ひと休み中の一幕

　洞窟の中はそこまで広くはないが、私とサンゴさん、それと聖獣のみんなが横になる程度の広さはある。もしかしたらおやすみ用のエリアなのかも？　

「スタンプを押したあとだからぁ〜、いったんホームに戻ることもできるわよ〜？　簡易的な記録はついてるもの〜。こんなところで休むのは体に悪いわよ〜？」

　サボテンの着ぐるみをいそいそと着直しながらサンゴさんが言う。

　洞窟の中でおしゃべりしながら配信を垂れ流していたわけだが、まさかそんなことを言ってくるとは……っていうか戻れたの！？　

『そうそう、戻れるんだよね』

『言われてみればそうなんだけどさ』

『せめてアナウンスしてほしいところです』

『わかる。このゲーム面白いんだけど変なところで不親切だわ』

　そういうのは要望に出すものだよ。いや、運営がガバらなければいいだけの話なんだけどさ。あとでメッセージ送っておこう。

「……その、戻れるの知らなかったですね」

「あら〜？　…………言ってなかったかしらぁ」

「えっと、はい。書いてないと思いますよ」

「あらあらあら〜いけないわ〜、いけないわねぇ〜。周知を忘れてしまうなんて〜！　急いでお知らせしなくちゃいけないわ〜！　ケイカちゃん、お知らせはこちらから流しておくからぁ、安心してちょうだいね〜！」

　おっと！？　サンゴさんが独自にやってくれるのか。それはありがたい。なるほどね、こうしてNPCに話すことで運営にメッセージしなくても、ちゃんとミスを直してくれることがあるんだ。やっぱり仲良くなるにこしたことはないね。

　たとえ仲良くなればみんな同じ対応になるのだとしても、ちゃんとやり込みをすればするほど、打てば響くっていうのはゲームをやってる側からすれば嬉しいことだ。

「はい、マイクをオ〜ン！　セイレーンちゃんカモ〜ン！　全国に広げるためにバフをかけてちょうだいな〜」

　ん、セイレーン！？　

　あれ、さっきも思ったけど人型の聖獣はいないんじゃ！？　セイレーンって確か人魚と同じく上半身が女性で下半身が魚か鳥じゃなかったっけ！？　

　思いながら立ち上がったサンゴさんを見つめると、彼女は貝殻や珊瑚でできた杖を取り出してその場の地面に突きつける。そしてその中心から青い魔法陣が広がり、中から翼のかたまりがぽんっと浮かんで出現した。

　せ、セイレーン……？　

　六対の翼が中心の上半身を覆い隠すように閉じていて、その下に人魚の尻尾のようなものが垂れている。つまり上半身は見えない。

『上半身を見せない……！？　そういうのもあるのか！』

『ワンチャン本当にセイレーンらしく女の子だったりしない？』

『どーーーせ、中身は人間の姿じゃなくてそれに近いなにかでしょ』

『運営はケモナーの集まりかよぉ！！』

『知ってた』

『運営は頑なに擬人化を否定するなぁ』

『まあ、擬人化ゲーも多いし、いい差別化にはなってるんでない？』

　私も、すぐに擬人化されたりすると多少「なんで！？」ってなるタイプだし、嬉しいといえば嬉しいけどね。まさか人型モチーフの聖獣まで頑なに人型から外してくるとは。そこまでは予想外だったなあ。

　セイレーンは、さらに大きな魔法陣を展開してサンゴさんがその上に乗る。

　それからサンゴさんはマイクに向かってアナウンスを始めた。

「えー、マイクテスですわ〜？　さて、お知らせです〜。新たな島に到達している場合〜、スタンプを押せばホームや、登録した町へと帰ることが可能になりますわ〜！　それぞれの場所に〜、サンゴ印の魔法陣が刻まれています〜！　そこから移動が可能となりますわ〜！」

　目の前で聴いているはずのアナウンスが、頭の中で二重になって聴こえてくる。しっかりと遠くにいる人にも、こうしてアナウンスが響いているんだろう。

　それから、サンゴさんが知らないために彼女の言葉では説明されないが、視界の右下にお知らせコーナーとして【魔法陣を使わなくても、メニュー画面からショートカットを解放すれば、いつでも帰還可能となります】と言葉が流されている。

　メニューを開いて一番下に追加された部分を選択してみると……。

「知ってた」

　なんと、移動して魔法陣を使わなくて済む「メニュー欄の帰還方法」は課金要素だったのでしたとさ！！　

　なるほどね！　メニューがあるのになんで魔法陣かと思ったらそういうことか！　移動の手間を省きたかったら課金してねということですね！　ちくしょうめ！！　

「どうしたのかしら〜？」

「いやいや、なんでもないですよ。世の中上手くいかないなって思っただけです」

「世の不条理なんて物理で壊しちゃえばいいのよ〜」

「なかなか脳みそが筋肉でできてそうなことを言いますね」

「あらあら〜褒められても照れるだけだわ〜？」

「褒めてませんけど！？」

　天然なのかわざとなのかよく分からない人だなあ……。

「次は岩場の多い島でしたっけ」

「そうよぉ〜、頑張ってちょうだいね〜！」

　岩……岩系って属性はどうなるんだろうなあ。

　岩の属性なんてないからね。

　次のボスはなんだろう？　ボス戦も同じギミックばかりじゃないみたいだし、楽しみにしておこう。