海の中の幻想風景
「それではちょっと検証に行きますね」
私は砂浜で準備体操しながらコメントを聞き流していく。なお、準備体操は海だし気分的にやりたくなってやっているだけである。水着の上に着たシースルーの羽織りを脱ぐ必要もなく、そのまま泳げるからね。
『ゲーム内で準備体操始めるシュールさ』
『しーっ! つっこんじゃだめだよ!』
『録画見直してるけど、確かになんか青いのが見えるな』
『髪っぽいようなそうでもないような……』
『でももういないんじゃない?』
これから海に入るんだからなんとなくしたくなっただけですー! 真剣に必要だと考えてるわけじゃございません!
それで、コメントにもあるけど小島の辺りを通過したときに見えた青いなにか……あれがもしかしたら乙姫様で、水上レースの様子をこっそり見てたんじゃないかなーって予測を立てているわけだ。
そのあと振り返ったときには見えなかったから、もしかしたらもういないかもしれない。それは承知している。
「海に潜って隠れているだけかもしれないじゃないですか」
『あー、それはあるか?』
『もしそうなら後続の海中にいたやつが見てるんじゃね?』
『でも、見たとしてもわざわざ情報開示したりはしないじゃん』
『たしかに。こうやって配信しているわけじゃなければ普通は秘蔵するね』
「なので見回りくらいは必須かと」
腕を伸ばして……さて、準備OK。
アカツキは飛んでついてきてもらって、オボロ、レキは氷の道で先に島に上陸してもらう。その間に私とシズクは海の中に潜って海中散歩だ。なにかアイテムとか落ちてるかもしれないし、採取ポイントも多分あるだろうし!
海の幸を取れたら料理にも使えるし、いろいろとレパートリーが増えるから助かるんだよね。魚系統の聖獣も見てみたいし!
ただ……魚系統はスカウト成功しても連れてはいけないかなあ。モンスター系のゲームみたいに魚のモンスターも空を泳げて連れ歩ける……ってことなら問題ないんだけど。そうではなく、もし水がないといけないんだったら、水槽を用意してずっと屋敷で待機ってことになってしまう。それだとかわいそうだ。
「さて、いっきまーす!」
二メートルくらいの大きさになったシズクに掴まって海にダイブ!
目の前に一瞬白い泡が広がり……それはすぐに晴れる。
頭上に揺れる海面と光。
澄んだ海水の中で泳ぐ無数の魚。ときおり大きな聖獣らしき魚が悠然と泳いでいて、沖のほうには恐竜のようなシルエットも見ることができる。
十メートルも進めばそこからは崖のように結構深くなっていて、シズクと共にその中を覗き込んで顔を見合わせた。
それから一度海面に浮上して息継ぎ。
視界の端に現れていた息継ぎメーターっぽいものが回復して、再び海の中へ。
「すごい! おっきい貝殻が宝箱みたいになってます!」
今度は一気に深いところまで潜り、私が両手を広げてやっと抱え込めそうな大きさの貝に触れると、ぱっかりと開いてアイテムがボックスに追加される。
どうやら海ではジェム・ツリーではなくて、この貝殻が採取ポイントになっているみたい!
もっともっと! そう欲張りつつ小島のほうに向かいながら貝殻を開いていく。
ヒレの美しい聖獣が横を優雅に泳いで行く……今のところ魔獣らしきものは見当たらないな。
それを不思議に思いつつも私はどんどん進んだ。
私は青色の幻想的な風景の中で、動画映えを意識しつつもしばらく無邪気に遊び回るのだった……。
『島は?』
「あ」
『当初の目的忘れててワロタ』
結局魔獣には出会わなかった。
乙姫様らしき姿もなかった。
でも私はすごく満足できたからいいかなって……だってグラフィックがありえないくらい綺麗なんだもの。
そのかわり……シズク共々、待ちぼうけをくらっていたみんなにお説教されたのでしたとさ。
なお、小島では特別生命力の強い松の木の苗を手に入れました。




