星空の洞窟
「で、スタンプラリーのスタンプはどこって話ですよね」
そのまま浮かれて回れ右しそうになってから気づいた。
RTAだったとはいえ、100回もやっていたらさすがに時間もかかる。ひとつめの島で既に夕方……まあ、ゲーム内での夕方だから、まだまだイベント期間があるから大丈夫だ。
イベント期間はリアル時間で一ヶ月。
ゲーム内時間で四ヶ月もある。前のピニャータイベントは、ゲーム内での期間限定の祝祭という感じで期間自体は短めだったからね。ここまで長いイベントは初ということになる。
夏休みのもう半分はこれに費やすことになりそうだ。
学校が始まってからはどうやって時間取ろうかなあ……。
というわけで、スタンプラリーも余裕を持って行えるので、今日はこの熱帯雨林の島でひと休みしようかな。
……スタンプ探してから。
「ん、ジン。どうしました?」
『おっ、またジンか』
『オボロたーん、こっち向いて〜』
コメントに反応しているのか、オボロが辺りをキョロキョロと見回して首を傾げている。可愛い。
ジンはどうやら、ボス戦フィールドの奥にある洞窟が気になるみたい。あのガラス片があった場所だね。そういえば私はまだ入ったことがないな。いつもオボロとジンが真っ先に入って、ガラスを取ってきてくれていたからね。
「夕方ですし、夜を明かす場所を決めちゃいたいですね。洞窟の中を見て、そこでお泊まりできそうなら、お夕飯作って寝ましょう。もしかしたらこの中にスタンプ台とかがあるかもしれませんし。あ、ネタバレはなしでお願いします」
全部の島巡りを終えている人が絶対にいるだろうし、スレッドのほうではその情報も出ているだろう。そのあたりのネタバレはなるべく避けていきたいところだね。初見の反応ってやつが一番楽しいわけですし!
「休める場所があればいいですね」
言いながらみんなと洞窟に入り、反響する下駄の音を楽しみながら進む。
周りはゴツゴツとした岩場で、しかしその表面に光るコケのようなものが生えているのか、不思議と明るい。
洞窟なので暗いはずだったんだけれども、天井にまでヒカリゴケっぽいものが生えていて、コケの色がそれぞれ濃い赤や濃い緑、はたまた濃い青なんていう風に違う種類もあるから、まるでそこに星空が広がっているみたいに綺麗だ。
でも、この中から透明なガラスの破片を探すのはさすがに難しかっただろうなあ……普通なら。透明だから、その辺の床とかにあっても分かりづらそうだし。
いや、光が反射して分かるのかな? でも『幸運』判定が適用されてるってことは、そう簡単に見つかるものでもないんだろうしなあ。
「なんだか、こういうときはBGMが欲しくなりますね」
『わかる』
『フィールドごとのBGMとか、洞窟内とか、あとバトルのときとか、絶対オフラインゲーならBGMあるからね。ちょっと物足りないかも』
『そういう設定オンオフできたらいいな〜とは思ってますね』
『サントラ欲しいよね』
『サントラもそうだけど今は先に「お出かけもっちり聖獣」のぬいぐるみがほしい。ほら、このあいだCMでやってたやつ』
『リアライズ計画のやつ?』
『それそれ』
あー、あの、ゲーム内のAIデータをコピーしてリアライズさせる計画のやつだね。そんな名前もついてたね。
確かにあれは早くリリースしてほしいかも! あれが発売されれば、動物アレルギーがあっても好きな聖獣といられるし!
猫アレルギーの人とかが、泣く泣く諦めていた猫との生活まで文字通り『リアライズ』する……そんな生活素敵じゃない!
「クルゥ?」
「あなた達のお話ですよ。一緒に生活できたらいいですねって」
「わうん!」
「クゥ……」
真っ先に反応するのはやはりオボロだ。
勢いよく吠えた彼女の声は、洞窟の中をどこまでも反響していく。
結構広いんだな……ここ。
アカツキは私の頬にクチバシを寄せて、甘えるように鳴く。シズクも同じく、私の頬にくっついているのでひんやりとした感触がする。
両側から頬ずりされてしまった私はもう……もう……なんというか……天国です。昇天。
「なーお! なううううん!」
「ふぎっ」
『すげー声出てて草』
『大丈夫?』
『ジンかわ』
それに不満を持ったらしい。ふよふよ浮いて追いかけてきていたジンが、頑張って犬かきするみたいに空中で足をバタつかせ、勢いよく私の顔に張り付いたのだ。
もふもふが……! 顔にジンのお腹のもふもふが……!
「ふぎゃっ!?」
「ジン〜〜吸わせてください!」
こんな風にされているのにお腹を吸わないというのは失礼に当たるのでは? むしろ触らねば無作法なのでは? ということでがっしりとジンの体をそのまま腕で固定し、全力で猫を吸う。
あ〜幸せ。
「ふぎゃーーーーーっ!」
「こんなことされても爪を立てない君が好き」
と、茶番はさておいてそろそろ明かりが見えてきた。
頭にしがみついたジンを撫でまわしつつ、隙間から見える景色を確認。
どうやら洞窟を抜けるみたいだ。
「……絶景ですね!?」
そして洞窟を抜ける……と思っていたとき、その景色が広がった。
明るいから洞窟を抜けるのだと、私はそう勘違いしていたのである。違った。
そこにあったのは、一面の地底湖。
それも、透明度の高い水の中に光る水晶のようなものが並び、広い天井一面にヒカリゴケという名の星空が広がる場所だった。
そこかしこに生えているキノコがより一層明るい照明となっていて、洞窟の中のはずなのに、昼間のように明るい。
天井から垂れ下がった大きな水晶は、まあるくシャンデリアのようになっていて、部屋全体が見渡すことができる。
更に奥へと道が続いているみたいで、この場所は中間地点かなにかなのか? という印象を抱いた。
そしてなにより。
「……光り輝く貝殻って」
虹色に輝く大きな二枚貝が地底湖の前にある。すごく見覚えのある二枚貝だったので、「またボス戦か!?」とは思わずに済んだ。
済んだはいいんだけど。
「サンゴさん、なにやってるんですか」
「はあ〜い、いらっしゃ〜い! 熱帯雨林の島、湿地帯の素敵な地底湖へようこそ〜! 特別なスタンプはこっちよ〜?」
また分身か。便利ですね、それ。
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