とんでもないもの釣り上げちゃいました!?
「そういえば、このカジキって料理できるんですよね?」
さすがに釣りに疲れて来たので、アイテムボックスを着実に埋めていっているカジキを調べることにする。意外なことにレア度は高めでAランク。皮が固くて加工が難しいらしいが、ちゃんと料理もできるらしい。そして食料品を扱っていたり、料理を出すお店に売りに行くと高値で売れるようだ。特に魚を扱った和食店などは喜んで買い取ってくれるのだとか。
また、料理スキルを使って調理すると攻撃力アップやら釣果アップのバフがつくらしい。釣り方面のバフは、上手いこといけば更にレア度の高いものを釣れる確率が高くなる効果になることもあるそうだ。
そう聞くとやらずにはいられないよね?
『おっ料理?』
「そうですよー」
お刺身にでもしますか。
料理スキルは実のところ、ちゃんとした料理の工程を再現したほうがレア度の高い料理ができる確率が上がる。
しかし、『調理開始』のボタンワンタッチで作ることも可能だ。こっちで作るときは、上がり下がりするゲージが現れてその真ん中辺りのエリアでちょうどストップできるといい料理ができる……という単純な形になっている。ゲージの真ん中にものすごく狭い赤いエリアと、それなりに狭い黄色いエリアの区切りがあり、赤いエリアで止めると『大成功』で、黄色いエリアで止めると『成功』だ。
大成功なら料理は2ランク上のものができる。成功なら1ランク上だ。それ以外のエリアは広めの緑のエリアと、他全部が真っ黒のエリアに分かれており、緑なら『失敗』でランクが下のものがランダムでできる。黒は『大失敗』であり、バフ効果はつかないしただのゴミ同然になってしまう。
正直こっちで作るほうが楽である。料理の手順を知っていたとしても、こちらのほうが断然早いし。
というわけでカジキの活け造りを五人前ワンタッチで調理し、ずっと座っているのもなんだからとみんなで食べる。今回のやつはシズクの食いつきがものすごくいい。やはりカジキは美味しいんだろうね。蛇とはいえ、ほぼ水生生物のような扱いだからか卵や魚が好物らしい。
ジンもカジキに夢中になっていて、すぐにペロリと食べ終えてしまった。
肉食の子は魚も気持ちよく食べてくれるからいいよね。オボロはお肉のほうが好みで、アカツキは木の実や果実みたいなもののほうが好きみたいだけども。
「すご……口の中で溶けるみたいな美味しさ……なにこの再現。味覚の再現性は低く設定されているはずなのに、それでもお店で食べるもののように美味しいです……実物がもしあるなら、どれだけすごいんでしょうねこれ……」
神獣郷オンラインでは、味覚の再現率は70%といったところだったか。他のVRゲームでは味覚も完璧に再現しているものがあったりするが、そのどれもが「プレイヤーが現実で食事を取らなくなる」という問題に直面することとなった。現実より電脳空間のご飯のほうが美味しかったからだ。その結果、体調を崩す人が出てきてしまい……現在では、味覚を完璧に再現しきるのは禁止されていると言っていい。
そんな中でもこれだけ美味しいとなると本物はものすごいんだろうなあ。
……お寿司食べたい。
「あ、気づいてしまいました」
そういえばさ、カジキって肉食魚だよね?
ざわつくコメント達を横目にカジキの活け造りをもう一つ作り、刺身を釣竿の針の部分に取り付ける。巻藁を引っ掛けて釣りをしてもびくともしない頑丈な針だ。なかなか壊れることはないだろう。
「カジキでカジキが釣れるのでは?」
『なんという残酷な』
『共食い』
『いや、釣りするならやるでしょ』
『まあ、発想はするだろうけど今はやらないよw』
『まさにエレヤン』
いや、エレヤン関係ないでしょ……じゃなくて。
「私はエレヤンではありません」
否定はしておかなくちゃね。
『武器は釣らなくていいの?』
「巻藁も料金かかりますし、金策のためにいくらかカジキは釣っておきたいんですよね。結構美味しいですし」
やたらと危険な海域に回遊しているカジキだから、レア度も高くてしかも美味しい。他のところで釣れるカジキはここほどレアではないらしいので、つまりはここのカジキが一番美味しいんだろうと思う。それなら、一番価値のあるカジキを釣りまくってお金に変えたり料理に変えたりしておきたいじゃないか。
ただでさえお金がどんどん消えていっているんだからさ! なんでだよ! 他の人は十回も武器を釣ればOKが出て鬼ヶ島ランドに遊びに行っているのに!
ただでさえ目立つし有名人なのに、ずっと居座っているせいか近くの人が応援までし始めちゃってるじゃないか! いちいちファンサしてあげると喜んだり、ぶっ倒れたりするからファンサをしないって選択肢はないしさあ!
「お、さっそく」
私の予想は当たり、カジキがどんどん釣れるようになった。もはや入れ食い状態だ。そうして記念すべき100匹目のカジキを釣り上げようとしたとき……岩場の下に、巨大な魚影を確認した。
え、なに……こわ……巨大な水生恐竜でも出るの?
気にはなるが、かかったカジキを放っておくわけにもいかない。針にかかって抵抗してくるカジキを緩急つけて釣り竿を操ることでこちらに近づけていき……もう少しで釣り上げられる! というときにことは起こった。
巨大な魚影が、よりにもよって釣り上げている最中のカジキに食いついたのである。
「はあ!?」
ぐんっと重くなる感触と共に引っ張られ、危うく海の中に落ちそうになる。
しかし、間一髪のところでオボロが私のシースルー羽織りを咥えて掴み、支えてくれた。しかし、巨大な魚影に対抗するにはどうにも『力』が足りないようだ。
「っく、アカツキ、オボロ、シズク、ジン。どうにか支えてくださ……!? み、皆さん!?」
みんなでどうにか引き上げようとしているとき、後ろから私を支えてくれる手が現れた。
「ってルナテミスさん!?」
「やっほー。まーた面白そうなことになってるにゃん? 手伝うよ!」
「ありがとうございます!」
「ほらほら〜、ファンならみんな手伝うにゃー!」
ルナテミスさん、まさかの登場に動揺しつつも釣り竿がへし折れないように調整しつつ魚影と力勝負を試みる。
器用値にしか振っていないから、普段なら余裕で負ける相手だ。しかし、今はなんと、私を見守ってくれていたファンのみんなが手伝って体を支えてくれている!
これならなんとかなるかもしれない。
そして二十分もの格闘の末、魚影の動きが鈍くなった。
「今です! 引き上げろおおおおお!」
口調がとかなんとか気にする余裕もなく一気に釣り上げる!
そして波しぶきをあげて空中高くに釣り上げられたのは……!
――――――
エクストラ・カジキカリバーを釣り上げました!
――――――
「ええ……」
なにこれ???




