砂の海がある島
夕方。妹達といっぱいダンスバトルをして、お風呂に入ってから涼しいお部屋に戻ってきている。
配信の予定時刻に近くなってきたので、先にログインしておかないとね!
◇
熱帯雨林の島でログイン時間までひたすら植物やら虫やらの図鑑登録をしていた。うーん、50%くらいまではサクサク集まるんだけどなあ……これは収集も捗るというものだ。図鑑収集スレとか見たらそれなりに楽しそうなんだけどなあ……今はネタバレ回避中なので迂闊なことはできない。
今は自力でできる分をやるしかないね。イベント期間だけしか来れない……わけではないと信じたい。これだけ収集要素があるならイベントのみでフィールドを捨てることはないだろうし……。
っと、島に上陸した場所まで戻ってきた。
すると、サメさんがこちらに気づいて、また盛大に水しぶきをあげる。
「うん、歓迎ありがとうございます……」
今度は避けたのでびしょ濡れにはならなかったが、これは毎回やるものなの?
なんか、歓迎してくれているのが表情でなんとなく分かっちゃうから憎めないんだよ。
「えっと、サメさん……またよろしくお願いしますね」
お料理スキルで作ったクッキーをサメさんに与えると、嬉しそうに揺れている。ぱしゃぱしゃと小さく波しぶきがあがっていて、可愛いなあ……この子買い上げしちゃだめかな。
……乙姫ちゃんの泣き顔が見える気がする。やめておこう。
さ、行きましょっか。
「こんにちは〜、今回も配信をはじめて行きまっしょう!」
配信開始だ!
「さて、と言ってもサメさんがある程度ナビしてくれているんですよね。でも、海にはいろんな小島があって、宝箱代わりの貝殻とか採取ポイントがあったりするので寄りたいときは言えば寄ってくれるんですよー」
サメさんの背中にある輿に乗って、景色を眺めながら次を目指す。
確か次は砂漠だったかな? あれ、砂漠? 熱帯雨林という湿地帯の次に対極の位置にある砂漠……?
……ゲームだし細かいことは気にしないほうがいいか。
よくあるよくある。
サメさんがスピードを上げて少しすると、次の場所についた。
上陸してからざらざらするサメさんの肌を撫でて、坂を上がっていく。景色がザ・砂漠って感じに変化している。周りが海なのに島の上は乾いた砂漠っていうところがチグハグすぎてなんだか面白い。
「あ、ほらサボテンがありますよ! 水分を溜めているから乾いた砂漠でも大丈夫なんでしたっけ?」
砂漠の入り口になっているらしいところに一際大きなサボテンがある。周りが海なんだから水分については申し分ないと思うんだけどなあ……いや、海水じゃダメなのか。
『ケイカちゃん、前、前』
「え」
「こんにちは〜」
コメントで慌てて前を見ると、サボテンが動いてこっちに来ていた。思わず身を引いて逃げると、聞き覚えのある声がしてさらにびっくりする。
「サンゴさん!?」
「は〜い! この砂漠はねぇ、普通の砂漠とは違って、砂の海になっているのよ〜。奥にはもう一人『わたし』がいるからぁ、そこでスタンプを受け取ってちょうだいねぇ〜!」
「あっ、はい」
なんの説明もなく話し始めてこっちは困惑しきりなんですけど。
『ドン引きで草』
『あー、ここの反応見たかったw』
あ、そっか。知ってる人もいるよねやっぱり。ネタバレ回避ありがとう。なるほど、これがこの島のイベントかあ。サボテンコスしてる人魚ってどうなんだよ。
「それから〜、砂の海はちゃんと上を歩けるけれど、柔らかいからぁ、たまに足を取られてしまうかもしれないわぁ〜? 砂の海の中を泳げる魔獣もいるから、気をつけて行ってちょうだいねぇ〜。文字通り、『足を取られて』しまうかもしれないもの〜」
穏やかな口調でとんでもないことに言うよねこの人。
そしてさらっと物騒なことをダジャレで警告してくるという……そういうキャラなんだなあ。
「そうそう、砂の海に住む魔獣はぁ〜、砂漁で捕まえたりぃ、引き上げることもできるわぁ〜! 普段はぁ、網も噛みちぎっちゃって捕まえられないのだけれど〜、隙ができれば砂から引きずり出せるかもぉ〜。網はいるかしら〜?」
なるほどなるほど、こう言うってことはつまり砂の海で漁をしろっていうことだよね。というかフラグ?
「網、いただけるんですか?」
「購入するなら600ゴールドよぉ〜」
お金取るんかい!!
いや、攻略に必要そうだからそんぐらいのお金なら喜んで払うけどね!!
「砂の海の中では喉も乾くから気をつけて行ってね〜? あまりにも喉が乾いてしまうとぉ、体力が減ってしまうようになるからぁ、こまめな水分補給を忘れずにね〜」
「水分はスキルの水でも大丈夫ですか?」
「大丈夫だけどぉ、雨属性の聖獣がいない人のために〜、水筒を用意してるわぁ〜? サボテンから水筒で水分を回収できるからぁ、それでしのいでもらうことになっているの〜」
なるほど、救済処置ありと。
「水筒はいくらになってるんです?」
「これも300ゴールドよぉ」
網と水筒を買うなら900ゴールドか。それくらいの出費ならゲーム始めたての人も痛くはないだろうし、良心的かな。
「じゃ、記念に水筒も買っていきます」
「は〜い」
『さて、残金は?』
「君達がフローズンフルーツを買ってくれたおかげでお金はまだまだたくさんありますー!」
からかってくるコメント達と会話しつつ、私は砂の海の中に一歩踏み出すのだった。




