家族と食べたらもっと甘いわ〜?
「ふいー、ときおり頭が痛くはなるが、大変美味であった! 山のサチというのも、なかなかいいものだのう!」
「それはなによりです〜」
もはやかき氷というべきフローズンフルーツの山が、すっかりとその姿を消した頃……午後3時となり、お店はそのとき並んでいた人達でおしまいということになった。
乙姫ちゃんがすごい勢いで食べている間、ちゃんとお客さんの対応はしていたのだけれども、みんなぎょっとして乙姫ちゃんの勇姿を見るわスクショを撮り始めるわ……しまいには配信を見て「気になって来ました」という人までいた。
ラスト二十分の出来事だったのに、やたらと濃い時間だったね。
コメント欄でも拍手を意味する『8888』が並んでいることだし、私も私でスタンディングオベーションという心持ちだ。
見ろよ乙姫さまの顔……面構えが違う。
さて、並んでいたお客さん自体もあと一人……って。
「サンゴさん!? どうして並んでいたんですか!?」
『乙姫様発見で急いで来てほしかったのにwwwめっちゃのんびりしてらっしゃるwww』
この人達自由すぎない?
このままサンゴさんが迎えに来なかったら、乙姫ちゃんがどこぞに逃げていってしまうのではと思っていた私の危機感を返して……。
『二人並ぶと綺麗だなあ』
『ピンクと淡い青は並ぶとすごく綺麗』
『わかる』
「え? だってぇ〜、乙姫ちゃんだけ美味しいものを食べるだなんて〜、ずるいわぁ〜? わたしも食べたいもの〜」
あ、はい。まあそうでしょうけれども!
「サンゴ、もう少し遊びたいのじゃが……」
「ひと通り見て回ったんじゃないの〜? いっぱい楽しんだのならもういいじゃない〜お仕事に戻りましょう? ね〜?」
「ぐぬぬぬ」
サンゴさんが乙姫ちゃんの説得をしながら桃のフローズンフルーツを注文してきたので、ささっと作る。二つ分の注文だったからもしかして……と思ってたら、サンゴさんは片方を乙姫ちゃんに差し出した。
「ど、どういうつもりじゃ……?」
「一緒に食べましょうよ〜。家族じゃな〜い! わたしも、乙姫ちゃんと食べたら、もっと、もーっと甘く感じると思うわぁ〜」
にっこりと笑って、こてんと首を傾げるサンゴさん。器を受け取ってむすくれる乙姫ちゃんに中腰になって目線を合わせ、空いた片方の手でよしよしとその頭を撫でる。
『お母さんだ』
『ママじゃん』
『バブみを感じていた俺らの感覚は間違ってなかったわけだ』
『うわ〜!! 撫でられてぇ〜!!』
うん、コメント欄の欲望に関してはスルーしてしまうとして、確かに親子みたいだなあと思う。子供に言い聞かせるお母さんみたいなのは事実だ。
「い、いただくぞ」
「いただきま〜す」
それぞれ、今度は一口ずつゆっくり食べていく。
この光景を見ていると、さっき見せられていたフードファイター乙姫案件は白昼夢でも見ていたんじゃないかと思えるレベルである。
『つ【フードファイター乙姫のスクショ】』
現実を突きつけるのやめてくれないかなぁ!?
あんな可愛い子のお腹の中に……いったいどうやって……あんな大きな氷の塊が入るっていうんだ……。完全に質量保存の法則を無視している……あの果物の数々や氷が消えてなくなったようにしか見えない。
世の中の大食いキャラってリアルに近いVRで見ると、本当にわけ分からない存在だね。
「さてさて、乙姫ちゃん発見の放送を入れて、本日のあとの時間は、皆さんにのんびり楽しんでもらいましょうねぇ〜」
常に笑顔のまま、サンゴさんはどこからかマイクを取り出した。
お客さん達も、この子達の挙動を見ておきたいって人以外は解散済みである。まあでも、放送くらいは目の前で見たいよね。
皆さん、サンゴさんがどんな放送を入れるのか気になっているようであった。
「え〜っと、マイクてすてす、マイクてす〜」
その言葉自体がビーチ全体に散りばめられている貝殻から発せられた。え、そこから!?
「ぴ〜ん、ぽ〜ん、ぱ〜ん、ぽ〜ん。迷子のお知らせ〜、じゃなくってぇ、迷子が見つかったお知らせですわぁ〜」
ゆるい。圧倒的にゆるい。そして乙姫ちゃんはそんな彼女の放送を、顔を真っ赤にしてなにか言いたげにしながら我慢している。
その光景に、笑いだしたり草を生やしだしたり、とにかくいろんな反応をしてしまうのも……まあ仕方ないことだった。
実は裏で追放ざまぁなハイファンの書き溜めをしていたりなんだりしております。テンプレを踏んでいこうと思ったらなぜか斜め上にかっ飛んで行く内容となりました……神獣郷といい、テンプレ書くの下手なんですね。
もちろん神獣郷が優先ではありますが、近々公開するかも……?




