わけがわからないよ!?
――――――
エクストラ・カジキカリバーを釣り上げました!
――――――
「ええ……」
なにこれ???
一瞬思考停止しそうになってから、慌ててアイテム欄を覗いてみる。あった。現実だ……夢じゃない。なんだこれ。
エクストラ・カジキカリバー。
刃物だらけの危険な海域で育ったため、頑丈で決して刃物では傷つかない鱗を持つ。みっしりと詰まった筋肉は非常に重く、その先端は触れただけで海を裂き強靭な生き物すら真っ二つにできてしまう。選び抜かれた者にしか扱えない伝説の吻を持つ。しかし、刃物には強いが、側面から叩かれるのは苦手。
なんだこれパートツー。
説明を見てもさっぱりですよ。伝説の吻ってなんだよ。
『吻……カジキの先端についている尖った口のような鼻のような部分のこと』
いや知ってるし! さすがにそれ自体は知ってるよ? そうじゃなくってさ、なんというか……存在自体が意味分からないなこれ。
「えーっと……とりあえず、釣りを手伝ってくださった皆さんありがとうございました」
「いいってことにゃ〜」
「手伝えて光栄です!」
ルナテミスさん以外の人はちょっと遠巻きにして私を見ている。手を振ってみるとノーカウントで後ろにぶっ倒れたため、かなり熱心なファンなんだろう。イベント中なら動画を見てその場所に行き、意図的に会おうとすれば会えるだろうけど、さっきみたいな協力プレイすることってなかなかないだろうからね。
まあ、大半の人は私のカジキカリバーに困惑してるんだけど!
試しに装備できるか選択してみるが……うん、無理だね。なんだよ、持つのに必要な力が300以上って。さすがにわけが分からないよ……。
うん、しかしレア度はS。今まで釣り上げてきたどの武器よりも実は高い性能を持っている。攻撃力ですら、普通に釣り上げてきたツクモガミよりも上だ。
こいつが普通のツクモガミならベンケイに渡せたんだけどなあ。
『ベンケイに渡すの試すだけ試してみない?』
『えー、ベンケイって魚で納得したことないじゃん』
『いやでもこれならいけるでしょw』
『単純にベンケイがどんな反応するのかが見たい』
『それは一理ある』
うっ、たしかに反応は見てみたいかも……。
「分かりました。やればいいんでしょうやれば!」
諦めて、潔くベンケイの元へ向かう。岩場地帯から少し歩いて、鬼ヶ島ランドへと続くらしい橋の真ん中へ。そこで仁王立ちしている、武人っぽい人に話しかけた。
「無、良い武器を従えてこその刀集め! 娘、良い武器は持っているか?」
ここでカジキカリバーを選択。
いつもなら「この程度の武器、我には不要」とか言われるんだけど……。
「ふうむ、素晴らしい! 合格だ。このエクストラ・カジキカリバーさえあれば奴にも勝てるやもしれぬ。娘よ、礼を言おう。自由にここを通るがいい!」
いいんかい!!!
というかこの人の口からカジキカリバーの名前が出てくると非常にシュール……というか、あー!? か、カジキが。カジキが彼の背負っているカゴの中に入った!?
ベンケイの所持している刀の中にカジキがいるのすごい違和感!
え、今後ずっとこのままなの? ベンケイさん見かけるたびに笑いそうなんだけど!
「かたじけない。それでは!」
手を振ってベンケイさんと別れる。
流れでそのまま鬼ヶ島ランドの方面に歩いてきてしまったが、まじか。本当の本当にクリアしてしまった……いいのかこれ。
『カジキカリバー、スレでもみたことないしもしかしたらすごいレアかも』
嘘でしょ。
なお、のちに運営から発表された確率表によると、カジキカリバーは「ソシャゲのSSRが十連ガチャで三枚連続で出た」ときの確率と同じくらい出現率が低いレア中のレアなのだった。
嘘でしょパートツー。
こうして、なんとも言えない気持ちで私は鬼ヶ島ランドへと進んでいくのでした。わー、観覧車が見えるー。楽しみだなーーー。
「約束された勝利の吻」はさすがに作者も腹筋崩壊。
見た瞬間笑いました。




