無人の幽霊船と鬼ごっこ
ところでホラーといえば幽霊が出てくるというイメージだが……不気味なくらいなにもいない。
そう、魔獣の一匹でもいるかと思ったら、まったく見かけないのである。今までの場所では必ず魔獣発生ポイントや聖獣のいる場所があったが、それがまったくないというのは不安になるものだ。普段と違うと一瞬バグを疑う自分もいたりで。
「なんの反応もないのは怖いのですが」
『怖いとか言って壁ぶっ壊してるのはどこのどいつだよ』
『たくましすぎるwww』
『器用値極振りとは???』
そうだね! 器用値極振り最近はあんまり関係なくなってきてるからね! なんせ他の子を頼ったりバフで底上げできるからわりと万能なんだもの。
スピードに関してはオボロに乗っておけばいいだけだし!
「よく考えたらこれだけ大規模に壊しているのに、船の浸水が酷くなって沈まないあたり器用と言えるのでは?」
『こんな器用値極振り嫌だ』
『草』
『活用方法がおかしいんだよなあ〜』
『今思いついただろそれ』
『破壊し始めたときはそんなこと考えてなかったでしょ? 白状しよ?』
「はい、白状します。なんも考えずに破壊行為をしてきました。今思いついたことで間違いないですね」
いや、だって明らかに船が大破しててもおかしくないのに沈まないじゃない。最悪沈んでしまってもサンゴさんは海の中に住む人なんだから会えないなんてことはないだろうし。
……プレイヤーは死ぬかもしれないけど。
そもそもそれで必須イベントが消えるなんてことになったら、運営のミスでしょう? 船が損傷するように設定しているほうが悪い。私はプレイヤーとしてはかなり大人しいほうだ。絶対ふざけて破壊しだす人はもっといるだろう。対策してないほうが悪い。普通破壊不可能オブジェクトみたいな感じにしておくだろう。
「にゃんにゃん」
さて、なんとなくジンがカリカリと引っかく壁を優先的にぶち抜きながら移動してきたわけだが……。
部屋や廊下を通るたびにちょっとずつ探索して鍵なんかをいくつか見つけていて、本来は多分鍵を見つけながら進んでいくかたちになっているんだろうなあと、遠い目をする。ぶち壊してごめんなさいね。
そして最後に入った部屋には、船の下部に向けて空けられた大穴があり、暗闇を扇子の炎で照らしながらふわっと羽織りを揺らしながら入る。
そこまで高い場所ではなかったらしく、すぐにゼロダメージで着地することができた。あとから降りてくるオボロやジンが足元にまとわりついて身を寄せてくる。くらいからちょっと怖いもんね。私も怖いよ、分かる分かる。
足元にもふもふがあるとそれだけで安心しちゃうから、今はもうそれほど怖くはない。
「あ、宝箱です」
そういえばまともな見た目の宝箱って初めてでは? ちょっと大きすぎる気もするけど。殺人事件に出てくる、人を詰め込んだスーツケース並みの大きさはある。
こういうのって鍵が必要だったりするのだろうか。それとも普通のRPGみたいに鍵が必要ないやつだったり?
近づいて宝箱を開ける。
「…………」
「あら〜、ケイカさんじゃな〜い、お願い助けて〜!」
宝箱の中にサンゴさんが丸まって収まっていた。
そのお腹のあたりにはピンク色のぬめっとしたものが巻きついていて、彼女が手をこちらに伸ばそうとするとその直前で宝箱の蓋が閉まる。
ガチンッと鋭いなにかがガッチリ噛み合う音が響き、宝箱の蓋部分に目玉みたいなものが浮かび上がる。
「み、ミミックですー!?」
うっそだろサンゴさん。
「い、いえしかし、相手はせいぜいジャンプしか動けないミミック。袋叩きにすれば簡単に倒せるはずで……」
にょき。
擬音で表すならばそれが一番相応しいだろう。
宝箱の下部に無駄に肌つや綺麗な生足が生えて、ミミックは逃げ出した!
――って、なんだあれ!?
「待ってください!?」
色々と予想外がすぎる!!
祝・200話目!!
なんで記念すべき200話目にこんなシュールな話書いてるんだ???




