シナリオ担当の運営さんを助走つけてぶっ飛ばしたいんですけど

「ふあ〜、助かったわ〜死んじゃうかと思ったの〜」

　気がつくと、サンゴさんはサボテンの着ぐるみを脱いで見慣れた『分身』の姿になっていた。頬に手を当てて、はんなりと笑う。天然っぽい人だからそういう言葉が似合うんだよね。

「良かったです。乙姫ちゃんを置いていっちゃだめですよ」

「分かってるわ〜？　そんなことになったら、みんなが大変だものね〜」

　ん？　みんなが大変？　もしやこれって……まさか、サンゴさんが死んだときの展開まで実装済み……？　

「えっと、そうですかぁ。あ、スタンプお願いしまーす」

「はあ〜い」

　背筋がゾワっとしたので、言葉には出さずに思念入力でコメントに確認する。

【あ、あの。もしかしてサンゴさんが死んだパターンって誰か検証していたりしますか？】

　視界に映った自分の質問を確認しながら、表では笑顔でやりとりしてスタンプを受け取る。今度のスタンプは砂漠に咲いた花、ナタ・デ・ココ……じゃないや。パタ……なんだっけ。なんとかグアナコ？　あ、パタ・デ・グアナコ！　これだ！　とにかく、スタンプは今一面に咲いている花だった。

「この花って種は取れます？」

「採取をお勧めするわ〜？　可愛らしいお花が咲くのよ〜文字通りね〜」

「そうですか。ならいただきましょう」

　もういっそ『庭師(ガーデナー)』になる勢いで植物を集めている気がする。ちなみに、植物を50種類以上採取して、全部Sランクに育て上げることができれば職業『庭師(ガーデナー)』が解放されて転職も可能になるらしいよ。

　自分のレベルが50以上になると『サブ職業』を選んで育てられるようになるらしいので、最初に『薬師』とかの生産職を選んだ人はサブに庭師を選んで、自給自足しながらポーション作りをしたりしているようだ。

　私はどうしよっかなあ。レベルは30の後半だから、まだ考えるには早いけど……普通に今のスタイルのままで行くなら芸術関係だよね。その辺は条件達成したらよく考えておこう。

　さて、さっき私が質問の結果はというと……。

『話したほうがいい？』

『質問されてんだし言えばいいじゃん』

『ネタバレにはならないかな』

『本人がいいって言ってるんだしいいんじゃないですかね』

　しばらく審議されたあと、ようやく質問の答えをお目にかかることができた。

　みんな、私のためにネタバレ回避を考えてくれていて嬉しい限りだよ。

【イベントの直接のネタバレにならない限りは話してくださって大丈夫ですよ】

『まあ、直接的なネタバレではないね』

『ケイカちゃんは絶対行かないだろうルートだしなあ』

『イベントが終わってから見にいってみるといいよ』

　そう言ってURLとコメントが流れてくる。その名前は。

【乙姫orサンゴを殺すとどうなるか検証するスレ】

【悲壮の龍神　乙姫を攻略して倒すスレ】

【憤怒の人魚姫　サンゴを攻略して倒すスレ】

「うっわ」

「どうしたのかしら〜？」

「い、いや、なんでもないです。ごめんなさい。おほほほほ〜」

　変な笑い声で誤魔化しながらサンゴさんから目を逸らす。

　もしやこれ、PKありサーバーのスレか？　そうじゃなきゃ片方殺して反応を見るとかいう発想出てこないでしょ……殺伐としすぎ。

　ていうか片方殺したときの展開を用意している辺り、運営の嫌らしさを感じる。確かに殺戮ルートがあるのは知っていたけれども、まさかイベントでも用意されてるなんて思わないじゃない。

『乙姫を殺されたサンゴは間延びする口調が消えて「海の底から永遠に這い上がらないようにしてさしあげましょう」って静かにキレて最悪な時間を過ごすはめになるぞ』

『逆にサンゴさんを殺した場合、乙姫ちゃんは泣きながら龍に変化して、さらに龍になった状態である意味魔獣堕ち？　みたいな？　レイドバトルになるらしいです』

　……うん、確かに私は絶対に辿りつかないだろうルートだね。

　絶対に行かないルートのことなら知っても構わない。わりと気になるから、あとでスレでも見に行こうかな。

　……あれ、というか乙姫さんが龍化…………？　あっ、普通にネタバレなやつ？？？　ここ、人化はないはずじゃ。

……まあ、意図せずネタバレしちゃった感じになるだろうコメントさんのことはスルーの方向で。みんなスルーしてるし……。

『あ、でもイベント後半にならないと知らないことがさらっと出てきたりするからスレ見に行くのは竜宮城に行けるようになってからのほうがいいよ』

『あー、あれか』

『秘法のことはまだだもんな』

『そうそう』

　くっ、コメント達がすごく詳しい……！　すごく気になるけど見に行けない辛さよ……いちいちボスをスカウトしていっているから、進行が遅くなるのは仕方ないとは言え、みんなが知っているのに一人だけ蚊帳(かや)の外はなんか悔しい……！　ペース配分を変えるつもりはないけれども！　

「ケイカさんはこれからどうするのかしら〜？」

「ええっと、砂漠で一夜過ごすのもいいかなっと思っているので、いったんこの洞窟で休みます。サンゴさんもどうですか？」

「いいわよ〜。お話なら付き合うわ〜？」

　そう、私はNPCとも仲良くなる方針でいかないとね。

　もしかしたら仲良くなることで情報が増えるかもしれないし。

　ということで、砂漠の中にあるオアシスで一晩泊まることにしたのでした。

　この優しくて穏やかなサンゴさんが、間延びした口調をかなぐり捨てて怒りの化身になるのか。

　それはそれで、エモいからありかも。

　……見たいとは、思わないけれど。

　しかし、そんな悲しいルートまであるとなると……ユールセレーゼのシナリオのこともあるし、シナリオ担当の運営さんには拍手喝采を送ると同時に、助走つけてぶっ飛ばしたい気分になるね。