六つの場所は恵みを求めているらしい?
昨日の売り上げと再生数はかなーり伸びた!
これでしばらくお金の心配はないかなぁ……多分。きっと。えっと、使う場面さえなければ……なぜか不安になるな。普段が普段だからだろうか。
さて二日目。PKなしのサーバーではプレイヤーがたくさん砂浜に集まっている。
アイテムボックスに運営からスタンプラリーの地図が入っていたので、そちらも眺めながらみんなと本格的なイベント開始だ!
でも砂浜にはまだまだお店を出している人達がいたりする。スタンプラリー自体はいつ始めても構わないとのことだったので、それぞれ出発するタイミングがあるのだろう。
「一番近いのは熱帯雨林の島だそうですよ」
スタンプラリーで行くことになる六箇所はそれぞれこうだ。
現在地、砂浜。
熱帯雨林の島。
砂海に沈む大陸の端。
岩場だらけの島。
リングになった岩場のある海域。
聖獣だらけの無人島。
こうなっているらしい。
多分それぞれにボスがいるんだろうなあ……という見解なんだけど、さてどうだろう。とにかく、進むためには船が必要となるのでそちらは借りられることになっている。いちいち氷の道作って行くとSPが足りなくなっちゃうからね。
「ジン達も乗れる船じゃないとねー」
公式から用意されたレンタル船と、乙姫ちゃん達から借りる場合があるそうだがなにか違いがあるのだろうか。
……これから聞けばいいか。
現在、乙姫ちゃん達からスタンプをもらうために並んでいる最中である。
わいわいとみんな騒いでるし、私に気づいても無遠慮に写真を撮り出したりしない辺りものすごくマナーがいい。手は振られるけど。手を振り返して微笑むと、胸を押さえたり目を覆って天を仰いだりされる。ちょっと大袈裟にリアクションしてくれているみたい。そうしてもらえると私も嬉しくなるので素敵なファン達だなあ。
やっぱり治安が良い印象を受けるな。早朝だから特になのかな? いや、神獣郷のプレイヤーがそこそこ常識的なだけかも。
非常識なことしてると掲示板で噂されるし、スクショ撮られたらゲーム内の記録に残っちゃうし、なによりこのゲームリセマラしづらいからねぇ……自分が不利になるようなことはなるべくしない人のほうが多いのかも?
迷惑行為でアカウント停止なんてされたら復帰は困難だ。なんせ生体反応で識別してゲームにログインしているわけで……複数のアカウントを取ることも、別の名義のアカウントを取ることも難しい。
最初の聖獣がどれになるかは受け答えでどうにか変化させることもできるけど、アカウントとIDに関してはもうどうしようもないからねぇ……自分の心臓の鼓動を別人レベルに変えるとかでもできないと運営に誤魔化せない。ある意味最強のセキュリティである。
あと治安が良い理由で考えられるのは、気の荒いタイプの人はPKサーバーのほうに集中している……とかかな。
神獣郷は専用掲示板でも、誰がどれを書き込んだのかIDとアバターまで全部運営に筒抜けになるから、普通のゲーム掲示板よりよほど穏やか進行だし。監視も常にされてるらしいので対応は早い。荒らしが来ないわけではないけどね。
……運営さんこれすごいよね。
ちょっとしたガバくらいなら許してあげちゃいたいくらいに頑張ってくれていると思う。そういうところは好印象なんだよ本当。
でもアニマ・エッグの出現位置のことは許しません。修正されていても絶対忘れないだろう、あんなの。
さて、公式から『竜宮城に辿り着けたら新たな秘法を授けてもらえる』と書かれていたけれど……新要素かな。
秘密主義らしく、新要素がどんなものかは分からない。しかし、『聖獣との絆の強さによってなにかが起こる秘法』なんて文もあったから、前々から疑問だった『アニマ・エッグ・ジュエリー』の更なる使い道についてかもしれない。
装備に使用するとユニーク装備ができるのはもう周知の事実だけれども、100個集めると良いことがある……ってやつはまだ解明されてないからね。その辺りの答えが出されるんじゃないかなあって。
「っと、順番ですね」
考えている間に進んでいたみたいだ。
乙姫ちゃん達にスタンプをもらいに近づいて行く。
「おっ、お主もこれから出発か!」
「ええ、竜宮城見てみたいですからね」
「待っておるぞ! お主なら必ず辿り着けるだろう!」
「ありがとうございます!」
「だからといって、竜宮城の入り口についてのヒントはあげられないわよぉ〜?」
「分かってますよ。謎のネタバレされてしまったら面白くないですし」
「うふふ、それならよかったわぁ〜」
乙姫ちゃんからの印象がだいぶ良いみたいだね。サンゴさんもだ。
ただ、好感度が上がっているからといってヒントはない。あくまでそこは全プレイヤーに平等なんだろう。
「それと、共存者の人には全員ひとつずつ、アドバイスをしているの〜」
「ん? ヒントはくれないのでは……」
「竜宮城の入り口のヒントはあげられないわぁ〜? 別のアドバイスよぉ〜」
「そうですか……」
へえ、アドバイスね。なんだろう?
運営から配られたスタンプカードを取り出して渡す。
乙姫ちゃんがよいしょっと言いながら、持っている珊瑚の枝を押し付けると、綺麗なピンク色の印がついた。珊瑚の形をしたスタンプが押された感じだ。
もしかして珊瑚の枝の底を彫ってスタンプを作っているのかな? なにそれ難しそう。
「乙姫ちゃん達からも船を借りられるって聞いたんですけれど……」
「ぬ? 船か……してケイカだったな? お主はイルカとサメ、どっちが好きじゃ?」
「い、イルカかなあ……」
「むう……みんなしてイルカと言う…………」
この感じだと、乙姫ちゃんはサメ推しなんだろうか。
「……と思ったけど、サメがいいな。サメ可愛いし」
「……! そうじゃろう! そうじゃろう! ならばこれを貸してやる。あちらの桟橋で使うとよい!」
乙姫ちゃんは露骨に喜んだ。分かりやすいなあ……。
渡された、小さな笛のようなものを眺めてからしまう。小指くらいの長さの小さな笛だった。あとで試してみよう。
「料金は砂浜に帰って来たときに払うがよい。どうせ逃げられぬからな」
え、なにそれ怖い。
「あの、一応聞きますけど法外な値段ではないですよね?」
「当たり前だろう! 場合によっては値引くぞ!」
「そ、そうですか」
場合によっては値引きしてくれる。ほうほう、覚えておこう。
「よし、頑張るのじゃぞ! お主はお主の思うままに行動するといい!」
「六つの場所は恵みを求めているわぁ〜? それじゃあ、いってらっしゃ〜い!」
「はーい!」
手を振って別れる。
あれ、もしかしてさっきの二つの言葉がアドバイスってやつなのかな?
……うーん、分からない。思うままにって言われてるわけだし、『六つの場所は恵みを求めてる』って言葉だけ覚えておこう。
そうして、私はさっき言われた桟橋に向かったのだった。
Q.ケイカの貯金いつまで持つと思います?




