もうエレヤンでいいや(諦)
鬼ヶ島でもいったんシズクに雨を降らせてもらったりなんだり色々したあとに出発。
ランド付近の草原に一部だけ枯れた場所があり、その場所は他の人には普通に見えているらしいとコメントに指摘してもらって、また『六つの場所で恵みをもたらせ』という話を思い出したのである。
それから、スキル【擬似餌】はうまく扱えそうなレキに覚えてもらうことにした。あの子ツタを操れるし、どっしり構えた防御タイプだから合うだろう。
あとで一回緋羽屋敷に戻ってスキルを覚えてもらおうと思ってサメさんに乗り、ゆっくりサメの背中旅を再開……したところで。
「なんでまたホラーなんですかぁぁぁぁぁぁ!!」
頭を抱えて叫ぶ。
――目の前には、濃い霧の中に浮かぶボロボロの船が鎮座していた。
◇
ことの発端は鬼ヶ島から次の目的地へと向かっている最中、いや、目的地に着いてからだ。
最初の砂浜。
熱帯雨林の島。
砂海に沈む大陸の端。
岩場だらけの島。
リングになった岩場のある海域。
聖獣だらけの無人島。
六つの場所をそれぞれ頭の中でおさらいしながら次の五番目の場所に着いた。
そこは縦にリング状になった岩のある海域であり、上陸する島がないという今までとは明らかに毛色が違うところである。
それを不思議に思いながら巨大なリング……海の中に縦に沈めた指輪みたいな形をした岩を何回か通り抜け、サンゴさんはどこだ? とシズクに海の中を探してもらいながら悩んでいたとき、徐々に、徐々に霧が発生し始めてついには目の前が見えないくらいの濃い霧に囲まれてしまった。
焦った私はサメさんにこの霧の中でも動けるか尋ねて、近場に上陸できる場所がないか探して欲しいとお願いした。
そして十秒も泳がないうちに、目の前にボロボロの明らかに「僕幽霊船でーーす!」って言っているような船を前にサメさんは停止したのである。
なんでこれを選んだんですか。確かに上陸はできるけど……いや、陸じゃないし厳密に言えば違うわけで。つまり、乙姫ちゃんの遣いであるサメさんがここに行けと言っているも同然と言いますか。
「行かないとダメですか?」
「……」
「他に陸はあるでしょう?」
「……」
「……」
サメさんは船にぴったりと身を寄せていて離れない。すぐそこには沈みかけた船の真横に空いた大穴。そこから中に入れということなのだろうか? そんなことをしたら船が沈むんじゃなかろうか?
というか探索している間に船が沈んだらどうしてくれるの?
疑問とも言えない言葉が尽きない。
だけれども、サメさんは無情である。何度声をかけても船から離れてくれない。スタンプラリーが終わったら乙姫ちゃんに交渉して買い取っちゃおうとか思うくらい愛着が湧いていたものの、その気持ちが今どんどん目減りしていっているのが分かる。
無言の抵抗と無言の圧力。
負けたのは私のほうでした。
茶化してくるコメント達を睨みつける気力さえもない。二連続ホラーに泣きたくなってくる。一回だけでいいじゃない、そんなの。
「うううう……」
船に空いた大穴から中に侵入し、肩をすくめる。
「あ、あれ? 扉が閉まっていますよほら。……えーっと、ほら、鍵もかかってます。他に上がれる場所もありませんし、入れないんじゃしょうがないですね。帰りましょう」
『帰りたいだけでしょw』
事実を言わないでください。
あははは〜と愛想笑いをしながら回れ右をして大穴の入り口に向かうと、背後から不吉な木の軋む音が聞こえて振り返る。
扉が半開きになっている。
「ホラーやめてっつってんでしょう!!!」
さっきまで鍵がかかっていたはずなのにおかしいなー? なんででしょうねー?
え、ガチホラーでは?
幽霊船探索とか勘弁してほしいんですけれど。
先にスタンプを持っているサンゴさんを探したほうが……あ。
「と、扉のところに……珊瑚のカケラっぽいものが……」
サンゴさんの分身は珊瑚やら貝殻やらから出現している。
つまり、珊瑚のカケラがこんなところにあるということは、彼女は中にいるというわけで……泣きそう。ぴえん超えてわおん。
「行きますよ、行けばいいんでしょう!」
怖かったのが一周回って腹が立ってきた。
「神前舞踊! 『散り木蓮』!」
という名の回し蹴りと鉄扇による猛攻。
扉は見るも無残に細切れになったのでしたとさ。
『なんで扉壊したの???』
「私知ってるんですよ、こういうホラーはどーせ扉の中に入ったら開かなくなるんです。なら最初から壊しちゃえばいいのでは?」
『アッ』
『キレてますねこれは』
『なんという脳筋』
『それでこそエレガントヤンキーだもっとやれ!』
というわけで、物理でホラーをクラッシュしながら行きます。
「ぶっ壊してやります!」
そう言いながら、まず私はマップを無視して船室の壁に大穴を空けながら進むことにしたのでした。
『これ沈まない? 大丈夫?』
『エレガント???』
『なんでや! 扇子で切ってるからエレガントやろ!』
もうエレヤンでいいや。
『日本を信じろ』に思っていたより反応をいただいて喜びながら大困惑するという不思議な状態になっておりました。




