砂海のギャング『サンド・オルカ』
「ルゥオオーン!」
合唱のように響く四つの声。
どうやらユールセレーゼ達は合体した状態ではなく、一匹一匹が離れた最後のバトルの状態で現れるらしい。すなわちオオカミと、ワシと、サルと、ウマの要素に分かれた状態で。
「よし、じゃあ行きますよー!」
これでようやく準備完了。
視線を砂の中を泳ぐ背ビレに向ける。
見えた表示は『砂海のギャング サンド・オルカ』の文字だ。レベルはかなり高めの60になっている。ここのボスがレイドバトル前提だから、高めの設定になっているのかもしれない。
全ボス共通で初心者にも易しいレベル20だと上位勢には歯応えがないだろうしね! アクアリウム・ドラゴン・プラントがイベントのチュートリアルだとすると弱くて当然だ。
二番目にこういうボスが来るということは、ソシャゲとかだとレベル60以外にもレベル70とか80のやつがいたりするよね。レベルの低い人のところには低いレベルのやつが出るけど、倒せば倒すほどレベルが上の敵が現れて、自分だけで対処できなくなったら応援を要請するようなやつ。
ああいうやつはターン制だったりするけど……これVRだからなあ。
「行きますよ、まずは様子見しながら徐々にダメージを入れて行きましょう」
どんな行動パターンを取るのか見つつ、ボスなので三本もあるゲージをちょっとずつ削っていくつもりだ。不殺するにしても、多少は弱らせたりしておかないとこっちがやられてしまいかねないし。
神獣郷オンラインでは弱らせていると、それ相応に動きに乱れが出たり、疲労を魔獣が表現したり、攻撃を外してきたりと、わりとリアルな動きの変化がある。攻撃性の強い魔獣だとかえって攻撃の激しさが増すバーサークタイプに変化したりもするから、そこは注意しておかないといけないんだけどね。今はまだ、そういうやつには遭遇していないけれども。
確か、虎とかドラゴン系とか、プライドの高そうなやつは弱らせると攻撃性が増すんだったか……シャチはどうだろうね。リアルでも海のギャングと呼ばれたり、サメやクジラでさえ食べる海の食物連鎖の頂点というイメージがあるけど。
「ユールセレーゼ達は撹乱しつつ攻撃を与えていってください。アカツキは空から。オボロは周りを凍らせて泳ぐ範囲を狭めて。シズクはまだ待機。出てきたら狙い撃ってください。ジンは追いつけるなら背ビレに攻撃を! レキも、ツタが届くなら背ビレを捕まえて引き止めてください! プラはレベル上げのために待機です! みんなの様子をちゃんと見ていてくださいね!」
暑さでオボロとレキがへばっているが、まだまだやる気には満ち溢れている。なら仕事してもらわないとね!
あとは……水分補給はこのボス戦中にも必要になるみたいで、視界の端にメーターが表示されている。みんなの水分補給タイミングも気にしながらやらなければならないので、いつも以上に私が動けない。
とりあえずバフのためにいくつか舞を踊り、あとは戦況を後ろから全体的に把握して指示を飛ばす。渦中にいるときって不思議と周りを見ているようで見えていなかったりするんだよね。
「アカツキ、後ろから砂が飛んできますよ!」
「クー!?」
シャチが、尻尾を砂に打ち付けることで上空にいたアカツキを狙った。通り過ぎざまにされた攻撃だったので気がつかなかったらしいアカツキがさらに上へと飛び上がり、回避する。
そう、こういうことがあるから後ろで戦況を見るのって大事なんだよね。バトル中、ボスの近くにいると意外と周りのことが見えていなかったりするのだ。だから全体を見て、あの子達が気付いていない場面、見えていなかった場面に指示を出して無傷でバトルを続行させる。
昔は後ろで指示してるだけのモンスターものアニメに、後ろのやつなにもしてないじゃんって思っていたけれど、こうして実際にやってみるとどれほど指示する人間が大切なのか分かる。
できれば、一緒に戦いに行きたいんだけどね。
砂地の中に飛び石のように岩肌がまばらに見えている砂海のフィールド。その中を縦横無尽に泳ぎながらシャチが飛んだり跳ねたり、砂のブレスを吐いたり。かといってこっちが攻撃しようとすると砂の中に潜航して回避したり……あっちも回避してくるからすごく厄介だ。弱らせたいのになかなか上手くいかない。
砂に潜航してから大きな口で一気に食らいつきながらジャンプする攻撃は岩肌のある地面には来ないから、潜って泳げるのは本当に砂の中だけだろう。シャチが潜ったらとりあえず岩肌の上に立って、一番ダメージが大きそうな食らいつきジャンプを回避。これで安定しているはず。
……ってこれ、どうやってアレを網で引き上げるんだよ。
隙を作れって言われても、普通に網を食いちぎってきそうなんだよなあ。
「また食らいつきジャンプが来ますよ!」
しかもこいつ、潜りすぎなんだよ。どんだけ潜るんだよ。攻撃できない場所にばっかり行くのは勘弁してください。砂の海をぐるぐるまわって飛び出してくる攻撃だから砂中ワールドツアーって呼ぶぞ。まーたワールドツアーし始めたってディスるぞ。
そしてジャンプしたシャチが狙ったのは……私か。
落ちてくるシャチからギリギリ回避してバックステップ。
って、あ。これシャチの着地地点が岩肌になるのでは?
「…………!」
空中で泳げないシャチが身をよじらせるも、あえなく岩肌に墜落。
その瞬間、シャチが痛そうな音を立てて岩の地面に打ち付けられて頭の上にピヨピヨと回るヒヨコを飛ばし始めた。
「……もしやこれ、チャンスってやつでは?」
サンゴさんが言ってた『隙』ってこれのこと!?
と、とにかく!
「今のうちに網を引っ掛けますよ! せーの!」
みんなで引っ張って地引き網だ!
攻撃できない場所で延々と飛んでるやつとか潜ってるやつとかものすごく時間食うから嫌ですよね。




