水上レースの前準備
「ここにしましょうかね」
海沿いに人が並んでいたので、気になって看板を覗いてみる。
どうやらここは『規定の大きさ範囲内の、泳げる聖獣』がいる場合に挑戦できる水上レースを行っているらしい。
水上を渡れる聖獣なら、大きすぎなければ誰でも参加可。ただし、空を飛んでいる鳥なんかは、共存者を乗せたボートをひく必要があるとかなんとか。
水上にいるなら別にボートは必要ないらしいけど……なるほどね。
シズクなら参加できるかな?
「すみません、ちょっと質問よろしいですか?」
「は〜い」
「ってサンゴさん!?」
係員をしている人に声をかけてみると、先ほど海の底に戻ったはずのサンゴさんだった。いやいやいや、ドレスが似てるなとは思ったけどなんでいるの?
「あら〜! わたしはホログラムよぉ。説明をするために、スキルで各地に待機してるの〜。ほら、足元を見てごらんなさぁい?」
「わっ、すごい……」
よく見ると、珊瑚から彼女の足が生えるようにしてその場に立っているみたいだ。こうしていると、名前の通り珊瑚の聖獣と言われてもおかしくはないんだけど……人魚……のはずだよなあ。足あるのに。
なお、間近で見るとチャイナドレスのスリットの中がまるで深海がその場に広がっているかのような深い青色で、奥に珊瑚の影が見える。しかもときおり魚の影が横切って……え!? 動いてる!?
「あらあら〜、気になるのかしら〜? 手を入れてみる? 竜宮城の近くに繋がっているのよ〜」
本当にスカートの中が海だった!? いや、っていうか、え!? 手を入れてみるかって……! 女の子がそんな簡単にセクハラを許すようなことを言ってはいけません!
「あ、あの……男性共存者にはスカートの中に手を入れていいとか、言っちゃダメですよ」
「? あなたは女の子だわ〜」
いやそうなんだけどさ。
あ、ダメだこの人……ぽわぽわしていて危機感がまったくない。大丈夫かな……この人、騙されたりしないかな……。
「それはそうと、サンゴさん。聞きたいことがありまして」
「はーい、どうぞ〜?」
「この子って参加できますか?」
シズクを示しながら訊く。
シズクはある程度の大きさにはなれるが、私が乗るとなるとちょっと厳しい可能性も……。
あ、基本的に水上レースは聖獣に乗るか掴まるかして進むものらしい。ボートは有利になりすぎる鳥系聖獣のみの使用だそうだ。
「うう〜ん、その子はアイテムで大きくなることは可能だけれど〜、アイテムの使用禁止なのよねぇ〜。ということはぁ、本来の大きさでやってもらうことになるのだけれど〜、それだと大きすぎちゃうわ〜!」
「つまり、シズクはダメ……と」
あれ、意外と厳しくない?
シズクがダメならアカツキにボートを引いてもらうしかないか? いやでも、ボートに乗ってのレースは結構不利だ。遠心力もかかるし、妨害OKになってるから他の走者の妨害を受けやすい。それに、アカツキは素早さに振ってるわけでもない。一位を目指すのは難しいかもしれない。
うーん……あ。
なんだ、いるじゃない。レースと言えば、誰? そんなの、オボロしかいない。
「あ、じゃあこんなのはどうでしょう?」
「なにかしらあ〜?」
「ええっと……………………なんですけど」
「ん〜、それならぁ、構わないわぁ〜! 面白そうなことを考えるわねぇ。これはレースが楽しみね〜! それじゃあ、並んで待っていてくださいな〜。レースは10組の共存者とパートナーが集まったら始めるの〜。前の10組が終わるまで、少しだけ待っていてちょうだいね〜。はい、番号札よ〜」
サンゴさんがナチュラルに頭を撫でてよしよししてきたので、思わず照れつつ頷く。それから、水上レースのコース地図をもろったのでみんなと作戦会議するためにその場から離れた。
番号札代わりなのか、珊瑚の入ったガラス玉をぎゅっと両手で握る。
オボロで水上レースが可能なのかって?
可能だよ。だっていつも見ているじゃない? やることはいつもとほとんど一緒!
それに、つい最近オボロが氷の彫刻で遊びすぎて覚えたスキルがあるんだよね。それがあれば、更に演技としても魅力アップ!
お披露目が楽しみだ。
順番待ちをしながら、私は砂のお城を作り始めるみんなを眺めて過ごすのだった。
カカポネタで笑ってくれたようでなにやりですw
氷の彫刻造りとかも実は伏線だったのでした……。




