攻略パターンが割れたあとはだいたい作業ゲー
約六万ゴールドはわりと辛かったが、私にはみんなにお店に来てもらった売り上げがあるんだ……! 六万ゴールドくらいなによ!
あ、でももう勘弁してください。
今後スタンプラリーでお金が必要になったら一旦帰ったりして、ジェム・ツリーでガチャりながら金策と並行してやらないと辛いかもしれない。
「クウン?」
「ユール、協力ありがとうございました。制限時間の三時間、十分にシャチを追い詰めることができましたよ!」
「クウン」
一日に一度だけしか呼び出せないユールセレーゼ達は、三時間が経つと帰ってしまう。故にその間にシャチを何十回も網にかけて地引き網をしていた。
シャチのほうもパターンが掴めてしまえばあとは簡単で、ジャンプ攻撃のときにギリギリまで引き付けて岩肌に打ち上がるように調整すればいいだけ。なんなら空中にいるシャチをレキのツタで掴んで位置調整までできてしまうのだから余計に簡単だ。とにかく逃げ回りつつダメージをちょこまかと与え、ジャンプしたら岩肌へ誘導して網をかけて……と繰り返せば勝手に回数メーターが進んでいくのだ。
シャチというのは頭がいいから、本当ならここまで簡単にはいかないはずなんだけど……魔獣化していて知性が少々ぶっ飛んでしまっているらしい。行動パターンは今までのボスよりもよほど分かりやすく、罠にはめやすい。なんというか……脳筋気味な行動パターンと言えばいいのだろうか。
とりあえず迷ったら攻撃しとけ! みたいな勢いを感じる。深く考えずに突っ込んできて網に捕まるものだからちょっとおバカなのでは? とすら思えてくる。
なお、ボスのシャチは一貫しているため、同一個体で間違いないだろう。
レイドボスだからかHPバーが三本も表示されていたが、出会うたびに攻撃である程度削れたままのHPバーが表示されるからだ。
もうここまで来たら意地だよね。
「さて、あと一回。頑張りましょうか」
網を買って来てからは、逃げられるたびに同じことの繰り返し。
手間取ったのは、砂漠の入口から戻ってきて、移動したシャチの所在地を見失っていた間だけである。
「っと、その前に写真撮りましょうね」
「クォン!」
分裂したユールセレーゼ達と私達で、どんどん迫る黒い巨大な背ビレをバックに撮影。これも思い出のひとつだ。ユールセレーゼ達がいつか、あの子供にたくさんお話を聞かせてあげられるようにね。そんなイベントが来るかどうかなんて分からないけれど、そうして『ストーリー』の未来を夢想するくらいは許されるだろう。
なんなら二次創作で書いたり描く人だっているかもしれない。ないなら作ればいいだけだしね。私はそっち方面できないから、配信者として頑張るしかできないんだけど。
「ばいばーい!」
「クォーン!」
写真というお土産を渡して笑顔で別れる。
時間が経つと、ユールセレーゼ達の足元に時計のような模様の魔法陣が現れて光のエフェクトと共に帰っていった。
「さて、あの子達がいなくても頑張りますよ!」
ユールセレーゼ達に構いすぎたのか、若干ヤキモチを焼いたみんながぎゅうぎゅうと私のそばに集まりもふもふに包まれる。うーん、天国。足の遅いレキが出遅れて焦ってこちらにヨチヨチ向かってくるのが、更に可愛いと思う。
「ケイカ………………ワシも」
「レキお爺ちゃん可愛すぎません?」
たくさんの『同意』の言葉と共にレキを抱き上げる。
頭の上にアカツキ。右肩にシズク。左肩にジン。足元にぎゅうぎゅうくっついてくるオボロに、戸惑っているらしいプラちゃん。だいぶレキが重いものの、プラちゃんのためにも……と、頑張ってフラスコのような殻を持ち上げる。
殻と言っても、アクアリウム・ドラゴン・プラントのフラスコは人工物で、『ガラスでできた水を入れられる器』ならなんでもいいらしい。今度金魚鉢でも与えてみようかな。それより、ドラプラちゃんをスカウトした人がいればいるだけ、それだけ違う外殻を身につけたドラプラちゃんが存在する可能性があるということだよね。
金魚でも品種改良して美しさを競ったりするらしいし、ドラプラちゃんでも殻の美しさを競う大会とかあってもいいなあ。こう、盆栽自慢みたいなやつ。運営にメールで要望出しとこ。いろんなイベントがあってほしいよね。
『来るぞ』
『来てる来てるwww』
『放置されてその辺泳いでたシャチが痺れを切らせて向かってきてる件』
『オルカちゃんガン無視でいちゃついてるからキレてるじゃんwww』
『リア充爆発させられるの?』
おっと、忘れてた。
だって、ねえ? ワンパターンなんだもの。ゲームとしては、倒さなくてもいいぶん百回達成が楽だからいいんだけどさ。
多分一番強敵だったのは、網がひとつ600ゴールドもしたことだと思う。
「はい、ということで一分もかかりませんでしたね」
『即 オ チ 二 コ マ』
大きい赤文字でコメントするのは笑うからやめて。
『速 攻 陥 落』
『んんこれはテクニシャンヌ』
『これは勝てない』
『一分も持たないとか海のギャングとして恥ずかしくないの?』
『シャチより強い女』
『これぞエレガントヤンキー』
『パワーゴリラ』
『全力散財女』
『なんか書いとけ』
『素手でシャチ釣り上げる舞姫()』
『器用値極振りとは』
『力は多分聖獣頼り』
『舞姫の手は網に添えるだけ』
ここぞとばかりに大きい赤文字で画面を埋め尽くすのやめてくれない??
動画とか配信のお約束なの? あとなんか書いとけじゃなくてなんか書け。
「いろいろ言いたいことはありますが、とりあえず皆さん。夜道に気をつけてくださいね」
『アッごめんなさい』
『我々の業界ではご褒美です』
『握手会開くって???』
『むしろ来て』
うーわ、これにはさすがに私もドン引きである。
話題変えよ。
「それじゃあ、この子の名前も決めておきましょうね。うーん……」
シャチ。シャチかあ。種族名はサンド・オルカ。砂のシャチ。どうしようかなあ……ここは直感でいいか。
「じゃ、シャークくんで」
オスだったみたいだし。あ、ちなみにドラプラちゃんはオスである。少年かな?
『そうはならんやろ』
『シャチなのにサメとはこれいかに』
『ここに来て致命的なネーミングミス!!』
『今までのネーミングセンスどこに落としてきたの?』
『大不評で草』
『(可愛いから好きです)』
いくら不評だろうとネームはもう決めてしまったのでこれで固定です。
そんなに言うことないじゃない! だって似てると思ったんだもの! 初見だとサメだと思ったくらいだし! ずっと三角の背ビレだけ出して砂の海を泳いでたし!!
そうして言い訳をしつつ、ようやく先に進むために歩きだすのでした。
三時間最低限の動きで追いかけ回していたからか、喉乾いたな……。サボテンどこよ。
「あ、サボテン。お水とりましょう」
「残念わたしよ〜! はわあ〜」
「サンゴさん!?」
手を伸ばしかけて引っ込める。突然サボテンから声が聞こえてびっくりしたからだ。そして、振り返ったのはサボテン着ぐるみを着たサンゴさんでしたとさ。
えっと……スタンプラリーのサンゴさんだよね? シャチを追っている間に、いつのまにか奥まで来ていたのか。よく見れば、確かに周囲は大きなくぼみがあって、近くに洞窟もあるし、ある程度休むには充分そうなエリア……かな。
しかしなんだかサンゴさんの様子がおかしいような?
「お、お水〜、ばたん……ぷくぷく〜」
「え、ええ……」
目をくるくる回しながらその場に倒れるサンゴさん。
水分が足りないみたいだ……イベント主催側が熱中症もどきになるとか予想外すぎるんだけど。
えっと、これは……水をかければいいのだろうか。
配信というより、動画あるあるかも?
攻略が楽なのも助かるけど、それはそれで味気ないとかいう贅沢な楽しみかたをしているようです。
*修正報告
さすがに一時間制限だときつすぎるのでユールセレーゼ達の呼び出しは三時間に修正。
HPバーの数を五本と誤って表記していたので三本に修正。




