神前舞踊――素狼の島渡り・六花化粧!
勢いをつけて氷の道を走りながら、一気に直線上の島まで!
しかしこれはプレイヤー同士の水上レース。一人がこんなこと始めればみんな感化されていろいろやりだすのが人間ってものだよね。
「わあ……」
オボロに乗ったまま後ろを振り返ると、鬼気迫る顔で氷の上を利用して疾走してくるヒレ付き首長竜やら、鳥系聖獣に紐を引っ張ってもらいながらブーツで滑るプレイヤーやらが目に入った。
うんうん、人の作った道を利用するのもまた一興だよね。楽だものね。分かるよ? 直線が続いていれば利用しやすいものね!
なら、こうしよう。
「オボロ、二人で神前舞踊行きますよ〜」
「ワウン!」
目の前には折り返し地点である小さな小島がある。
氷で道を作り続けていたオボロは島にさしかかったあたりで止め、そして勢いよく跳躍。
――共同神前舞踊。
「素狼の島渡り!」
氷の道から遠い場所に着地する瞬間、一番最初と同じく水面に雪の結晶模様の花が咲き誇る。
そして私達の移動方法は、跳躍して雪の結晶模様の氷の花を作り出すという方針に切り替わり、ぴょんぴょこ雪の結晶の島から島へと渡るように、飛び石から飛び石に移るように飛び跳ねて進んでいく。
これこそが『素狼の島渡り』である。因幡の素兎がワニザメを足場にして島から島へと渡ったように、氷の花を足場に私達は渡っていく。
これに対応しきれなかったのが後続のみなさんだね。
島にさしかかって、死角に入った辺りで私達は氷の道を作るのをやめたので、それを知らずに氷上を滑ってやってきた人達はいきなり足場が消えてしまい……そしていきなり止まることもできずに氷から勢いよく飛び出して海に落ちた。
体勢を立て直すのだってあれだと時間がかかるだろうね? タイムロスだ。
でもそんな罠もさくっと抜けてくるような人がいる。堅実に聖獣と海を泳いで来た人達だ。
そんな人にはおまけをプレゼント!
「――神前舞踊、六花化粧!」
氷の結晶から結晶へと飛び移るオボロの上で純白の扇子を振るう。
そうすることで純白の扇子から溢れ出した粉雪が後続を襲い、視界を塞ぎ、足止めとして作用するのだ。
ふふーん、完全に海の中でも潜らないと妨害を突破できないよ?
小島を通り過ぎる際、小島の上をさらっと見やる。
岩場にこの潮風でもなぜか生きている松の木が一本。一瞬木の表面には似つかわしくない青い色が見えた気がしてもう一度振り返るが、そこにはもうなにもない。
「今……」
『後ろ来てるよ!』
『こんだけ妨害されてても追いついてきそうなのすごいな』
「オボロ、スピードアップ!」
「アオオオオオオオン!」
扇子を振りながら海面にも注意を向ける。
相手はプレイヤーだ。油断はできない。このゲームの住民なら『敵と和解できる優しい世界』という名前の通り、根は純粋で優しい人が多いんだけど、残念ながらプレイヤーは別である!
世の中数多のソシャゲーがあるわけだけど、そのどれもがいわゆる『人権』と呼ばれるキャラやアイテムなどがあり、これを持っていないとそもそも勝負の土俵にすら上がれないとか、それこそそのゲームでの人権がないとさえ言われてしまう。
そしてそのためにいい性能のキャラが出るまでリセットするリセマラをしたり、最強を貪欲に目指す。それがプレイヤーという人種である。
ある程度そういう人種はPKありのサーバーに流れているだろうが、そもそもゲームをやる人っていうのはエンジョイ勢以外は修羅か鬼みたいなものだ。
最強装備、最強ステータスが最低限のラインであり、そこから心理戦などを挟んで最強同士が血で血を洗う。対戦ゲーとかは特にその傾向強いよね!
私はそれが苦手だから育成ゲーム専門だったんだけど! え、育成ゲームもだいたいそんな感じになる? うん……そうだね。ステータスカンストとか目指し始めると長いよね……うん。
ただ、神獣郷オンラインはその辺、どんな聖獣でも鍛えてスキル構成を練ってさえいればジャイアントキリングも可能だったり、そもそも倒す必要すらないからまだマイルドなほうだと思う!
だからPKなしサーバーの人は基本的にはエンジョイ勢が多いんだけど……ルナテミスさんみたいな例があるからねぇ。
『下! 下見ろ下! 意識を逸らすなって!』
「おっとぉ!」
コメントを見る前からちゃんと気づいてましたとも!
私達が着地する瞬間。ちょうどその場所から巨大な魚の尾びれのような尻尾が出現した。
多分オボロを叩き落とそうとしたんだろう。
海面の下ではその尻尾の持ち主に乗ってゴーグルをかぶった男性の姿がある。
私は彼に向かってにこりと笑って手を振るとオボロに合図を送る。
このままでは尻尾にはたかれる。そんな状態でオボロは空中で身をひねり、一回転をした。
そして私は、オボロが回転することで目の前に迫った尻尾を鉄扇で大きく弾く。攻撃されたことで動きの鈍くなったその尻尾を足場として、回転し終えたオボロが着地し、再び大きく跳躍する。
「残念! 惜しいですね!」
ついでに煽ることも忘れずに。
『まーた煽ってら』
『聖女()』
その後は特に妨害もなく……というか追いつける人がおらず、私達はぶっちぎりで水上レースを勝利したのであった。




