プレイヤーにダイレクトアタック決めるのやめてくれません?
『それで鳴り始めたオルゴールを不気味に思って止めようとしたらさ、なんと電池が入ってなかったんだって』
『ひえ、こわー』
な ん で 。
人が怖がりながら頑張ってお化け屋敷攻略してるときに怪談話始めてるの? ド畜生なの? 鬼畜すぎない? 誰だよ最初に始めたの。
というかあれだね、じわ怖〜な演出が多いから悲鳴をあげるようなドッキリはなかなか来ない。やっぱり強制ログアウトとかにならないように調整してあるんだと思う。
……てことは、順番待ち中に聞こえてた悲鳴はお化け屋敷の演出の一環なのかなあ。
――――――
妬ましい。
ああ、昔はもっと夢を持っていたのに。
だが、もうあそこには行くつもりがない。
私にはこいつらがいるんだ。
――――――
またメモだね。拗らせてるなあ……。それと、メモと一緒にスマホらしきものが置いてあるね。見たこともないくらい分厚いスマホだ……旧型かな? レトロでちょっと可愛いかも。でも重そう。やっぱホログラムで動画見られるタイプが一番楽しくていいんだよなあ。
そんなことを思いながらスマホを触ってみると、パッと画面が浮かび上がりパスワード入力画面が映る。いや、ここ廃墟設定だよね? なんで電源つくのこわ……。
パスワードらしきものは……なかった気がする。数字だよね?
もしかしてどこかにパスワードがあるんだろうか。
調べ直そう……と思った矢先に、メモの裏にちっちゃく文字が書いてあるのを発見した。定番だなあ。
ええと、四角いボックスのようなもので区切ってあって、その中に数字が書かれてるけど。なにかの暗号かなにかだろうか?
①
━ ━ ━
② ⑥
━ ━ ━
⑤ ③
━ ━ ━
④
━
ええ、絶対暗号だよこれ。
あれ、でもこの並びついさっき見たような気が……?
「あ、これスマホのパスワードですか」
確かパスワード入力画面もこんな感じに出ていたはずだ。
ならこの数字は押す順番かな?
書斎らしき場所であれこれ試行錯誤しながら脱出ゲームじみたことをしていると、飽きて来たのかジンが肩から飛び降りてにゃごにゃご言いつつ部屋の中で遊び始めた。オボロも、アカツキとシズクがいるなら大丈夫だろうと判断したのか、私を一度見上げてからジンと追いかけっこを始める。
画的にも可愛らしいのでホラーな雰囲気を忘れることができるため、特に注意とかはしない。ジンに関しては自由にしていたほうがなにかフラグを踏んだりするかもしれないからね。幸運猫様々である。
この暗号の順番通りにパスワードを入力するとなると、『249076』かな。
「開きました!」
『さっすが解くのが早いw』
『別になくても館は出られるけど、解けると嬉しいよねー』
『せっかく暗号解いてんだから無粋なことは言うなって』
どうやらスマホで開けるのはこの館のマップみたい。
結構広くて、順路通りに行っても時間がかかりそうだ。まあ順路通りに行くしかないんだけども。一番気になるのは珊瑚のマークがついた部屋だよね、やっぱり。
ということで書斎から出ようとしたとき、それは起きた。
なぜか部屋の中で妙に音の響く『カチッ』という音が聞こえて、音の発生源を向く。
そこには、追いかけっこをして勢い余ったジンが壁の一部に頭をぶつけてクラクラとしている姿があった。そして、なにが問題かというと。
「暖炉の中に入っちゃダメじゃないですか。危ないかもしれませんよ?」
その壁の一部とは、石造りの立派な暖炉の中のことである。
さすがに、演出とかでいつ火がつくかも分からないところに突っ込んでしまうのは怖い。怪我をするようなアトラクションじゃないと信じてはいるけど、それはそれとして怖い。
リアルなら、二階に暖炉があるとか重さ的に大丈夫? とかも思うところだけども、ここはゲームだし、それに関してはまあ問題はないだろう。
しゃがんで暖炉の中を覗く。
暖炉は大きな造りのもので、しゃがめば中に入れそうなほどだ。その中に目を回しているジンがいる。ふらふらと出てきた彼を抱きとめて撫でつつ、なんとなくさっきの『スイッチが押されたような音』が気になり、中に入らない程度に覗き込む。
石造りの立派な暖炉は大きな四角い石で組まれており、背面の壁ももちろん四角い石が連なってて……って、これついさっき見た造りだぞ?
しかも見るに、ジンが頭突きしたであろう場所がへこんでいる。
ちょうど背面の真ん中あたり……早い話が、さっきの暗号でいう『0』の位置だ。
『え、なになに?』
『隠し通路発見かー?w』
『そういやジェットコースターの待機場所に隠し通路と隠しボスがいたって報告はあったな』
『え、まじで言ってる?』
『その情報初耳なんですけど……』
まさか。まさか?
石でできた壁が暗号を打つ場所になってるとか、そんな馬鹿な……と思いつつも手は『249076』の数字を打っていく。
石壁を手で押せば容易にへこんだ。完全になにかのスイッチのように、へこんだらへこみっぱなしだ。あれ、これどうしよう? ジンが先に0を押しちゃってるからリセットするために部屋を一旦出たりしないとダメか?
不安に思いつつ番号を押していくと、ちょうど五つめを押したとき。つまりジンが押した分を合わせて六つ石壁を押したとき、『ガタンッ』と音がして全てのへこんだ石が、せり上がり元に戻った。なるほど一定回数で自動リセットか。良心的だなあ。
今度は確実に『249076』の数字を入力する。
すると、今度はよりいっそう大きな音が響いて、暖炉の下部が開いていく。ご丁寧に鉄梯子まであるようだ。暖炉の中に入って降りろということだろう。
「あの、これ……」
『隠し通路ですねぇ!』
『未発見だったやつだ……ドキドキする』
『うそー、先に行っちゃってるから今更戻れないわー……』
『盛り上がって参りました!』
だよねぇ!
行くしかないか。
「オボロ、ついて来られます?」
なんせ梯子だ。底は浅いみたいだから、ジャンプして着地すればいいんだろうけど。頷くオボロを最後にして暖炉の中の隠し通路に侵入。下に降りると、全員が降りた時点で明かりが点灯し、独特な機械音をさせながら床ごと下降し始めた。まさかのエレベーター!?
しばらく待っていると、唐突にエレベーターが停止して暗くなる。
薄らぼんやりとした視界の中で、一箇所だけ光が漏れている箇所があることが分かった。真正面にある扉だ。少しだけ開いていて、その隙間から明かりが漏れている。
「ボス戦でしょうか……?」
エレベーター内が既に広いわけだが、どうだろうな。
ボス戦があると思って入ったほうがいいかもしれない。
恐る恐る扉を開けると、ある意味背筋が凍るような光景が広がっていた。
「子供部屋……?」
そう、子供部屋である。しかも、妙に広い。
あちこちにカラフルなぬいぐるみが点在していて、天井にはパーティで作られるような、円状の紙をクサリのように繋げた飾りが無数についている。
床には真っ白な紙のようなものがたくさん散らばっており、奥にはずいぶんとアナログな勉強机が置いてある。
お化け屋敷にファンシーな子供部屋。ホラーの組み合わせとしてはありきたりだが、実際に見るとかなり異様でゾッとするものだ。
恐る恐る近づいて机の上を調べる。
日記帳だ。茶色くなっていて、かなり古そう。パラパラとまくると、ほとんどが白紙だが、たまに聖獣でも描いたのかなという絵がある。
そして一番最後にあったのはカラフルな姿をしたドラゴンの絵だ。
題名には『俺のパートナー』と書いてあり、かなり詳細な設定らしきものがその下にズラズラと書き綴られている。
どう考えても『俺の考えたサイキョーの聖獣』ですどうもありがとうございました。のちのちに黒歴史になるやつだこれ。
あの、プレイヤーにダイレクトアタック決めるのやめてくれません?
日記帳は読み終えた途端に光りだし、私の手を離れて背後に回っていく。
あ、これはと思って慌てて振り返ると、日記帳を中心にして床に散らばっていた無数の白い紙が集まっていくところだった。
そして紙は先ほどの絵の通りにドラゴンを作り出し、ドラゴンが大口を開けて咆哮する。絵と違うところがあるとすれば、白い紙で構成されているせいで色がないということくらいかな。
「ペルガァァァァ!」
「うわ変な鳴き声」
『草』
『いや草』
『かわいそ』
――――――
【『ツクモガミ』ペーパー・ドレイク】
属性: ?
レベル:20
体力:???
SP: ???
※ 道具カテゴリーの存在のため、破壊しても殺害カウントは入りません。
――――――
へえ、なるほど。魔獣にも見えるけど、あくまでツクモガミは道具カテゴリーなんだね。ピニャータと一緒か。
思わぬところで隠しボスに遭遇しちゃったけど、どうするかなあ。
>>怪談話でホラー包囲したい。
こんな感じの感想をいただいてド畜生かよって笑ったあと即採用しました。
いつも誤字報告や感想ありがとうございます!!




