サメって怖いイメージがあるよね
さて、桟橋に着いたところで配信を開始!
「おはようございまーす! 私はさっそく乙姫ちゃんに船を借りて来ましたよ〜!」
『おはー』
『配信乙』
『はいつー』
『おはいつー!!』
『やっぱ来てたか』
『船なににした?』
さっきまでは並んでいる時間も長かったし、だいたいの人ははじめのスタンプの内容が一緒だろうと判断して配信していなかったのだが……コメントを見る限りチラホラと出待ちしていたのだろう人のコメントが流れている。
結局、それぞれに乙姫ちゃん達からアドバイスがあるっていう部分があったんだけどね! 撮っておけばよかったなあ……でも気づいたときにはすでに遅かったし、途中で配信開始の挨拶し始めたらNPCの気を悪くするかもしれないからなあ。
神獣郷って、実はあんまり好感度によるシナリオの明確な変化とか、NPCからのたった一人への贔屓みたいなのはないんだけどさ。それでも好感度高いと難易度のわずかな変化とかヒントを得られやすくなる恩恵はもらえるんだよ。
変化があるじゃんって? ううん、変化はあるけど『特別』はない。
口に出して言うと絶対突っ込まれる話を脳内シミュレートしつつ、雑談としてその辺りの話を入れていく。
神獣郷にはたった一人だけの特別がない。
確かにユニーク装備はある。でも全員アニマ・エッグさえ集めれば、それぞれが自分の連れている聖獣の要素が入った装備を作ることができる。例外はない。
そして会話や好感度で変化する部分も、誰がやろうと結果は同じだ。
たとえば、ミズチのギミックを初めて解いたのが私じゃなかった場合、初完全浄化達成は初めてやった人のものになるし……リリィのイベントだって同じ会話・行動をなぞれば私のときとまったく同じ流れでイベントが終わるだろう。
そのあたりはゲームらしいゲームと言えるよね。
「船は乙姫ちゃんから借りることになりました。今からさっそく海へ出ましょう!」
『なにもないように見えるんですがそれは』
『もしや馬鹿には見えない船……?』
『いや、倹約家には見えない船かも』
『ああ……散財するタイプにしか見えない……(納得)』
『くっそwwww』
ちょっとそのコメントは心外なのですが?
私にも見えてないし! まだ船はそこにないし! 視聴者は私をなんだと思ってるんだまったくもう。
「違います。こちらの笛。乙姫ちゃんから借りて来ました。桟橋でこの笛を吹くと良いとか……ということでさっそくいきます」
珊瑚の枝でできているらしい小指の先くらいの小さな笛。
それにそっと口をつけてふうっと息を吹き込む動作をする。
本当はわざわざ息を吹き込まなくても、道具から選択して『笛を吹きますか?』って画面を出すだけでいい。動作もつけるのは、やっぱり気分的にVRなんだからちゃんとやりたいよねっていう思いからだ。
「……ん? 音が鳴らないような」
いくら息を吹き込んでも、道具から笛を吹く選択をしても音が聞こえない。
『犬笛みたいに人間には聞こえない音なんじゃない?』
『犬笛ってなに』
『なるほど』
『ってことは聖獣を呼ぶためのやつか?』
『犬笛っていうのは、人間には聞こえないけど犬には聞こえる周波数の音で指示を出したりしつけに使う笛のことだよ』
『へえ、わざわざ説明ありが㌧』
聖獣を呼ぶためのものか。薄々そうかなとは思ってたけど……ってことはこれから来るのって……!?
『ひえっ』
『あのあの……あの背ヒレってもしかして』
『パニックホラーで死ぬほど見た光景』
『サメ映画で親の顔より見た光景』
『親の顔もっと見ろ』
『ここまで天ぷら』
海面の遥か先から三角の背ビレが波をかきわけて向かってくる。正直すごく逃げたい。実際サメ映画でめちゃくちゃよくある光景だ。なぜかたまに海だけじゃなくて雪の中とか砂の中とか空泳いでたりするけど。外国はサメのことをなんだと思ってるんだろうね。
「えっ、どうしましょう。乙姫ちゃんから借りたとはいえ、サメはやっぱり怖いんですけど。えっえっ、食べられちゃったりしませんよね?」
『ケイカちゃんを……食べる!? (ガタッ)』
『黙ってろ変態』
『座れ』
『そのまま転んで複雑骨折しろ』
『^^』
『ひぇ』
『顔文字が一番怖い件』
『この変態発言っていつもの変態じゃないよな?』
『ええもちろん。YES推し活NOタッチ……常識ですよね』
『無言の圧を感じる』
『ごめんなさい』
これはまたリピート動画が作られるな……あとストッキンさんそれもそれで怖いです。
どうしよう、どんどん近づいてくる! も、もう目の前だし……! オボロも私に影響されているのか、足の間に尻尾を挟んで怯えつつも盾になってくれている。アカツキは静かに見つめてるだけだけれども。
そして、三角の背ビレが目の前にやってきたとき。
バシャァン! と大きくその場に水しぶきが舞った。
サメがジャンプしたのだと気づいたのは、日を遮る大きな影を見てからである。反射的に顔を上げて私は目を見開いた。
水族館で見たことのあるジンベイザメぐらい大きなサメ。
映画でよく見るフォルムだけれども、しかし凶悪さは感じない。
――なぜなら。
「えっ、可愛い!」
どっかのお店に売っているような……もしくは、デフォルメされたぬいぐるみのような……黒豆みたいな目をしたサメさんだったからだ。
サンゴさんのイルカとは対照的に青色の体をした大きな大きなサメが、海面に着水して顔をあげ、こちらにゆっくりお辞儀をする。
その背中にはご丁寧に、私達が乗れるよう広い輿のようなものがくくりつけられているのだった。
・IK○Aのサメのぬいぐるみの額に宝石がついてるのを想像すればだいたいあってます。
そして新作を投稿いたしました!
タイトルは以下。
『コミュ障ビビリは強がりたい!(※つよい)』妹の前でだけ冷静なビビリは実は伝説の『SSR級』到達冒険者!〜ビビりは追放? なら今から本気出すから全員オレの妹な!(自己暗示)【配信を添えて】〜
ひでぇタイトルだ。
追放ざまぁもののテンプレを書こうとして斜め上方向に振り切っちゃった作品です。ご興味がございましたら、私の作品欄。もしくは上記のタイトルで検索をしてみてくださいな!




