一部には見えない洞窟?イベントの謎【挿絵あり】
「ここは……」
洞窟のさらに奥は、広間みたいになっていた。
先ほどの幻想的な美しさのある場所とは違い、岩がゴロゴロと落ちていて乾いている印象を受ける。地面もところどころひび割れているくらいだ。星空のように輝いていたヒカリゴケも、水晶も、育たないのだろう。ここにはほとんどなかった。
けれど天井が一部分だけ崩れて、そこから細く月明かりが差し込んできている。その月明かりの下には、しわしわに枯れてしまった植物の芽のようなものがあるだけ。
近くに、そのまま外に繋がりそうな階段があるけど……今夜はさっきの場所で休むと決めているわけだし、外に出るつもりはない。
暗いからとアカツキが自身に炎をまとわせ、私も緋色の扇子を開いて炎を灯し、明かり代わりに利用している。
暗闇の中に浮かび上がる、月明かりに照らされた萎れている芽がなんだか可哀想だった。
「明らかに『なにかしろ』って場所ですよね。先ほどの地底湖の水でも引いてくればいいんでしょうか……? それとも、水をすくって持ってくるとか……?」
一人悩んでいると、コメント達も同様に考察しだす。
「……」
「シズク?」
そうやって悩んでいると、シズクが私の頬を尻尾でつついて上を向いた。あ、そうか。別に水を持ってこなくてもシズクが吐き出せるもんね。
「シズク、弱めのアクアブラスト」
「しゃるぅ……」
シズクが首を振る。あれ? 違うのか。
なんだ……今は翻訳できるレキがいない。自分で考えなければ。シズクがなにかに気づいているとして、それが私達だけで解決できるものだとして、でも自分でやらずに私に気づかせようとしている『なにか』がある。
乾いた場所。萎れた芽。月明かり。空が見える。
――「六つの場所は恵みを求めているわぁ〜? それじゃあ、いってらっしゃ〜い!」
サンゴさんの声が脳裏でよみがえる。
あ、そうか。そういえばそんなヒントをもらっていた。恵み……か。
「シズク、外で雨を降らすことはできる?」
「シャァ!」
スキル『恵みの嵐』を外で使えばいい。そうすれば、崩れた天井の一部から雨が降り注ぎ、あの枯れてしまった芽を潤すだろうと思われる。
そこで私とシズクは、アカツキ達をその場に待機させて二人だけ階段を利用し、いったん外に出るのだった。
「シズク、いったんアクセサリー外しますよ」
シズクの首から大きさを制限する『ペット化アクセサリー』であるネックレスを外す。するとその途端に彼女はみるみるうちに光に包まれ、その場で雲を発生させながら大きくなっていった。
『おっ、一目連モード』
『迫力あるなあ……』
『左右の目の色が違うのすこ』
『片方鱗の色と同じ色にしたオッドアイで一つ目表現するのいいよね』
そうそう、この見た目がとても好き。普段も一目連のときと姿自体は違わないが、やっぱり見上げるほど大迫力な姿のほうが好きだなあ。大きいと全力を出させてあげられなくて申し訳ないくらいだ。
普段は『不殺』縛りをしているから、苛烈な一目連の嵐は使いにくくなってしまうんだよね。
「シズク、恵みの嵐」
「シュルルルルルガァーッ!」
最初はぽつぽつと。しかしそれからはざあざあと雨が降る。風が吹き遊び、木々がミシミシと音を立てて揺れる。
他のプレイヤーにとっては大迷惑だが、必要なことだから仕方ないよね。
そして私はシズクの大きな口にペット化アクセサリーを差し出し、彼女が口にくわえてそれを装備するとすぐに元の大蛇の姿に変化する。
まだもう少し雨は降り続けるだろう。地下に戻り、アカツキ達の目が一斉にこちらを向く。
月明かりが入っていた天井の穴からは勢いよく雨が降り注ぎ、枯れてしまった木の芽に潤いを与える。普通ならこんなもので完全に枯れた木が蘇るはずがないんだけど……。
『お、元気になった』
『って、急成長しすぎでは!?』
……これってゲームなんだよね。
目の前で萎れていた木の芽が元気を取り戻し、緑色の回復の光をまといながら急成長。天井を盛大にぶち壊しながら大きく大きく、そして枝を伸ばしていく。
最終的には天井は全て崩れ、しかし木が瓦礫で埋まることもなく、木の成長した部分から空が完全に見えるほどまで育ってしまった。
なお、瓦礫はイベント仕様なのか私達には当たらない。
「アカツキ」
「クァ」
名前を呼ぶと、アカツキが飛び上がって炎を打ち上げる。
炎は雲を裂き、晴れて月が顔を出した。雨を止ませて晴れにするのは太陽の神獣にはお手の物だろう。
明るい月明かりが差す。
そしてこの場に残ったのは、他のどの木よりも成長した桜の大木だった。青々と葉を茂らせているが、花は咲いておらず葉桜状態だ。夜の熱帯雨林の中でもかなりの異彩を放つこの桜。
「あ、採取できます」
海風にさらされていた松の木と同じく、この桜も採取して木の芽を手に入れることができた。この桜なら、もしかしたら暑さに強い桜になるかも?
「それにしても……このイベント、私達だからできましたけれど、他の人は無理なのでは?」
『そのことなんだけどさ、周りには誰もいない?』
『たしかに。雨を降らせられる聖獣連れてないと無理だね』
『ん? なんか情報あるの?』
『え、今回のイベントってオープンワールドでやってるから他にも人いるんでしょ?』
……そういえば、洞窟に入った時点から他の人を見てないな。
もっと言えば、当たり前だけどボス戦フィールドからか。
「見ないですね」
『実はというと、僕同じ場所にいるはずなんだよね。景色は合ってるはずだし。それに、地底湖から先の洞窟なんて僕のほうにはなかったんだよ。ちゃんと配信の録画見直しながら探したんだけど』
『えっ』
『やっぱり? わたしの勘違いじゃなかったんだよかった』
『俺のほうにはちゃんとあるんだけど……』
『俺も見えない』
『こっちにはあるよ』
コメントをざっと見て困惑する。あの奥の洞窟が見える人と見えない人がいる?
『あ、でも俺のほうは木の芽じゃなくて火のついてない松明があるだけだったな。全部火を灯してクリア』
『こっちはパズルだったよ?』
『見えてる人でも内容が違うの??? なんで???』
そして、内容までバラバラ……と。どういうことだ?
考えられる可能性といえば。
「洞窟が見えていた人に質問です。乙姫ちゃん、もしくはサンゴさんから具体的なアドバイスはもらいました?」
答えは、イエス。
そして、さらなる質問で『地底湖で行き止まり』だった人達は、彼女達からのアドバイスが一貫して「もう少し精進せよ」または「二段階目の進化まであとどれくらいか」を教えてくれるという内容だったようだ。
つまりだ、地底湖から先に行けた人達はみんな「二段階目以上の進化が済んでいる」共通点がある。そして、その共通点から導き出される答えは……。
「神獣進化に必要な条件を教えてくれている……とか」
つまり、私達の中で今一番神獣進化に近いのは――シズクということ。
「ひゃんっ」
「お、オボロそんなに落ち込まないでください! まだ仮説ですから!」
非常に悲しげな声を出して落ち込むオボロの背中を撫でる。
シズクのほうはというと、心なしかワクワクした表情をしていた。
『さっすがー!』
『結構推理するよねケイカちゃん』
『合ってればいいね』
『希望があるもんな〜』
乙姫ちゃん達も言ってくれればいいのに。そうかあ……「各地で恵みをもたらせ」は進化条件のひとつかもしれない。そうなると、俄然やる気になる!
「しかし、綺麗な葉桜ですね。夜だからなおのこと、幻想的で……」
写真、撮りたいなあ。
集合写真でも撮る? でもそれだとレキを連れて来れないし。
また今度、来てみようかな。
……別荘でも建てれば全員で写真撮影できるだろうか。
「っていやいやいや、なに考えてるんですか私」
『どうかした?』
「いえ、なんでもありません」
まーた、散財しそうなこと考えてるよまったくもう。
みんなで稼いだお金なんだから少しくらい貯金しないと。
「それじゃあ、地底湖に戻りますので今回の配信はここまで。いったん落ちますね。次の配信時間も告知するのでそちらをご確認下さい」
『おつー』
『おっつおつ』
お疲れ様の言葉を流し見ながら地底湖へ向かう。
いざ、配信を切ろうとしたときにふと目に入ったコメントがあった。
『ケイカちゃんドヤ顔ピースちょうだい!』
ファンサくらいしてあげないとね。
ドヤ顔、ドヤ顔ね。垂れ目だからドヤッてもあんまり迫力ないと思うけれど。
「いつもありがとうございまーす!」
そうして、ファンサをしてから配信終了となったのである。
というわけで、キャラクターデザインと表紙を依頼している「くら桐」さんよりファンアートをいただきました!
ありがとうございます!!!
キャラクターデザインなどの詳しいところが知りたい人は、昨日のあとがきにTwitterのURLが貼ってあるので、そこから確認してみてくださいな!




