前後にすると予告しておきますね!
誤字報告などいつもありがとうございます!




