いちについてー!よーい、どん!
「はーい、それでは次の十組さんは準備をしてくださいねぇ〜」
サンゴさんから声がかかり、私を含む十人と聖獣一匹ずつが砂浜に集まる。
コースはこの砂浜から直線に泳いで、沖のほうに見える島の周りを一周し、折り返してこちらに戻ってくるというものだ。
「わふーん」
「よしよし、オボロ。作戦通りにね」
「くん!」
私が選んだのはオボロ。うん、レースだからね。スピード勝負で彼女を選ぶのはいつものことだよ。それを他の子も分かっている。
オボロ以外は砂浜で待機。なお、他人の聖獣は攫ったりできないようになっている。そこはサンゴさんのほうで守ってもらえるのだとか。
というかシステム的にできないっていうのが正しい。
砂浜にはレース中の中継映像も入るらしく、安全に観戦できるのだ。
『サンゴに乙姫様の特徴聞かなくてよかったん?』
あ。
「ルールは説明した通りだわぁ〜! アイテムの使用は禁止。でもでもぉ、スキルの使用と妨害はありなの〜!」
でも今から聞くわけにもいかないし、レースが終わってから訊いてみようか。
「さて、水上レース! 一位取りますよ!」
『なんでオボロ?』
『察した』
『そういや純白の扇子って今は装飾品アイテム扱い? 武器扱い?』
『シズクは大きさが大きさだからひと泳ぎすれば終わっちゃうもんな……レース』
『一目連は身体がでかいからそこにいるだけで妨害行為になりそうw』
そう、アイテム不可ってことはシズクをちょうどいい大きさで調整できないからね。オボロなら私が乗ってちょうどいい大型オオカミサイズだし、スピード特化だしでレースには持ってこい!
「あ、純白の扇子はストッキンさんに改造してもらって、武器扱いになっていますよ。最初はただの装飾品アイテムでしたけれど、現在は名実ともに『対の扇子を使う舞姫』となりました」
『あれ、エレガントヤンキーじゃないの?』
「舞姫です〜! 私は最初からずーっと舞姫です〜! 不殺してますし、そのうち聖女にだってなれますよ!」
『聖女……?』
『悪役をクソ野郎クソ野郎と言う聖女がいると聞いて』
『どうあがいてもヤンキー』
『丁寧語で隠しきれない気性の荒さ』
『最近特に崩れてきてるよね』
『うーん、まあハピエン難易度の高いミッション達成してるし、そのうち本当に称号あたりで取りそうな気もするけどwww』
『その場合ネタにされる運命が待ってる』
『聖女(笑)』
『物理でいくヤンキー聖女ならまだいけるか……?』
『聖女の定義が乱れる……!』
好き勝手言われて泣きたくなってきた。
確かにちょっと口悪いかもしれないけどそこまで言うことなくない?
『あっ、泣いてる?』
『わーごめんごめん!』
『ちょっとダンスィ〜、ケイカちゃん泣いちゃったじゃ〜ん』
「泣いてません」
目に海水が入っただけですー! 想像するだけで痛いね。
はー、泣いてばかりいるとスクショ撮られたり動画を切り取って耐久動画作られちゃったりするから早めに止めないと……もう手遅れかもしれないけど。
うう、悲しくなんてないもの! 私、自他共に認める優しい部類の人だと思うんですけど! ユールセレーゼ戦のときのことなんか、聖女どころか聖母でもいけるくらい『慈悲』をかけて頑張ってたと思うんです!
最近のリスナー! 私いじりが激しい! 泣くぞ!?
と、私達がぐだくだやってる間に他の組は全員砂浜には横並びになっている。
「わー! ごめんなさい!」
「うふふ〜、いいのよ〜。それじゃあ、はじめるわね〜」
あわあわとしながら一番端っこにオボロと並び、彼女の背中に乗る。
他の人達もそれぞれ聖獣の背中に乗ったり、聖獣に引いてもらうためのボートを用意していたり、板に乗って鳥系聖獣にロープで引っ張ってもらおうと準備していたりしていた。
気合い入ってるなあ……。
うーん、やっぱりサンゴさんに乙姫様の情報を聞く時間はなさそう。
終わってからにしようって決めてはいたけれど、さっきので時間を余計に食ってしまったと思うとちょっと悲しいなあ。
リスナーとのやりとりは楽しいんだけどね。
「では〜、いちについて、よーい……」
えっ、そういう始まりかたなの!?
「どん!」
サンゴさんが言った途端、彼女の足と一体化した珊瑚からいっせいにホラ貝を吹くような音が鳴り響いた。不思議と高揚感を感じさせる音で、ますます気合いが入る。
音色に気を取られているうちに何組かが海へと飛び込み、または水上にボートを乗っけて聖獣に引っ張ってもらいながら進んでいく。
完全に出遅れた?
まっさかー、最初からこのつもりでしたとも!
だって、こうしたほうがより『妨害』ができるからね!
「オボロ、アイスクラフト!」
「アオオオオオオオン!」
トンッとオボロがジャンプして海面へ。
足が海面についた瞬間、海面が雪の結晶型の模様に凍りつく。
「オオオオオオン!」
今のは実況映像を見ている人達や配信を見ている人向けの、一番最初のパフォーマンス。
凍りついた六花の紋章から直線に向けて一気に氷の波が襲いかかる!
直線状にいた人達を直接は凍りつかせないが、海面はオボロの目の前だけ凍りつき、そして彼女は勢いよく走り出した。
アイスクラフト。
地面や水面など、フィールドにしか効果のないスキルだ。人や聖獣に効果を及ぼすことができないため、射線上に生き物がいた場合、その部分だけ避けてフィールドを変化させる。
オボロがお留守番をしているとき、地面を凍らせて絵を描いたり、彫刻を作って遊んでいたみたいだけど、その経験を重ねて覚えたお遊びスキルである。
なお、フィールド破壊に特化しているのでオボロと私にはかなーり都合が良くて使い勝手のいいスキルだ!
「突っ走りますよ!」
「アウウウウン!」
氷の上を走りながらぴょんぴょこ飛び跳ねる白い狼と、それに乗った私がビリの状態から一気に首位に。
オボロちゃんが楽しそうでなによりです。
感想見て、あ、そういやそうだなと思ったので反映してりしております。




