イベント主催者迷子のお知らせ!?
最初はピニャータイベントのときと同じく、主催者による挨拶がある。
ということはですよ! 乙姫さんに会える!
砂浜のいたるところにあるミニゲーム屋さんらしき看板と、奥のほうに小さく見える、水上に建築されたドーム型の建物。それに海の向こうには島らしきものまで見えていて、フィールド一面がイベント仕様!
景色も綺麗! なんだけど……砂浜には所狭しとばかりにプレイヤーが集まっているため、景観自体はちょっとよくないかなあ。もう少し人が減れば素敵な景色なんだけど、リアルな海水浴場を思い出す混み具合。
今回もPKなしサーバーは二つあるし、ちゃんとサーバー分けされてるはずなんだけど……うん、前より圧倒的に人が増えたよね。
もう一個くらいサーバー増やすべきなんじゃないかなあ、これ。
【まもなく竜人族の女王『乙姫』からイベント開始の合図があります】
「っと、もうそろそろですね」
『こっちも会場来たー』
『うわ、芋洗い……』
『いや、でもこの会場の中にケイカちゃんがいると思うと頑張れる』
『場所を特定しても押し掛けないようにしてくださいね。ケイカさんに迷惑なので』
『アッ、ハイ』
うんうん、ストッキンさんが自治に動いてくれるから、私の配信は楽でいいね。たまーに流れてくるアンチコメントは積極的にスルーしてるし、だいたいみんながいっせいにNGユーザーに入れてくれるから心も楽ちん。
「んん、どのあたりでしょうね」
さーて、開始時刻だ。公式アナウンスだと海に注目していればいいってことだったが、どこから来るかな? 海といっても広いからどこから現れるのか……。
そうやって海を眺めていると、中心からさざ波が立ち始め、そして勢いよくザッパーン! と海を割って巨大なピンク色のイルカが飛び跳ねた!
「ええ!?」
あれ、なんメートルあるんだ? ドラゴンサイズはあるよあのイルカ。だって遠くからでもすごくおっきく見えるし! それに、鼻先に乗って、一緒にジャンプしていた人影の大きさからしても相当だ!
鼻先なのに、バランスがよくなくても普通に立てるぐらい顔が大きかった! なにあれ!?
『みなさぁん? お待ちかねの海開き、ですわぁ〜!』
マイクを通したような声が響き渡る。
海を眺めていれば、ジャンプして水中に戻っていたイルカと人影が水から顔を出していた。ピンクイルカの上に長身の女性が立っており、両手を大きくゆったりと振りながら喋っているみたいだ。
服装は……あ、スクリーンに出てる。ちゅ、中華風だー! チャイナドレスだよ!?
足元のスリットが大きくて、肩から肘の手前辺りまでと大きな胸の辺りが露出している……ドレスの裾は長めでひらひらしているし、腕の部分は着物みたいにゆったりとした作りになっている。シルエットが魚のヒレみたいに見える……!
耳のあたりは人魚っぽいヒレのような形になっているし……映像! もうちょっと寄せて? ……あ、あ、これは!? 露出した胸元にホクロがあるぞ!?
こ、これはえっちなお姉さん……! ストッキンさん! 私なんかよりあっち映して! お願い!
しかし、のんびりのほほんとした声なのに、なぜだか漂うあやしい色っぽさ。元の声優誰だろ……あとで公式で確認しよう。
キャラクターボイスは声優さんの声をいくつも登録して、そこからキャラクター用ボイスとして発展、進化、調声していくらしいね。昔もそういう技術はあったらしいけど、今は比べものにならないくらい技術が進歩して、本物の肉声みたいに聞こえるようになっている。
でも、調声の段階でAIの成長との兼ね合いとかもあって、元の声とはまた別の声に成長したりするらしいので、元の声優を当てるのもなかなか難しいのだとか。
これは要チェック……!
『ですけどぉ、もう少々お待ちくださいな〜。実はですねぇ、困ったことが起きてしまったの〜』
女性はゆったりと間延びした、それでいて優しく話す。耳が溶けそう……穏やかに話しているうえに、あんなに遠いのにどうして声が届くのか……と思ったら、会場のいたるところに貝殻のように見えるスピーカーが設置してある。わーお、ハイテク〜。
『あのねあのねぇ〜? なんと、乙姫ちゃんがいなくなってしまったのです〜。困ってしまったわぁ〜。どうしようかしらぁ〜、どうしたらいいかしらぁ〜』
え、あの人が女王……乙姫じゃないの!?
珊瑚の意匠が施されたデザインに貝殻のティアラしてるし、しかもでっかいピンクイルカでご登場とか、絶対乙姫様だと思ったのに……違うのか。
『ああどうしましょう……どうしましょう〜! 乙姫ちゃんったらぁ、きっと久々の地上ではしゃいじゃっているんだわ〜!』
女性はイルカの上で困ったように口元に手を当てる。
『そうですわぁ! ねえ、共存者の皆様がた? わたしに協力してくださいな〜! 乙姫ちゃんなら、きっとこの砂浜のどこかにいると思うのです〜。どうか、見つけていただけないかしらぁ〜!』
なるほど、そういう導入なんだね。納得した。
『乙姫ちゃんはねぇ、素敵な共存者と聖獣のコンビが好きなの〜! だから、だからね〜? もしかしたら抜群のコンビネーションを魅せてくれた子のところに現れるかもしれないわぁ〜!』
ふむふむ? つまり、イベント会場のミニゲームで、聖獣と一緒に一番を目指せ……みたいな?
『それとね〜? ごめんなさいな〜、乙姫ちゃんが戻るまでは〜、地上の人に竜宮城の見学をさせてあげられないのよぉ〜!』
んん? リアル時間で二日目までは竜宮城に入れないってもしかしてこれ……。
『お願ぁい! 迷子になった乙姫ちゃんを探してあげて〜! あの子が危ない目にあったらと思うと……わたし、わたしぃ……ううん、大丈夫! 大丈夫よ珊瑚! きっと、あの子なら無事に見つかるわ〜!』
なんか自分で自分を元気づけ始めてるし。
えーっと、あのピンク色の子の名前が珊瑚なのかな? 乙姫様とセットっぽい。保護者? うーん、二人揃わないとどんな関係なのか分からないかなあ。
『お願ぁい! 四日以内に見つけてくださいな〜! それ以上は待てないわぁ〜! 一番に見つけてくださったかたはぁ、わたしがぎゅーってして、よしよししてあげますからねぇ〜!』
言いながら珊瑚さんは空気を抱きしめるように、抱きしめるフリをする。
スクリーン越しに大きな胸が揺れるのを確認した。うん、眼福だよね。女の子だって可愛い女キャラは目の保養ですとも。
コメント欄が『生足』と『おっぱい』『バブみ』で埋まってることなんて目に入らないなあ! うーん、変態しかいないのこれ?
『それでは皆様ぁ〜! よろしくお願いします〜!』
言うだけ言って、珊瑚さんは巨大なピンクイルカに乗ったまま、水中へ消えていってしまった……いや、え?
「乙姫様の特徴は!?」
『なにも言ってなかったねw』
『身体的特徴を伝えていかない無能オブ無能』
『おっぱいがあればなんでも許せる』
アッ、ハイ。
『サンゴ イズ おっぱい』
『OK』
『OK』
『OK』
『NO!』
『は?』
『は?』
『は?』
『ケイカ イズ……生足!』
『>>FEVER‼︎<<』
『FOOOOO‼︎』
なんだこのノリ。
とりあえずドン引きすればいいの? 照れればいいの? どっち? 生足発言は誰が言ったのかすぐ分かるんだけども。
……うん、見なかったことにしよう。
「まずはなんのミニゲームがあるか見に行きましょうね〜」
棒読みで私は歩き出した。




