これ以上あだ名はいりません(震え声)
さて、みんなからのある意味での信頼を泣きそうになりながら確認してご飯を済ませたあと、私達はお城の入場を許可されて中に入っていた。
実はお城の一部はホテルにもなっているらしい。やだ……なにそれロマン……。
なお、鬼チケットの私はほぼ無料で通過できるが、桃太郎チケットを持っている人は城門の前で一戦交えないといけないらしい。バトルジャンキーのみなさんは非常に楽しそうに組み手やら魔法の打ち消し合い合戦やらをしていた。
桃太郎チケットを持っている人は、プレイヤーキルを望まない、純粋にゲームを己の実力で踏破していきたいという人達である。対人戦は好きだが、それは『正々堂々とした決闘』を好むのであって、不意打ちでPKなどが横行するような、桃太郎チケットの人達曰く『卑怯』な戦いは好きじゃないんだとか。
あと、PKできるようになると『ストレス発散に来てるはずなのにかえってストレスが溜まるじゃん』とのことだった。
たまたま入場待ちの列に入ったとき、私が有名プレイヤーだからか何人かに話しかけられて雑談していた結果聞いた話である。
元々育成ゲームから派生して私は来ているので、のんびりできるPKなしのサーバーがあってつくづく良かったなあと思う。
実はPKのあるなしが選べるようなシステムが実装されているのは、神獣郷オンラインが初なのだそうな。
どうやら今までは、全部PKありか、元々PKできない仕様かの二極だったらしい。RPGのVRゲームはあまりやらないため、その話は知らなかった。
いやあ、初のVRMMOものが素晴らしく配慮されているゲームでなにより。運がいいなあ。
そんなこんなで入場を済ませ、いったんホテルのほうにチェックイン。
日本式のお城で、門から正面が鬼楽達をまとめる城主様がいる本丸。そしてほど近い位置にある二の丸、三の丸という場所が和風宿泊施設としてリフォームされている。
ひとまず宿泊する部屋に来てから雑談開始。
城主様に会うのも順番待ちになっているらしく、私の番は明日ということになっている。温泉もあるらしいので聖獣達とそちらも楽しみつつ、今夜を過ごすことになりそうだ。
なお、城主様に会うためには本来順番待ちだが、特定の鬼楽の人に勝つと別空間のイベントとして速攻で会える『謁券』をもらえるらしい。
この謁券は課金アイテムでもある。さすが運営汚いぞ。
あと、そろそろログアウトしないと。
もうすぐ夏休みも終わって学校も始まってしまうし、なるべく多くゲームの中にいたいものだけれども……。
「それはそれとしてシナリオ担当の運営は爆ぜればいいと思いますが。いや、この手で助走つけながら張り手をしに行きたい」
『ヤンキーはみ出てますよ』
『女の子が殴るとか言っちゃ……張り手???』
『どすこい系女子なの?』
『やはりエレガントヤンキーからは逃れられない』
『丁寧語なのに溢れ出る不穏さ』
『絶対殴りたいという強い意志を感じる』
『お相撲女子……?』
『あーほらまた変なこと言うからレッテルが増えるw』
『やはり聖女(笑)』
『あれは誰でも攻略すれば手に入る称号だから(震え声)』
『どすこいケイカちゃん』
『パワーワードやめろ』
『そろそろあだ名一覧ができそうだな』
助走つけて殴りたいという願望を精一杯抑えて言った言葉が仇になった。
顔を覆ってもういっそ好きにしろ……と「くっ、殺せ」な気分で呟く。
有名になるということは、オモチャになる覚悟を持つということなのだ……深い。
神獣郷のスレッドやチャットは生体IDと連動しているから身元の特定が容易ということで、表立って荒らしたりアンチになったり、誹謗中傷してきたりということがないのが幸いだ。
心の弱い私はそれにいつも守られている。
運営さん素敵。手のひらくるっくるですね。
『有名プレイヤー情報まとめサイトにあだ名一覧追加しました。漏れがございましたらコメントしてください【https//shinjukyo……】』
『はっや』
『数分しか経っていないのですが???』
『職人が3分でやってくれました』
『俺でなけりゃ見逃しちゃうね』
『ワイバーンよりずっとはやーい!』
『おいやめろ』
『当たり前のように古典ゲームのネタを出すんじゃありません』
えっ、なにかのネタだったの?
というか本当に早すぎる……慌ててまとめサイト開いたら昨日までなかったはずの項目が増えてる……どういうことなの。
『え、ネタ? いつの作品よ』
『平成』
『えっ、令和じゃないの?』
『昭和かと思ってた……』
『待って、平成時代っていつだっけ?』
『1990年代から2000年代ちょっとあたりのはず』
『ふわー、1世紀前やん』
『惜しい、平成は89年からだ』
『1年の誤差くらいいいじゃん……』
『んなこと言ってるとテストで丸貰えないぞ』
『耳に痛い』
『そのへんの時代、名前に和が続いてて覚えづらいんだよなー』
『分かる』
『歴史苦手だわー』
「あ、私もちょこっと歴史は苦手です。古典ゲームなら、機種を変えたりリメイクされたりしながら名作が継がれて来ていますが、ただの歴史はちょっと……」
そんな感じで歴史トークと学生感溢れるお勉強苦労トークを繰り広げつつ、全員のブラッシングやらうろこ磨きもろもろを済ませて配信終了するまで雑談していたのでした。
エレヤンはエレヤンのまま。




