水族館のイルカショーでよくあるアレ
「す、すごいですこのサメさん……私達が全員乗れる……!」
海の中に深く身体を沈めて、私達が輿に乗りやすいようにしてくれるこのサービスっぷり! すごい、すごいよこの子。
「えっ、買い取りとかできないでしょうか……海に来たときだけこう……」
『まーたなにか言ってる』
『乙姫泣くぞwww』
『おっ、破産か?』
『魚系の聖獣から育てなさいw』
『でも結局陸の活動のほうが多いじゃん』
『水陸両用できるほうがいいと思うけど』
みんなは私のことなんだと思ってるの!?
破産を期待しないで!?
そんな感じでやりとりしつつ、乗り込んだ私達は手を伸ばしてサメさんの背中をぺちっとつつくように触れる。サメ肌で触ったらダメージ受けたりするかな? と思ったけれど、どうやらそれはない様子。よかった。
「熱帯雨林の島までよろしくお願いします」
「……!」
沈んでいる頭の辺りから泡がぶくぶくと上がる。多分返事だと思う。
そうして、サメさんはゆっくりと泳ぎ始めた。しばらくは泳いでいる間の風景でも楽しもうかな……。
◇
「熱帯雨林、とうちゃーく!」
見るからにザ・熱帯雨林! って感じの島に到着。
何人か人の姿もあるし、先に来た人達もいるらしい。あっ、手を振ってきてる。手を振り返して微笑み、さてサメさんはどうすればいいのかなとそちらを向く。
「……! ……!」
「うーん、なにを言っているのかさっぱり分からない……えーっと、また移動するときに笛で呼べばいいですか?」
笛を取り出して訊くと、海面にぷかぷか浮かびながらゆっくりと頷いた。黒豆みたいな目をしていてきゅるるんとこっちを見てくるものだから、すごく可愛い。サメなのに若干間抜けな顔をしているのがゆるくていいなあ。うん、可愛い。ほしいなあ……。
「えーっと、サメさん。またよろしくお願いしますね!」
「……!」
ヒレを「よっ!」とでも言うようにあげて振ったサメさんは、そのまま身を翻して海の中に入っていく。
そして最後に尻尾で思いっきりバシャンと海面を叩き、近くにいた私達はあがった波しぶきを全身に浴びたのだった。
え、いや、え? なんで? 嫌われてる……?
「私、嫌われちゃったんでしょうか」
『サービスのつもりとか?』
『海の生き物って水棲生物だから水をかけられるの好きなんじゃ……?』
『むしろお礼のつもり的な? 好かれてる感じでは?』
「そ、それならいいんですけども」
そっか、そういう視点で見ると確かに好かれているからこそ……なのかなあ。
まあ、ポジティブに考えておこう。
水が滴る髪をぎゅっとしぼるようにして水を落とす。すごい水しぶきだった。水族館のイルカショーとかであるやつを受けた気分。ほら、あの最前列の席の人がびっしょびしょになるパフォーマンス。あれと同じようなものなんだと思う。
顔をあげると、砂浜から坂道があり、上の熱帯雨林の中へと続く道がある。
果たして道筋通りに行っていいものか……いや、私だと迷うだけになるのかな。方向音痴っぷりがひどいから、道を外れて探索するとなると少し時間がかかるかもしれない。
でも絶対道を外れたところにアイテムとか落ちてたりするよね。
それから、この場所にボスがいるかどうかも考えておかないと……いつもだいたい行き当たりばったりで攻略できちゃうから問題ないかもしれないけど、アイテムボックスの中はある程度整理して使いやすいようにしておいたほうがいいね。
さて、さっそく島の中に進んで行きたいところだけれども……。
「アカツキ、水……乾かすの手伝ってもらえます?」
「クウ」
「きゅーん……」
「しゃー」
「み……」
アカツキは「でしょうね」という顔をして頷く。
彼自身はもう乾いているみたいだ。さすが太陽の化身。
オボロも毛がずぶ濡れで嫌そうだ。それはジンもである。二匹とも水は苦手みたいだね。
そしてシズクもちょっとだけ不機嫌そうだ。雨属性だから水浴びは好きなんだろうけど、彼女は海水に強いわけじゃないからね。ベタベタするのは嫌なんだろう。自分で水を出して洗っている。
「お世話になります」
「クー!」
こうして、私達は探索前にアカツキの炎で服を乾かすのでした。
新作のほうにも来ていただきありがとうございます!!
引き続き、神獣郷もお楽しみくださいませ〜!




