なにげない博物館の壁画に重要ヒントが隠されてることってあるよね
ランド内のどこかにスタンプをくれるサンゴさんがいるはずだけれども……前回の砂漠のことを考えると、鬼娘にコスプレしている可能性があるんだよね。見た目と魚のヒレのような耳で見分けるしかないかな。
それにしても、鬼ヶ島ランドの住民は褐色よりの人が多いイメージだ。鬼のツノと合わせて似合いすぎる。『鬼楽』の人達はアラビアン風な美男美女って感じ。ランド自体に流れているBGMもアラビアンナイト風だ。露出も多めだね。褐色美人と言えばこれ! みたいな見た目の人が多い。
鬼ヶ島なのになあ……日本風かと思ったらそうでもないときもあるよね。
そういえば、さっきの受け付けのお姉さんは褐色じゃなかったが……よく見ると褐色も多いが、それ以外も入り混じっているように見える。
共通点があるとすれば……みんな、右腕が宝石のように硬そうということだろうか。文字通り、岩でできたような腕をしている。あれはなんだろう? 金剛石? いや、黒いから黒曜石か……? 鬼のツノ以外にも特徴があるんだね。なにか理由があったりするんだろうか?
鬼の皆さんは仲良さそうにアトラクションの案内をしていたり、客引きしていたり、そして桃太郎チケットなのであろう、ハチマキをしている人にバトルしよーぜと声をかけていたり様々だ。
神獣郷の世界自体が文化入り混じりみたいだから、まあそういうところもあるよねって感想だ。道端でダンスを披露している人もいるようだ。いいな、ご教授願いたい。あとでお願いしてみようかな。
と、その前にさっき受け付けのお姉さんが指し示していた博物館に入る。
鬼が『鬼』ではなく『鬼楽』と呼ばれる由来でも分かるんだろうか。
拝観料は無料。よ、よかった……!
「とりあえず順路通りに行きましょうか」
あ、でもこういうのって配信で見せないほうがいいんだろうか?
実際にやってみて来てね! とか言うべき? ……いや、配信見てる人はみんなネタバレ上等で来ているわけだし、普通に見ちゃうか。
「ええっと、壁画とその説明らしきものが続いていますね。読み上げたりはしないので、各自ご自由にご覧ください。私も博物館ですし、ちょっと黙ります」
『えー』
『読み上げてくれないんか』
『おっと、作業用BGMにしてたから作業止めなきゃ』
『どうせ作業せずに見てたくせに』
『なぜばれたし』
壁画はカクカクした感じの聖獣や神獣が描かれている。
一番最初にあったのはこの神獣郷の歴史だね。オープニング映像でもあった、人間の王様が勝手して、太陽と月の神獣が怒ってしまった話だ。
月の神獣は怒って魔王となり、魔獣を従えて人間に反旗を翻した。太陽の神獣は隠れてしまったが、一人の共存者と聖獣によって、もう少し人間を見守ってみようと考えを改めた。このことがきっかけで、全ての人間が聖獣と絆を結ぶことができなくなり、聖獣が心を開くのは共存者に限定されるようになる
そして人間と聖獣の架け橋となったのは神獣『鳳凰』の二匹と、二匹の『麒麟』。四匹は二つの世界を繋ぐ大きな街を作った。それが、始まりの街『アルカンシエル』である。
そんな内容だった。この世界の成り立ちってやつだ。
……そういえば、まだ魔王関係は出て来てないな。そろそろゲームがリリースされてから一ヶ月以上経つし、その辺りのイベントがあってもおかしくないと思うんだけど。
あと、気になるのは神獣達を怒らせたきっかけの『人間の王様』がどうなったのかと、今その王国はどこにあるのか。どうなっているのか、だね。
スタートがアルカンシエルだから、私達はなんの妨害もなく優しい世界を満喫できているけれど、そのうちストーリーが大きく進んだら殺伐とする場面も出てくるだろう。もしかしたら、この子達との絆も試されるようなことがあるかも……それが王道だからね。絶対そういうストーリーがあると思う。
だってあの運営だよ!? ユールセレーゼ達のストーリーみたいな、しんどいシナリオ書いてくるような運営なんだから絶対あるでしょ! なんなら、意味深に『プレイヤーの聖獣が魔獣になることもある』なんてシステム入れないだろうし! そういうのは本来悪どいことをするプレイヤー対策なんだろうけど、絶対この運営ならやるって!
そういう変な信頼があるよ……。
ま、それまでにもっともっと強くなって、これまた王道主人公みたいに『絆の力』で負けない! って展開にできるように頑張らないとね。
悪役に「な、抗っているだと!? なぜ魔獣にならない!」みたいなこと言わせたいよね。絶対爽快感ある……アカツキ達を一瞬でも取られるの嫌だもの。これまで以上に構おう。そうしよう。
それから壁画は『神楽』についての説明に入った。
内容を要約するとこうだ。
――――――
昔々、あるところに一柱の神様がおりました。
神様は、珊瑚の角、黄金の瞳、水晶の心臓、黒曜の前肢、金剛の尾を有しており、世界に様々な祝福を与えました。
しかしあるとき、己の寿命が尽きようとしている事を悟った神様は、『そのとき』のために、身体の一部を山奥に遺こして言ったのです。
《我が一部に触れた者を、我が因子を守る神子としよう》
そうして神様は復活の眠りにつき、その一部に触れた者達はそれぞれの種に恩恵が与えられ、神様の一部を身体に宿すことになったのでした。
この者達のことを総称して『神楽』と呼び、それぞれの一族は種名に『楽』をつけることとなったのです。
――――――
とまあ、こんな感じだ。
この『神様』ってやつは多分神獣郷オリジナルのやつだよね。こんな特徴の幻獣知らないし。ということはストーリー関係かな。
で、『鬼楽』はその神様の一部を持った一族と。
黒曜の前肢って書いてあったから、鬼の子達はこれに触れたということだね。だからああいう特徴があるんだなぁ……ん、珊瑚のツノってことはもしかして……? まさか、いや、サンゴさんってツノないし、違うよね……?
最後には疑問が増えつつも、順路の最後に差しかかる。
こっちはそれぞれの一族が消えていった場所の壁画かな。
珊瑚は五つの島を結んだ中心の海へと沈み、黄金は山奥の霧に閉ざされた場所へ隠れ、水晶は仲間を増やしながら放浪し、黒曜は大きな岩山のある岩場の島へ辿り着き、金剛は世界の裏側へと隠れ去った。
って、これ。重要なのでは? スクショ撮っとこ。
そして順路を回り終え、出口を抜けるとなんとそこは――お土産コーナーでした。
うっそでしょ、ゴールド足りるかなあ……。
そんなことを考えて顎に手を当てる。
私の肩には、やれやれと首と翼を振るアカツキの姿があったのでした。
遊園地で買えるものって高いよね……。




