変色した観葉植竜
鳥居を抜けて出たところは大きな広間みたいになっていて、高い木々がなくていかにもボス戦フィールドという場所だ。後ろ側は洞窟のようになっているけど、そこまで奥行きはなさそう。そばに川が流れていて、濁った川の中は不透明。
そしてなにより、そこには不思議なものがひとつあった。
『なにあれ、フラスコ?』
『ビン……?』
広場の中央に、見上げるほど大きな丸いガラスのビンがあったからだ。
下のほうでガラスが割れていてそこから水が流れ出したのか、ビン底に少しだけ水が溜まっているがそれだけ。
フラスコの上部は細い口になっていて近くにコルク栓みたいなものが転がっている。
パッと見たところ、ボスらしきものはいないけど……絶対あのフラスコみたいなやつが関係あるんだろうな。近づけばなにかが起こるんだろう。まさか、無機物系のボスとか? 神獣郷オンラインなのに?
疑問に思いつつフラスコに近づく。
「なにが……出てくるんでしょう」
ゆっくりとフラスコに近づく。
そして次の瞬間、川からしぶきが上がる音と共に茶色と緑色のなにかが視界に入った。反射的にバックステップをして避けると、ジンとオボロが勇ましく私の前に出て警戒をする。
川のほうに顔を向けると、そこから茶緑色の……。
「植物?」
そう、植物のツタか根っこのようなものが伸ばされていた。その先に丸い葉っぱのようなものがついていて、まるで手探りするかのように地面を撫でる。
それから、ツタの先についた葉っぱがもう一本川から伸びたと思うと地面に叩きつけられ、その奥からより一層大きな植物体が姿を表す。
その全体像はどことなく観葉植物に似ている。なんだったっけああいう植物。
『ポトスっぽい?』
『ライムポトスだよ多分』
『植物に詳しい人がおるwww』
ポトスか。聞いたことはあるね。大きさが段違いだけど。
大きな大きな植物体の中央から太い茎が伸びていて、その先にドラゴンの顔のようなものがついている。体から伸びる葉っぱは全てポトス。しかし中央にあるのは植物でできたドラゴンの頭のようなもの。
川から出現した仮名ポトスドラゴンは、口元から赤い舌のようなものをだらんと垂らしながらフラスコに向かう。舌には太い、釣り針のようなものが刺さっていた。
ポトスドラゴン自体の体は植物にしては茶色くて、川の色と同じくらい濁っているのが少し気になる。心なしか顔色が悪く見えるんだよね。釣り針が刺さっているのを除いてもさ。
「釣り針は確実に取らないといけないやつですよね」
それからポトスドラゴンはするりとフラスコの中に上の口部分から入り込む。しかし下のほうに空いた穴から少し体がはみ出てしまっているようだ。
そこでようやくポトスドラゴンがこちらを向いた。
弱々しく鳴き声をあげ、ツタの先についた葉っぱをヒレのように振るいながら威嚇をする。
「まず、第一目標は釣り針を取ること。それ以外にもなにかありそうな気がしますが、いったんそれを目標にしましょう」
ポトスドラゴンが真水に触れたところから、本来の色だろう緑に戻っていく。しかし、体全体はまだまだ茶色いまま。川の水を吸っているからか。
「シャァァァァァァァッ!」
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【『変色した観葉植竜』魔獣アクアリウム・ドラゴン・プラント】
属性: 雨・晴
レベル:20
体力:???
SP: ???
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なるほどアクアリウム。
それにレベルが低い。かつてのミズチと同等。このイベントが初心者でも参加可能だからかもしれない。
「さて、今助けてあげますからね」
そう宣言し、私達は行動を開始した。
文字通り観葉植物+ドラゴンがモデル。
絶対可愛いよ!




