シナリオライターを出せ!
うーん、攻撃無効化タイプの敵ねえ……普通のモンスター系ゲームなら状態異常にしたり、貫通できる性能の子がいたりするが、ペーパー・ドレイクはどうだろうか。
もう少し様子見してみるか。まあ、様子見とかいって時間かけていると余計に無効化部位が増えていくんだけども。アカツキ達でいっせい攻撃したり、連続攻撃でぬいぐるみを剥がし続けることはできるだろうから、ぬいぐるみを回収できないくらいの勢いで挑めば対処自体は可能だと思う。
「ペルガァァァァ!」
ちょこまかと火の粉で意識を誘導しているアカツキを追い、ペーパー・ドレイクがかぎ爪を振り回す。明らかに動き慣れていない……というか、大きな体に振り回されているような形になっている。
ツクモガミ化してからまだ少ししか経っていないということなのか、それとも大きく変化して『戦闘』するという行為自体がはじめてなのか。
……ありえるな?
「確か、発見報告はないのでしたね?」
『ない』
『誰かが情報を秘蔵していない限りはない』
『ジンくん頑張って!』
『アカツキの攻撃って綺麗で画面映えすごいよなあいいなあ』
『ないはず』
『他の施設では隠しボス発見があったけどお化け屋敷はまだ』
『属性なんだこいつ?』
発見報告もない。
『NPCの伝承でもないはず?』
伝承や文献にもない。
「……このお化け屋敷って築何年ものでしたっけ? それから、屋敷の主が死んだ年代とか」
『キャストさんが説明してたよ』
『なんだっけ?』
『待って今確認してくる。列に入らなくてもキャストさんには話しかけられるし』
『え、そうなの!?』
『なんでそんなこと知ってんだよwww』
『こういうときレキがいたら拘束して無効化封じできるのになあ』
『>>なんで知ってるの? アトラクション乗らずにキャストさんと記念撮影できないか交渉したから』
『うわあ』
うわあ。
いや、よく考えたら、滅多に来ない場所なんだから特別な衣装を身につけたキャストさんと写真撮りたいっていうのは普通の欲求なのかな。
『晴属性は効いてるみたいだけどシズクちゃんの雨属性の効きが微妙か?』
『紙だから火に弱いのは分かるんだけど水にも弱そうなのになんでだろ』
それに関しては、属性が分からない状態になっているのもなにか関わっている可能性がある。もしや新属性? こんなところで? まさかね。
脚部についた青色のぬいぐるみ達をジンが『紫電一閃』で吹き飛ばす。中の白い紙状の足が出てきて、ジンがさらに追撃しようとするが紙竜はぬいぐるみのついた腕を伸ばして無効化。さっきからこればかりだ。
本当、せめて拘束でもできたらぬいぐるみを纏うのもなんとか防げるはずなんだけど。
『聞いてきた。建物自体は改築とかされながら200年以上はここにあるのが間違いないって。それから、館の主が死んでからもそれくらいはゆうに過ぎているはずだってよ』
なら、やっぱりこのペーパー・ドレイクは館の主が幼い頃に描いたものであることに間違いはないだろう。推測は合っている。100年経ってツクモガミとなった。そして戦闘経験は少ないか、皆無。
ならこっちを害する気はない……? いや、攻撃はしてくるし、少なくとも刺激された獣状態だ、館を守っている? 守るものなんてあったか? ここはお化け屋敷としてテーマパークの一部になっている。ペーパー・ドレイクを作った人はもういない。
ツクモガミというものが『人の死』を理解していない可能性は?
……これかな。
みんなに指示をしながら、その場を動かず考えを巡らせる。頭を使え、絶対になにか攻略法があるはずだ。絶対あるはずなんだ!
ミズチのときだって諦めなければ道は開けた。
私ならできる。私なら辿り着ける。みんなのパートナーなんだから! 絶対に攻略してやる……!
「ペグラァ!」
「えっ」
力を溜めたかと思うと、ペーパー・ドレイクの体に纏われていたぬいぐるみ達が弾かれるように、いっせいに離れてこちらに向かってくる。全体攻撃だ! 咄嗟に身を逸らしたものの、ぬいぐるみが発光して目の前で膨らみ――。
「助かりました、オボロ。今回復を!」
私の羽織りをくわえてすぐさまオボロが離脱。しかし爆風に煽られて遠い場所に二人して着地する。ギリギリだったためか、私を庇ったオボロの毛皮が少し煤けている。爆風だけとはいえ、炎を浴びたのだ。雪属性の彼女には辛いはず。
すぐに回復して抱きしめる。頬をペロペロと舐められる感触に、ぼーっとしていちゃいけないなと反省する。
そんな姿を、攻撃をやめて静止したペーパー・ドレイクが一匹――見つめていた。
「大切な人を守りたいと思うのは、誰でも一緒……ですよね」
数秒静止していたペーパー・ドレイクは我に帰ったように首を振り、再びぬいぐるみを体に纏わせだす。
さっきからずっと同じ場所に、同じ色のぬいぐるみだけを纏わせているようだけど……あ、そうか。
気づいた。
真っ白なペーパー・ドレイクは、『絵と同じ』になろうとしているのだと。
絵には、色がついていた。脚部は青かったし、腕は赤かったし、とてもカラフルだった。
この紙竜は、もしかしたら自分を『絵と同じ』にしようとしているだけなのかもしれない。
それはなんのために?
――そんなの。
「やっとパートナーになるために出てこられたのに、肝心の人がもういないなんて……運営に不幸の手紙でも送りつけてやりましょうか」
背景が重すぎるんだよ!
シナリオライターを出せこの野郎!
さて、目的がなんとなく分かったのだからやることはひとつだね。
合っているか、合っていないかの答えあわせはやってみれば分かるよ。考えすぎる前に、とりあえず行動だ!
「手伝いましょう。このペーパー・ドレイクが、本当の姿になれるように」
ぬいぐるみが増えるごとに無効化部位が増えるっていうのに、そのお手伝いをしようだなんて気が狂ってるね!!
まあでもやる価値はあるはずだ!
想像が間違っていたらみんなまとめてゲームオーバーになるだけよ!
攻略法は複数あるので、貫通性能持ってる子で戦ったり、拘束してスキル封じしたりするのも手のひとつで合っています。




