幼馴染は裁縫ができるが、コスプレのために覚えたという前提があるわけで
「それじゃあ、私はいったん今日はお休みしますね」
「クウ」
「わふん」
「るるるー」
宿屋のベッドに腰かけ、それぞれ宿屋から貸し出された毛布にくるまっているアカツキ達に手を振る。
神獣郷オンラインでは寝るときにログアウトするかしないか選べるようになっていて、ログアウトをしない場合は指定の時間までのスリープモードになり、ログアウトする場合はそのまま活動停止してリアルに戻ることができる。
聖獣達も共存者がログアウトしている間はずっと寝ていることになるので、こうして宿屋を取るのが望ましい……と。
若干名残惜しいけど、アラートも鳴ったことだし、この世界でやることもひと段落ついたし、中断しどきってやつだ。ステータスの確認とかスキルの取得はまたあとで。リアルでも掲示板を巡ったりして、枠に収めるスキルを考えて来ようと思う。
ゲーム内掲示板とリアル掲示板は別だからね。そりゃそうだよ。だってゲーム内とリアルだと時間の流れが違うんだもの。ゲーム内掲示板をリアルで閲覧しようとしたら四倍速だ。あっという間にスレが埋まって流れに参加するなんてこともできない。まとめサイトや動画はリアルのほうにも更新されるので問題ないんだけどね。
「おやすみー」
目を閉じる。
暗闇の中に現れた『ログインポイントを記録してログアウトしますか?』という文字にイエスを選ぶ。
そうすれば、あっという間に現実の私とこんにちはで……。
◇
「んん」
ぱちりと目が覚めて、ヘッドギアをゆっくりと取り外す。
寝たあとのような、そうでもないような……?
手足を動かす感覚がなんとなく遅いような気がしてしまうが、これが本来の体だ。ちょっとだけゲームの影響が出るのはご愛敬。数分もすればリアルの動きにも慣れてくる。
ただ……。
「寂しいかも」
ベッドの下には誰もいない。
アカツキも、オボロも、シズクも誰も。
今まで育成ゲームの公式大会とかで入賞したときにいただいた、いくつかのぬいぐるみやらリボンやら、それにゲーム内スクリーンショットをした写真を飾ってあったりするが、リアルでの私はペットも飼っていない。
アレルギーもあるから仕方ないのだけれども……憧れが加速しすぎて日々育成ゲームに入れ込む毎日だ。
今回のゲームはその点当たりだね。夢だったペットとの生活ができるし、アニメとかで自分だけのパートナーがいるというのが、すごく憧れだったから。
「えへへ、でも外だと寂しいのは変わらないから、中毒になっちゃいそう。少しは自重しないと」
自重できたらの話だけど。
「そうだ、遊馬。紹介してくれたお礼もあるし電話しないと。もうログアウトしてるかな?」
ずっとゲームをやっていて、こちらでも半日くらい経っている。どう考えてもやりすぎなのだが、楽しかったんだしやめどきが見つからなかったんだから仕方ないよね。
私でこうだと考えると検証してる人とかレベルが40まで行っている先行組はどんだけ潜り続けてるんだ……。
「あ、もしもし遊馬?」
よかった、繋がった。
『もしもーし、そっちも終わったんだ? こっちは一時間前くらいには終わってたよ』
「あ、私のほうが長かったか……」
『そうそう、すごいじゃん。初完全浄化に、初ストーリーミッション完全クリア。さすがエレヤン』
一瞬、なにを言われたのか理解ができなかった。
「な、なぜ貴様がそれを知っているのです!?」
『いや、動画あげてるじゃん。掲示板で既に京華の専用スレできてるし』
「うそぉ!?」
掲示板もいろいろ見て回っているが、さすがにそれは知らなかったんですけど!?
『それより、楽しんでいるみたいでよかった。憧れだったでしょ、ああいうの』
「あ、それに関しては感謝しかない。そっちはどう? 初期はどの子だった?」
『……僕の初期は馬だよ。んで、二匹目は犬』
「へえ、白馬の王子様? 似合わないね」
『……容赦ないな? そういうところ嫌い』
「大丈夫、私も君の厨二病好きじゃないから」
『なんでバレてんの!?』
「幼馴染の私が知らないとでも?」
『……』
って、軽口言ってる場合じゃないね。
「そっちはPKありのサーバーで遊んでるんだよね? どんな感じ?」
『殺伐としてる』
「あ、うん。まあそうだろうね」
やっぱり私は、なしサーバーじゃないと無理だな。
『それよりも、君のパートナー達のスクショってこっちに送れる?』
「うん、送れるよ。なにするの? うちの子があまりにも可愛いからグッズが欲しくなっちゃった?」
からかうように言ってみると、ため息をついて呆れたような声が返ってくる。
『どうせリアルで寂しがっているだろう幼馴染に、僕が編みぐるみでも作ってやろうとしているのにその言い草はなに?』
「ありがとうございます遊馬くん。大好きー」
『棒読みやめろ』
反射的に返した言葉をバッサリと切り捨てられる。
嬉しいのは本当だから!
「さすが裁縫も編み物もできる男子。粋なことしてくれるねぇ。ただしそのスキルを身につけたのはコスプレのためっていうのが残念で……」
『素直に褒めるだけで終わらせてくれない? なんで貶すの? ざまぁされたいの?』
「しないじゃん」
『しないけど』
お互いに軽口叩き合うのはいつものことなので、今更すぎる。
「で、合流とかはするの?」
『三日後に初イベントがあるって公式ホムペにアップされてたから、そのときに合流しようか。僕もそのときはなしサバに行く』
「りょーかい! それまではこっちでレベル上げたりステータス上げたりしてるよ」
『それじゃ、おやすみ。ちゃんと寝ろよ』
「こっちの台詞ですけど? おやすみ」
電話を切って、ベッドの上に倒れ込む。それから足をパタパタとしながら枕を抱えた。
だってだって、アカツキ達のぬいぐるみができる!
この寂しい部屋に、あの子達がやってくる! そう考えるだけで喜びでいっぱいになってしまった。
遊馬のそういうところは本当に尊敬してるし、ありがたいところだよね。
エレヤンがバレていたのはびっくりしたし、動画を見られているのも恥ずかしいけど、動画を配信するのはやめるつもりないしなあ。
あ、そうだ。ゲーム内で撮ったストーリーミッションの動画、コミュ限定配信しておこう。ゲーム内で解放されたストーリーは閲覧してもリリィの背景ストーリーと主張の部分のみしか見られないから、私がどうやってクリアしたかはさすがに公になっていない。
どうやってクリアしたかどうかは、私自身が動画を上げないと見られないのだ。よってネタバレ注意の注意書きをして配信配信!
長い休みの間に、どれだけあの子達と一緒にいることができるだろうか?
明日も必ず遊ぼうと思いながら、私は日常生活に戻るのだった。
次回は上がったステータスの表示ならなにやらと新要素とイベント概要……かな?
幼馴染との合流はもう少し先となります。
なお、恋愛はありません。よほど読者の皆様方に熱望されない限りやりません。一緒にゲームプレイしてるだけの友人同士でブレないようにしております。




