お一人様十個までです!
「それじゃあ、成功を祈ってますね」
「はい、ありがとうございます!」
ストッキンさんは一つ食べ、あと九個買って行ったがそれはアイテムボックスに入れたみたい。多分聖獣達にもあげるんだろうけど、この場であげるわけではないみたいだね。あの人の聖獣、全部見たことがないんだけど……案外秘密主義なのかな。
「あ、あの」
「はーい!」
手を振って別れ、次に岩場の辺りからやってきた男性に返事をする。私達の姿を見つけた途端、目が輝いたので「あ、ファンだな」っていうのはすぐに分かった。
「えっと、ブドウのやつ二つください」
「はーい、かしこまりましたー!」
ボックスからブドウを取り出し、二つの小皿いっぱいに粒を乗せてオボロに見せる。そうすると一瞬だけ冷たく涼やかな風が吹いてブドウがきゅっと引き締まった。
カチカチに凍らせすぎないのがコツだね。半冷凍くらいが一番美味しくなるし、食べやすいのだ。
つまようじを皿に置いて彼に渡すと、にっこりと受け取ってもらえてこっちもお店を開いてよかったなという気分になる。喜んでもらえると嬉しいね。
「ありがとうございます! ほら」
彼の肩の上からひょっこりと顔が覗く。トカゲ型の聖獣だ! 爬虫類系はやっぱり肩が似合うなあ。
「シズク殿の神々しさいいっすよね〜。こいつも将来はあんな風になってほしいなって思ってるんすよ」
「きっとなれますよ! シズクのこともひと撫でしていきますか?」
「いいんすか!」
「いいですよー」
クールに決めたシズクは私の首から頭を差し出して、ついでとばかりにトカゲさんにも挨拶をする。いきなり頭ではなく側面の辺りからそっと触れてきた男性に蛇に対する気遣いを感じる……。
そんなこんなで大満足した男性は帰って行った。
は〜、私のファン。民度良すぎて嬉しい……。
……っと、いつのまにかいっぱい並んでる!?
さっきの男性を皮切りにして、場所が完全にバレたらしい。
対応を急ごう。
「あのっ、あのっ! イチゴとブルーベリー、三つずつください!」
「はーい、イチゴとブルーベリーは一つの器に混ぜて、全部で三つでも大丈夫ですか? 量は六つ分と変わりませんよ」
「大丈夫です!」
一つ分より大きめの器を使って六つ分のフローズンフルーツを作る。この商品って料理としてバフはつかないから、本当に欲しい人だけって感じなんだよね。バフがつくなら九十九個買いますって場合もあるかもしれないけど。
なお、お一人様一回十個までが限度です。旗に書いてあるよ。
「はい、どうぞー」
私よりも小柄な女の子の隣には白いわんこがいる。サモエド……に近い感じかな。もふもふしていて、毛の中に手が沈み込みそう……素敵。オボロと比べると親子みたいな体格差があって、女の子が小柄なのもあって、すごく可愛い印象を受ける。
「ケイカさんの配信を観てゲーム始めました。ブランと一緒にいつも応援しています!」
なんと!?
「わ、私の影響……! ありがとうございます! 嬉しいです!」
彼女は私と握手してから帰っていった。元気よく手を振っていたので手を振り返す。かーわーいーいー!
後ろに並んでいたのも女の子だ。ウサギを連れている。その後ろにいる子もウサギなのでなんとなく微笑ましくなる。ウサギを連れた女の子っていいよねぇ。
「エレヤンなのに舞う姿が素敵で憧れてます」
「ありがとうございまーす! でも私ヤンキーではないから!」
「え?」
「え」
握手しながらそんなこと言う? 言う?
次の女の子もウサギだけど、こっちはパンダ柄だ! へえ、ウサギも色々違うんだなあ。
「パンちゃんのために小さめにカットしたイチゴを三つ分ください!」
「はーい!」
シズクに冷水を出してもらい、純白の扇子のほうを綺麗に洗う。
それからアカツキがイチゴを目の前に投げてきて、オボロが瞬間的に冷却、私が扇子を奮ってカットフルーツ状にし、下のジンが器でイチゴを受け取る。ちなみにジンは、落ちたときの衝撃でイチゴが潰れてしまわないようにしている。
パフォーマンス代わりだね。現実ならこんなことやらないけど、ゲーム内だからある程度は融通が利くのだ。
「わあー! ありがとうございます! あの、オボロちゃん撫でさせてください!」
「いいですよ」
「ありがとうございます! わーい! かーわーいーいー!」
オボロもここまで喜んでもらえたからか、ゆるゆるの笑顔になっている。
コメントで流れてるけど『おまかわ(※お前も可愛い)』案件だ。
そして次……って、ウサギさんが続くな?
今度は真っ白なユキウサギだね。浜辺の暑さで若干だれているようにも感じる。
「こんにちは。パインありますか?」
「ありますよ」
「じゃあ二つください」
「はーい!」
用意して渡すとユキウサギを連れた女性の顔が綻んだ。
「この子が暑さにへばっていたのでフローズンフルーツ嬉しいです! これからも応援していますね!」
「こちらこそ、来ていただいてありがとうございます!」
彼女はジンをひと撫でして帰っていった。
そして次……おお!? すごい! 九尾だ! 九尾の狐だ! 初めて見た!
狐は見たことあるけど、まだここまで育て上げてる人って見たことなかったんだよね!
なんとなく怜悧な感じの女の人がしゃなり、しゃなりと優雅に九尾の狐と共に歩み寄ってきた。そして一言。
「4294967296個下さい?」
沈黙。
お、おう……。あ、コメントさん荒れないで。多分小粋なジョークだと思うから。
「できないの?」
「あら、ごめんなさい。お一人様十個までという旗も目に入らないくらい私に夢中になってくださったんでしょうか。ありがとうございます。最高級のアイテムボックスでもそこまで入らないと思うのですが……ひとつのアイテムは九十九個までですし、九十九個まででいいでしょうか?」
カッチーンときた。きちゃった。なのでちょこっとだけ塩対応。
「はあ、それでいいわ」
「それじゃあ、パフォーマンス込みでいきますね? 先払いをお願いします」
「……」
素直に先払いしてくる辺り悪気はないのかもしれない。ため息つかれたけど! うーん……九個だけまともなの作るか。
「シズク、水球を作ってください」
「しゃー!」
シズクが巨大な水球を作成、次にオボロに指示してその周りを凍りつかせる。
それから上半分だけアカツキに溶かしてもらい、お皿状に。それからさらにオボロのアイスクラフトで、ただのお皿を氷でできた白蓮型のお皿へと変化。
その上にアイテムボックスから次々と果物類を取り出し、純白の扇子でカットしながら冷やし、カットしては冷やしを繰り返して九十九個分のフルーツを乗せていく。
最後はオボロにアイスクラフトで女性と狐さんの氷像を作ってもらい、器に乗せた。
出来上がったのは氷の蓮華。そしてその上に乗せられたフルーツと二人の氷像。
「さあ、注文したからにはちゃあんと、完食してくださいね?」
引いてる様子の二人ににっこり微笑む。
ギブアップしてきたらまともなやつを九個だけあげよう。そうしよう。ギブアップしてこなかったら? ……しーらないっと。
たくさんのご感想ありがとうございます!
まさかなろうとノベプラ合わせて30近く来るとは思っておりませんでしたw
しかし、せっかくですから全てを使いたいなと思っています!
ですので、あと一話だけしっかりと全部使って書かせてもらおうと思います。ご了承くださいませ!
また、今回の九尾狐さんプレイヤーの対応に関しては、そういえば個数指定してなかったなというこちらのミスもありましたので、どうしよっかなあと悩みはしましたが、意地でも全部やると決めたのでこんな感じになりました。
ご不快な思いをさせてしまったらごめんなさい!三通り考えて一番面白く書けるだろう選択がこれでした!




