海イベントといえば水着でしょう!
「それでケイカさん。ビキニと露出低めでパレオ付きの水着とどちらがいいですか?」
「通報」
店にやって来たら開口一番これだよ!
毎回毎回このやりとり飽きもせずにやるよね? ストッキンさんってドMなんだろうか。
そんな思いでジト目になりながら見つめていると、ストッキンさんは両手を万歳のポーズにしてへにゃりと笑った。
「わあ、待ってください。待ってください。秒で通報するのはやめましょう?」
この人、私と漫才でもしたいんだろうか。
「あらあら、どうしてここではPKができないのでしょう。悲しいです……」
「不殺の精神どこに落としてきたんです?」
「変態ストーカー相手に不殺の精神が必要なんですか?」
「くっ、辛辣……でもそこが好き……!」
うわあ。
ノリで返していたら変なスイッチを押してしまったらしい。
やめて。こっちはドMを相手にする趣味なんてないんだよ。そんな恍惚とした目で見ないで。お互いに利用し合っているとかなんとか言ってここまで贔屓にしていたが、衝動的にサヨナラバイバイしたくなる。
「……」
「ドン引きされてる……あの慈愛の精神の塊にドン引きされてる……なんだか変な扉開いてしまいそうです」
「そんなものは鍵閉めて投げ捨ててください」
言葉を被せるようにして返した。
「それより、ストッキンさん。初めて会ったときよりも敬語が崩れる割合が増えてませんか?」
「お互い様では?」
「それはあなたのせいですよね?」
「あっ、はい」
ストッキンさんは、初対面のときはそれなりに紳士的な敬語で話してくれていたはずだけれど……お互いに慣れてしまったようでその辺が崩れに崩れまくっている。別にいいけれども! 害さえなければ!
「でもですね、ケイカさん。考えてもみてくださいよ」
「はあ……」
「青い空、白い砂浜、ささーっと涼しげな波……そんな場所にケイカさんのような着物の人がいたらどう思います?」
そりゃあ……見るからに暑苦しい……ような?
しぶしぶ答えると、ストッキンさんはその瞳をキラリと輝かせた。あ、やば。
「そうでしょう! そうでしょう! だから水着に着替えるのはごく自然なことなんです! 海辺では! イベントなんですから、存分に楽しむべきです!」
あ、あれー? これ、説得されてない?
ちょっと納得してしまった私がいるんだけど……まあ、確かに見た目が暑苦しいのはどうかと思う。周りの人もイベントに合わせて水着装備になるかもしれない。
なんなら、運営側でNPCショップとかに水着が追加されたりする可能性だってある。そう考えると確かに……センスに関しては信頼できるストッキンさんに任せたほうが適任……なのか?
待ってこれ、言いくるめられてない?
うーん……。
「話だけは聞きましょう」
「よ、よかった……大丈夫です。なるべく露出は抑えてますからね」
信じるよ? その言葉。
羽織りの下の初期装備を改造したやつは思いっきり背中が空いているうえにノースリーブっていう状態なんだけど……その程度ならまあ許容範囲だし。羽織り着ちゃえばいいわけだからね。
「ワンピース型なんですけど、首周りをリボンで留めるホルダーネックになっていまして……首から胸の辺りまで覆って、背中は空いた感じで……」
図面を見せてもらったら、結構大人っぽい感じになっていた。うーん、まあ、背中は空いているし、ワンピースになっているとはいえ、おへその部分が大ぶりなメッシュになっているから露出はあるけど……下はスカートだけど、パレオもつくみたいだし……それに、これの上からシースルーになった短い羽織りをつけてくれるらしい。
アイデンティティも守られるし、これならまあ……ギリギリ許容範囲かなあ。
「図面通りにしてくださいね? スカート短くしたりだとか、パレオ作り忘れたとか言ったら速攻で捨てますよ私」
「分かりました。それから、対の鉄扇をしまえるように羽織りをゆるーく、帯みたいなリボンで留められるようにしておきます」
交渉成立……かな。
ビキニは阻止したし、海イベント自体は楽しみだから別にいいか。
ユウマは夏休みの宿題がヤバイとかで最近ログインしてこないし……私は一週間以内に終わらせてるのに。まったく。
さて、イベント【サマータイム・フェスティバル!】は明日からか。
ミニゲームとか聖獣との絆を示すコンテストがあるらしいし、いろいろまわって思いっきり楽しもう!
最近聖獣のみんなと遊べてないからね!
いっぱい遊ぶぞ! ほのぼの配信やるぞー! それでもって、リスナーももっと増やすのだ!
第八章『白波に遊び心を! 砂浜に勝利の賛美を!』始まり始まりですよ!




