シリアスさん「」
「サンゴさん、お疲れ様です」
「はいは〜い、あなたもよく頑張ったわねぇ〜。えらい、えらい!」
珊瑚の枝を手にしたサンゴさんという構図に近づくと、ごくごく自然に頭を撫でられてびっくりした。サンゴさんそういうところある……所詮アバターですし、別にいいけども。リアルだったらあんまりそういうの好きじゃないからなあ。
「ありがとうございます。あの、これ、スタンプカードです」
「はい、ぽんっと押しましょうね〜」
片手を頬に添えて首を傾げるように笑うサンゴさん。いちいち仕草があざとくて、そのたびにチャイナ風ドレスが色っぽいなあと感想を抱く。
サンゴさんも人気ありそうだよなあ。今頃リアルではいっぱいイラスト描かれてそう……。
「水晶スタンプ……」
やはり、珊瑚の枝の底が削られてスタンプになっているらしい。水晶を表すのだろう結晶型のスタンプがカードに押され、「これでよしだわ〜」とサンゴさんが言った。
「そうだわ〜、もう夜ですものね。ここにお泊まりするのかしら〜?」
「そのつもりですね」
「そうなの〜、とっても綺麗なところだから、たくさん思い出を残していってちょうだいね〜?」
うん、綺麗なところなのは確かだ。
スクショ撮っておこうかな? うーんと、どうしようか。もうすこしだけ探検して、深夜になる前に寝ていったんログアウトして来ればいいかな。
「サンゴさんはずっとここに?」
「分身のわたしはそうね〜。貝殻の中にいて、人が近づくと現れる仕組みになっているわ〜」
「なら、ずっと一人で待って寂しいわけじゃないんですね。よかった」
「あらあら〜、心配してくださるの? ありがとう!」
サンゴさんは一瞬キョトンとしてから、まなじりを下げて柔らかく微笑む。とろけるような、お姉さんらしい素敵な笑顔だ。自然体で、本当に嬉しそうに笑うものだから思わずこちらも笑みが漏れる。
そんな笑みを口元を袖で覆って隠してから一礼をしてその場を離れた。
サンゴさんは笑ったままこちらに手を振って、貝殻が閉じると同時にホログラムが掻き消えるようにしていなくなる。
「くう?」
「アカツキ……」
静かになる洞窟内で、少しだけ寂しさを感じたのが分かったのか、アカツキが頬を優しくクチバシでつついた。私はその気遣いに嬉しく思いながら彼の頭を指先で撫でる。
気がつけば、リーダー気質のアカツキにならってみんなが私をぎゅうぎゅうと四方から囲い込む。下ろした手はオボロの鼻が押しつけられているし、ジンは真正面から突撃してくる。シズクはアカツキの反対側から私の頬を舌で舐めた。
まったく、素敵なパートナー達だよ本当に。
「進んでみましょう。行き止まりか、もしくは外に出るようならここに戻ってきて夜を明かしましょう」
『仲良しだなあ』
『見てるこっちが微笑ましくなるっていうか、羨ましくなる仲の良さだよね』
『所詮AIなんだけどね』
『分かってるよそんなの』
『そうそう、それでも今のAI技術はすごいからさ、ひとつの生き物だと思って接してもいいじゃん』
『リアルにいないことはそんなに重要じゃないんですよね。その対象にどんな気持ちを持てるかの問題です』
「そうですよ、ただでさえオタクは非現実に愛を注ぐ生き物なんです。なにを好きになるのも、なにを愛するのも人の自由ですよ。もちろん、この子達のことを『現実ではない』と割り切るのも、そもそも感情移入できないのも問題はありません」
ただ。
「ただ、そう。私はこの子達が大好きなんです。アカツキ達を撫でて好きだなと思うのも、甘えられて嬉しいのも、魔獣達の嘆きを聞いて切なくなるのも、そこに生まれた気持ちだけは『リアル』です。たとえアカツキ達に本当の命がないのだとしても、彼らを想う私の気持ちは本物で、確かにここにある。それを見て楽しんでくれたら嬉しいですし、共感してくれたらもっと嬉しい……大事なのは多分、それくらい」
私達のことを見るスタンスは人それぞれ。
甘々なのが苦手なら他にもチャンネルはあるからね。あ、でも攻略とか初見プレイを観に来ている人もいるのかな? そういう人は多分私の反応とかバトルが好きなんだよね。
大丈夫、そっちも全力で楽しむから。
あくまで私はエンジョイ勢だからね。
「楽しむときは全力で。そして文句を言うときも全力で。ゲームだからこそ、本気で向き合って全力で挑みたいんです。楽しいからそうするんですよ」
『お金を散財するときも全力で』
「っんぐふっ!?」
いいこと言おうとしてたのに! 私なりにプレイスタンスを語っていい話にしようとしてたのに!! どうして! そういうことを! するの!?
『イイハナシダッタノニナー』
『いや草』
『一瞬で台無しになっててワロタ』
『それでこそケイカのチャンネルやでぇ!』
「今の私悪くありませんよね!?」
『せやな』
『せやなぁー』
『せやろか?』
『せやで』
「『せやな』を三段、いや四段活用するのはやめていただけますか!? 全部台無しだよコノヤロー!!」
『敬語崩れてますよ(小声)』
『これは怒っていいwww』
『久々のエレヤン要素。いいぞもっとやれ』
なんで私のところってシリアスできないの!? みんなギャグを挟まないと死ぬ病にでもかかってるの!?
そうやって、しばらくわちゃわちゃしながら更に奥に進んでいくのでした。
イラスト依頼中の絵師様より、なんとファンアートをいただきました!!
ちょうどいいので明日の更新の際、作中に挿絵として活用させていただきます。許可は取得済みですよ。
また、Twitterでは既に一度もらったことを告知しております『配信画面でケイカがこちらを見てピースするイラスト』です。
キャラクターデザインと一枚絵作成をしてくださっているかたのイラストですので、どんな絵を描く人なのか気になる場合は、わたくし「時雨オオカミ」のTwitterの固定ツイにデザインイラストが貼ってあるため、ご確認くださいませ。
以下固ツイのURL。
https://twitter.com/shigureookami/status/1277616828437549056?s=21




