オニアンコウと濡姫様の回避試練
まあ試練と言ってもいつもとあんまり変わらないものである。
行動パターンがいくつか分かれているので、それを覚えて余裕を持って躱していくだけだからね。
アンコウの擬似餌の部分は暗闇の中で淡く光り、クスクスと妖精のように笑いながらこちらに向かってくる。そして擬似餌にかかりきりになっていると、いつのまにかすぐそこにオニアンコウ本体が迫ってきていて、目の前で大顎がバクンッと閉じるのを見るはめになる。
試練とはいえ、相手は本気で攻撃してきているので普通に怖い。
「オニアンコウの上に人が乗っていますから、アンコウのほうは聖獣ですよね」
ここにいるのは鬼楽の長のはずだから。
というわけで簡単にアンコウへとターゲティングして【観察】する。
種族、牛鬼。レベルは65……65!? 私達が今レベル40くらいなので、かなりレベルに差があることになる。さすがだ。
いやそれよりもツッコミたいところがある。
なんで牛鬼!? 見た目がオニアンコウなのに!?
牛鬼って確か牛とか言いつつ蜘蛛みたいな見た目した化け物のはずだよね。いつからか倒した者が次の牛鬼になる……みたいな設定も一緒に語り継がれるようになったやつ。元々はそんな伝承ないはずなんだけど、なぜかそんな印象が強い。
『それは多分有名になったアニメからの影響だろうな〜』
『確か考察班は聖獣牛鬼に、共存者の名前が濡姫だからちゃんと伝承意識されたネーミングにはなってるとかなんとか言ってた』
『牛鬼の伝承のひとつに、濡れ女や磯女とセットで出てくるってものがあるからね』
私が混乱しながらもオボロに指示出しをしながら回避に専念していると、親切なコメント達が妖怪知識を惜しげもなく披露してくれた。
なーるほど、それで牛鬼と濡姫ね。でもアンコウなのは解せない。全然納得できない。いくら『オニ』アンコウでも、イコール牛鬼にはならないでしょ普通!
『天照大神が白い犬とかで表現される国だし、偉人やら妖怪やらを擬人化女体化する国でなにをいまさら』
『日本を信じろ』
すごい! 全然納得してなかったのに、今の説明で「あーうん、なるほどね」となっちゃうのが悔しい! 確かにそうだね! しっかりと歴史で男って言われている人とかが普通に女体化されてゲームとかアニメになっちゃう国だもんね!! 牛鬼がアンコウになってるくらいで変だとか言えないね!
『日本を信じろってなんだよwww』
『海外の恐怖に軸を置いた神話とかでさえも萌え擬人化する日本だぞ』
『バハムートって本当は魚系の見た目なのにゲームだけでバハムート=ドラゴンってイメージが植え付けられてるからな……』
日本を信じろってなに? オタク文化を信じろ? よっしゃそれなら任せとけ! 得意分野だ!
……と、そんなこんなで楽しく話しているうちに五分間の回避ゲーが終了する。
相手のレベルが高いとはいえ、倒すのではなく回避し続けるだけなら簡単だ。
意外にも苦戦することなくあっさりと終わってしまった。ペーパー・ドレイクのほうがもう少し苦戦したっていうのに。まあ、私達が回避に慣れて、始めた頃よりずっと強くなったんだと思っておこう。
「よーし、合格である。近う寄れ、スキルを授けてしんぜよう」
オニアンコウの上から濡姫様が降りてきて着地する。言われて近寄って行くが……あの、目の前にでっかい口があるとなんか怖いというか。
「……食べられたりしませんか?」
思わず口から出た言葉に、濡姫様は目を丸くして大笑いをした。
「はっはっはっ! ダーリンはそんなことせんよ! 安心せい!」
「ダーリン!?」
いちいち驚く私に、笑いのツボが浅いのかめちゃくちゃ笑う濡姫様。
彼女にヘイト管理用のスキルが結晶となったものを貰い受け、謁見が終わるまでさらに十分ほどを要するのだった。
このスキル、誰に使ってもらおう……。
>>鬼いさん。仕様。鬼ぇさんでもOK。




