無効化って味方につくとなるといいよね!
よく考えたらスカウトも不可で、道具カテゴリーだから破壊可能で、不殺のために頑張らなくてもいいという魔獣……魔獣モドキ? なんだよねこの子。
スカウト不可という事実を突きつけて、破壊可能とすることで『なーんだ、スカウトできないなら頑張る意味ないや』とプレイヤーに思わせることができる。
……運営の性格悪すぎない?
これで倒したら『ファッション善人です』って言ってるようなものじゃない? そんなひねくれた考えがよぎって半目になる。やっぱり性格悪いよね。ゲーマーはうまみがなければ効率を重視することのほうが多いだろう。
確かに全部の要素をコンプしようとするタイプのゲーマーなら、このペーパー・ドレイクも攻略法を考えるだろうが……効率重視なら『殺害カウントを増やさずに経験値を最速で稼ぐ方法』とかにこの子を利用できちゃいそうなんだよね。
実際、お化け屋敷は順路通りに歩き回るだけだし、このボス戦フィールドに来るための時間は、怖がったり足を止めたりしなければそれほどかからないはずだ。
攻撃無効化を貫通する手段さえあればいい経験値稼ぎになるかもしれない。
まあ私はレベル上げよりも、最速完全浄化クリア目当てだからその辺の誘惑は誘惑にならないのだけれども!
「確か……顔は黄色で」
「にゃんにゃん」
ジンが黄色いぬいぐるみをくわえて紙の竜へ持っていく。
「腕が赤で……」
「……」
すいーっと無言のアカツキが赤いぬいぐるみを運ぶ。
「尻尾は青で」
「しゅー」
そしてシズクは青いぬいぐるみを尻尾で取り囲んだまま、じわじわと近づいていく。
「お腹の一部が白のまま」
「わふーん」
うーん、紙の露出した部分は白だけど、完成形の厚みが変わってしまうしやっぱり白いぬいぐるみが必要かな? オボロは戸惑いつつもぬいぐるみを運搬していく。
「ペラガァ?」
しかし一番困惑しているのは恐らく手伝われている本人だろう。
ペーパー・ドレイクは白い紙だけでできているので目にあたる部分がない。ゆえに表情は分かりにくいのだが、明らかに口を半開きにして困惑している。
可愛い……可愛くない?
そして近づけられるまま、運搬されるままで困惑しつつもぬいぐるみを纏わせ続けたペーパー・ドレイクはもうまもなく完成するだろう状態になった。
あとは、やっぱり『目』だよね。
「はい、どうぞ」
「ペルゥ……」
部屋に二つしかなかった黒いぬいぐるみを手渡すと、ペーパー・ドレイクは大人しく受け取って顔に装着。
ぬいぐるみで再現しただけの身体はひどくいびつで、若干ホラーなのだが笑顔で「これで完成ですね」と告げる。間近で見ると怖い……コラ画像みたいで……。
「グァ……」
そしてやっと『目』を獲得したペーパー・ドレイクは辺りを見渡して、見渡して、そして、がっくりと肩を落とすような仕草をした。大きな首を振る。翼の生えた前肢で顔を覆い、ひと雫の涙が床に落ちる光景がやけにゆっくりと進んだ。
……イベントだ。
「ペラガァ」
目を獲得して自分の主人がどこにもいないことを理解したのか、それとも自分を完成させて満足したのか、最後まで『死』を理解できなかったのか、どれなのかは分からない。
でも、ペーパー・ドレイクが私に対して、まるでお礼を言うようにお辞儀をしたのは確かな事実だった。
「……終わった」
ペーパー・ドレイクが光を放ち、どんどん小さくなって床にひとつのぬいぐるみが残る。もしかしたら、絵ではなく裁縫でぬいぐるみにこだわりだした主人をずっと見ていたのかもしれないね。
自分もぬいぐるみならよかったと、思ってしまったんじゃないだろうか。だから、ぬいぐるみを纏わせて自分を完成させようとしていた。目的を達成したのなら、それで終わり。
『拾ってみないの?』
しばらく茫然としていた私は、コメントの言葉にようやくのろのろと動きだし、床に落ちているぬいぐるみを拾う。
――――――
紙竜のぬいぐるみを入手しました!
――――――
――――――
『ツクモの化け物屋敷』隠しステージボスの初完全浄化クリアが達成されました!
称号『心清らかなる聖女(※女性用)』を取得しました!
――――――
なるほどアイテムか。それから、完全浄化クリア達成! よーし、やっぱりあったね。この達成感……! 諦めなくてよかった!
それから称号にちょっと笑った。
どうやら、説明文を見る限りここの完全浄化クリアをすると男女でもらえる称号の名前が違うらしい。男性用は多分『聖女』の部分が変わるんだろう。勇者とか?
その辺りの説明を口にしつつ、メニューを開く。
「アイテムの効果はっと」
――――――
『紙竜のぬいぐるみ』
感謝の気持ちが込められた紙竜のぬいぐるみ。
所持者が体力満タンのときに攻撃を受けると、戦闘中一度だけ無効化することができる。
ひとつの戦闘で一度しか使用できない。
――――――
しかも消費アイテムではなく、無限に使えるアイテムである。
「普通に強くないですかこれ?」
私の呟きは怒涛のコメントに押し流されていった。
お化け屋敷と隠しボスはこれにてラスト。
夏イベントが長くなってきたので、前にジンのときにやったみたいに、またどこかで後から章区切りを追加するかも……?




