薄命の合成聖獣達の、幸せなエピローグ
あれから――9分咲きになった白梅の下で全員集めて記念撮影をした。
もちろん、赤ん坊を中心にしてね?
赤ん坊自体はヒノモトの日の巫女さんが一時預かりになり、ローザニア王国というところから赤ん坊を引き取りにやってくる使者を待つらしい。要するに赤ん坊の、本来の実家だね。
わりと遠い国から来るようなので、しばらくは日の巫女さんの屋敷に行けば赤ん坊に会えるようだ。
ユールセレーゼ達は迷い家に住み着くようだから、赤ん坊の成長を見守るのはときどき、こっそりとにするみたい。いつか赤ん坊が大きくなったときに、自力で自分達をスカウトしに来るように待つということだった。
日の巫女さんはローザニアと貿易をするそうなので、その際に成長記録をもらい、ユールセレーゼ達に渡すのだとか。
それから、白梅のお守りはやっぱり私に持っていてほしいということで、彼女達と結んだ絆のひとつとして所持することになった。
これがまたすごいんだ!
『お守りの効果は?』
「なんと、なんとですね? 一日に一度だけ、ユールセレーゼ達を召喚し、助力を願うことができる……ということです!」
『召喚! そういうのもあるのか!』
一日に一度という制限こそあるものの、パーティに入れられる規定の四匹以外を頼ることができるようになるやべーアイテムだ!
しかもあの子達、それなりに強いし、それぞれ属性が違うからお助けキャラとしてはものすごく破格である!
苦労した甲斐あったよ! 本当に! たとえ報酬がなくてもやっていたとは思うけども、こうして報われるとすごく嬉しいよね!
それにしてもハッピーエンドまでの難易度は頭おかしいと思うけど! ヒントは与えた。あとは自力で考えろ……みたいな方針じゃない!? あれ!
もう少し親切にして! 優しいVRMMOでしょ!?
と、またまたクレームを送ったら、他にも動画を見て難易度調整についてクレームが寄せられていたらしく、難易度調整が入るらしい。ヒントやガイドがもう少し付け加えられるのだとか。
しかしこれで難易度調整が入れば、名実ともに『調整前のストーリーをハッピーエンドにしてみせたプレイヤー』として名が売れることになるはずだ。ますます有名になれるね! やったね私!
「マヨヒガにも私はフリーパスみたいな感じで通えるようになったので、いつでも彼女達に会いに来れますね。呼び出すのもいいですが、たまには遊びに来てお茶会するのもいいかもしれません」
枯れ果てた屋敷は古めかしいままだが、白梅だけはまだまだ元気だ。しかし、ユールセレーゼ達が与える生命力がなければ、じきにあれも枯れてしまうんだろう。
元々寂しい景色の場所だ。彼女達がいても華やかさよりも和風ホラーな雰囲気が勝ってしまう。だからこのまま廃れていくんだろうけど……。
廃れて……いくんだろう……けど。
「あの、目の前にマヨヒガ開拓&改築ミッションとかいうのが現れているのですがこれは……」
『お、また一文無しに戻るか?』
『まーた変なミッション発生させてる』
『友達の住んでる場所を綺麗にしないわけがないよなぁ?』
目の前に浮かぶのは【お布施金額 0ゴールド】という文字。これってもしかしてもしかする? いやいや、え? まだこの私からお金を搾り取ろうというの? このゲーム鬼畜すぎませんか?
なお、私がここを改築して景色豊かにしたとしても、それは私のいる個別サーバーのみでの出来事だ。他の人がマヨヒガにやってきた場合、普通に寂れた場所になっているだろう。つまり、これはストーリーミッションのクリア特典でできるようになった、おまけミッションみたいなものだ。
友達の家をボロ家のままにしておきたくないという心理を利用した、巧みな集金構造である。
「うっ、うううう……どうしてみなさん、私からお金をむしり取ろうとするんですかぁ……泣くぞオラァー!」
『エレヤン落ち着いて』
『敬語敬語!』
『このゲーム、優しいのはシステム面と世界観だけでその他はそんなことないよな』
『プレイヤーがやべーやつしかいないのはまあ、この世界の外から来てるから仕方ないとして……しんどいシナリオ多すぎですよ本当に』
『ハートフル(ボッコ)なVRMMORPG』
『草』
「くそぉ……どうせゲーム内通貨ですよ。全部持ってけ泥棒ですよオラァ!」
コメントが優しくない。
というわけで、ヤケになった私は今持っている全額をマヨヒガの開拓・改築費用としてお布施したのであった。
その瞬間、ざあっと風が吹く。
そして花弁に覆われるように屋敷が見えなくなると、花弁が散り散りになった頃には新築のように綺麗になった建物に変化した。
全額入れたのでそれなりの変化にはなったかな……庭はそのまま枯れ果てているので、多分まだまだお布施しないといけないんだろう。
ちくしょうめ……ちょっとずつ綺麗にしてあげるからね……待ってて……そのために頑張ってお金作ってくるから。
『そういや、次はヒノモトの海辺で夏イベントが開催されるって告知見た?』
『見たー』
『見た見た! 竜宮城!』
『無人島探索イベ!』
『水上レース!』
『聖獣との絆を示すキズナコンテスト!』
「え、なんですかそれ……まだ見てない」
私がすっからかんになったゴールドの表示を見ながら遠い目をしていると、コメントがいっせいに騒ぎはじめた。
多分みんな同じことを言っているので本当の話なんだろうが、そういえば最近公式サイトを見に行ってなかったな?
『配信主なんだからしっかりしてー!』
『でも俺、ちょっと抜けてるところが好き』
『わかりみ〜』
「え、えっと、ありがとうございます? それじゃあ、次の配信があるとしたら海イベのときですね! 告知するのでまたいらしてください! というところで、今回の配信は終了となります。バイバーイ!」
大量の『乙』コメントに手を振って配信を終了する。
海イベかあ……そうだよね。夏休み中だもんね。
こうして、山で起きた一連のイベントはハッピーエンドを迎えることができた。心はしんどくなったけど、同時にものすごい達成感を得ることもできた。
偶然かなんなのか、山ときて次は海らしい。
海イベントでなにをしようかなあ……と考えながら、私はユールセレーゼ達に挨拶をしてヒノモトの街に戻って行ったのだった。
こういうことに、あの人が反応しないはずがないということを忘れて。
――――――
【ストッキン】さんから、メッセージが一件来ています。
件名【水着デザインについて】
開きますか?
>YES
>NO
――――――
……うん。
「メッセージを破棄します……と」
とりあえずあとで十回くらい通報しとこ。
次章からは息抜き&ほのぼの系の章として海イベント開催です!!




