水中に沈む逆さ城
リアルで休んでご飯食べて体を動かすために少し散歩をして……と色々済ませてから数時間。神獣郷にダイブしてログアウトしたホテルで順番が来たことを告げられた。
急いで準備をしてお城……本丸に向かう。
が、案内されたのはなぜか地下だった。城の下は岩盤のはずだが、どうやら謎の建築技術で島の真ん中に大穴を開け、上にある城と同じように水中にも逆さの城が建っているということだった。
当然水中の逆さ城は水族館のように壁の一部がスケスケで海の中を観察することもできる。
「あ、太刀魚です。深海魚のアンコウまでいる……生態系はゲームらしい感じがしますね。なんでもいる感じ」
案内されつつ足早に歩いていくだけでもスクショがどんどん溜まっていく。
案内役の鬼のお兄さんに聞けば、一度謁見さえすればこの水中逆さ城の見学だけなら自由にできるように取り計らってくれるらしい。あくまで謁見は許可制なだけで。
最後に一番下――地上で言う最上階に到着すると、巨大な扉が目の前で自動的に開いていく。案内役の鬼いさんは大扉の近くにあったエレベーターらしきものにより、帰っていった。
いや、エレベーターあるの!? なんで徒歩で来た!?
「……まあ、景色が綺麗だったからエレベーターについては別にいいでしょう。初回はそういうものですよね」
無理矢理に自分を納得させて大扉をくぐる。
自分の身長どころか、初対面の大きい状態のレキあたりが余裕で扉の中に入れるほど大きい扉だ。管理が大変そう……しかし、どうしてこんなに大きいんだろうね? 不思議だなあ。
扉をくぐって、真っ暗闇なことに驚きつつしばらく歩く。
いや、照明くらいつけておいてよ。仮にも城主に会う部屋だよね?
それともなにか目的があって暗くしているのか……。
「よくぞ参った、旅の共存者よ。歓迎しよう」
声をかけられ、立ち止まる。声は反響していて四方八方から聞こえているように思えてしまい、音を頼りに城主がどこにいるか探ろうにも居場所が全然分からない。
そうやってキョロキョロと辺りを見回しながら探していると、わずかな風切り音と共に、目の前に青くぼんやりと光る少女が現れた。
少女は空中を浮遊するようにゆらゆらと揺れては私に近づき、首を傾げたりしながらくすくす笑うような仕草をする。
「見た目に驚いたか? まあ良い。私こそがこの鬼ヶ島の城主『濡姫』である。『鬼楽』の長でもあるぞ。鬼ヶ島ランドは楽しんでいただけたかな?」
目の前で揺れながら喋っているはずなのに、相変わらず城主の声は四方八方から聞こえるため、なんだか目の前にいるものが城主じゃないんじゃないかと思えてくる。
それに……鬼楽の長って言ってたのに、目の前にいる幼い女の子の腕は白くて普通の人間の腕のように見える。
鬼は皆黒曜石の腕を持っているはず。
そのちぐはぐさに、もしや私はからかわれているのでは? とおもいはじめてきた。
「私はケイカと申します。この子達と共に遊びに参りました。お会いできて光栄です、城主様」
「ふうむ、よろしくな。さて、挨拶もそこそこに悪いが、この城では相手にあわせて試練を与え、クリアーしたものに特別なスキルを授けることになっている。受けるか?」
特別なスキル?
「そのスキルとは?」
「スキルの名前はお楽しみだ。しかし内容は言うことができる。敵の視線を一点に集めてヘイトを集中させる囮用のスキルだ」
スキル名が言えない。でも内容は言えて、それはスキルを使った人が囮になるスキル……囮?
はっと気がついて、その場で扇子を取り出し、暁の灯火で頭上に火の粉を散らす。次いでアカツキが私の指示で飛び、奥のほうを炎で明るく照らし出した。
「ほう、すぐに気がついたか」
感心するような声が響き、笑い声が聞こえる。
目の前に浮かんでいた濡姫らしきものの頭のてっぺんには、黒く闇に溶けるような細い線が生えていて、部屋の奥に続いていた。
そして、アカツキが照らし出したのはゴツゴツとした岩盤に見える大きな大きな鱗の肌を持つもの。
……入り口の大扉も納得な、巨大な『オニアンコウ』らしきものが部屋の奥に鎮座していた。
そして、その上に乗っている誰かの姿も。
つまり、今濡姫だと思って見ていた発光体は『擬似餌』だったということ。
私達はすでに、彼女の提示した『スキル』とやらに引っかかっていたらしい。
「試練、受けます」
「良い良い。それでは……お前は回避が得意そうだな。ならば、時間制限内に全ての攻撃を回避し続けよ。聖獣と協力して構わぬ」
「分かりました」
制限時間は五分。
さあ、試練スタートだ!
鬼ヶ島の城は、実は地上と水中で城と城が上下にくっついているような見た目で存在する。こういうのいいですよね。




