ようこそ、鬼ヶ島ランド!
カコン、カコン、と歩くたびに小気味の良い音が鳴る。一本歯の下駄でいつものようにバランスをとりながら、私はその橋を渡り終えていた。
わーお、ネオンがすごい。
というか……。
「やっぱり遊園地ですねこれ!?」
目の前に広がるのは一つの岩壁で構成された山と観覧車、それと各地にある意味深な建物の数々。どこからか嬉しそうな悲鳴……具体的に言うと、ジェットコースターで聞こえるような「きゃー!」が響き渡る。
門には『ようこそ 鬼ヶ島ランドへ!』の文字がネオンで光っている。まぶしい。こってこての遊園地っぽさがある。むしろ古典的すぎて逆に新鮮だ。チケット売り場とかある……今の遊園地は電子的な情報を手の甲に転写して識別するからチケット売り場なんてないんだよね……門のところで手の甲を差し出して3秒で入園できる。
なお、手の甲に情報を転写すると言っても、見えないインクのようなものがつけられるだけで人体に影響はない。それを門を通ったり、入り口の機械の中をくぐることで入園者を認識してチケットの代わりにするものである。今どきならどこの遊園地でも実装されている。科学の進歩だね。
だからここまで『古典的』な遊園地は初めてだ。
一昔前のアニメや漫画の中でしか見たことがない、まさに未知の領域!
これはこれでワクワクする!
「チケット売り場がありますー! すごい!」
当然テンションは爆上げ。主にカジキカリバーのせいでハテナで埋め尽くされていた気持ちが吹き飛ぶくらいの衝撃だった。
列に並んでいる最中はみんなのブラッシングをしながら、聖獣が喜ぶブラッシングの仕方を軽く解説。
多分あとからこの部分だけ切り取って『ブラッシング講座』として動画をアップすることになるだろう。もしくは、私の代わりに既に作ってくれている人がいたりするかもしれない。
そしていよいよチケット売り場の受け付け! というところで受け付けのお姉さんに視線が行く。額から二本のツノが生えたお姉さんである。
まさか鬼人? 乙姫ちゃん達のような龍人、サンゴさんのような人魚と来て一気に『人』としての種族が増えたな。このイベントで大々的に解禁ということなのだろうか? でもアバターは亜人にできないみたいなんだよね。もったいないなあ……。
「ようこそ、鬼ヶ島ランドへ。ここは『鬼楽』の経営する娯楽施設のひとつです。遊園地に入るには桃太郎チケットと鬼チケットがございますが、どちらにいたしますか?」
お姉さんの言葉を脳内で復唱して首を傾げる。きらく……気楽? 娯楽施設なだけに? 分からなかったので聞くことにした。それに、チケットの種類もよく分からない。いや、桃太郎とか鬼とかは分かるんだけど、なんの違いがあるのかが分からないということだ。
「えっと、その『きらく』というのは……? それと、チケットの違いを教えていただきたいです」
「はい、『鬼楽』というのは、鬼に楽しいと書いて鬼楽と読む言葉です。私達岩場に住むツノの生えた人間のことを指します。詳しくは『神楽博物館』へと訪れてみてください。それから、チケットですね」
お姉さんは受け付けを抜けた先にあるレトロすぎる建物を手で示すと、次の説明に移る。
「桃太郎チケットを所持していると、島のあちこちにいる『鬼楽』と手合わせをすることが可能です。鬼楽とその聖獣は基本的に好戦的で、力比べをするのを好みます」
なるほど、文字通り『桃太郎』として鬼と戦うことができると。それはそれで楽しそうだけど……ここ、PKなしのサーバーだよね。それに、不殺を信条としているからそういうのはできないし。
「桃太郎チケットをお持ちのかたは鬼楽のほうから声をかけ、勝負することもございます。誘いがたくさんくると考えてください。しかし、『死』はご法度。お互いが死なぬよう、特殊なフィールドを霊術で展開し、必ず体力が1残るようになっています。勝てば商品も出ますし、経験値ももらえますよ」
経験値稼ぎと考えることもできる……と。しかもデスペナルティになる危険性が一切ない。死ぬことがないなら不殺を貫いている人も安心して稼げる。なるほどなるほど。
「それから、鬼チケットは、それらの戦いをしたくないという意思表示になりますね。鬼楽の仲間としてお客様を扱います。ただし、その間はこのアクセサリーをつけてもらいます」
お姉さんが取り出したのは鬼のツノっぽいカチューシャである。まさに遊園地って感じがするなあ。それなら私が買うのはもちろん――。
「鬼チケットでお願いします!」
「はい、どうぞ。500ゴールドとなります。あなたに玉桜の加護があらんことを」
鬼チケットとカチューシャを受け取り、装備する。
似合うかな? さて、楽しんで行こう!!
……ところで、スタンプってどこ?
ゲームで遊園地行くとは???




