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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
特殊依頼『果ての地で忠義を捧ぐ』

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思い出のまずい料理と、水辺の風車

 三番目は氷から抜け出してきた水色の狼。


 グルルと唸り声をあげながら、戦意喪失してしまったリゼロッドとレオナードを順に見る。けれど、それでこの子の気持ちが変わるわけではない。


 いくら仲間達が説得されてしまったとしても、この子自身が説得されたわけではない。そして、この子達自身も、仲間が生きることを選んだのならそれでいいと感じているんだと思う。


 同じ仲間。

 本当は生きてほしいと願っているのは、当然。


 それでも、かつてのパートナーに義理立てして意地でも意思を変えようとしないのだ。意固地だよなあ。そんなに想われているパートナーさんが羨ましいくらいだ。


 それとも、自分もパートナーとの思い出を再現してほしいだけ……って気持ちがあったりするのかもしれない。


『許せねーぜさんは動かないな?』

『あそこには行けない感じかー』

『許せねーぜで草』

『攻略まとめサイトに(許せねーぜさん)って書かれるからやめろや怒』

『配信は真面目な内容なのにお前らときたら……』


 笑っちゃうからやめて。いや、配信してコメントを流している以上こうなるのは分かりきったことなんだけどさあ。真面目な戦いなのに動画でニヤけてたら変でしょ! 私の表情筋を鍛えようとするのをやめなさい! 


「んっんー、恐らく、ユールセレーゼは全員倒すか戦意喪失にさせないと手出しができないキャラだと思います。さっき、アカツキに試しに突撃してもらいましたけど他の子に邪魔されて決して近づけない……みたいな感じでしたし」


 俊敏さに極振りしていたりする人なら、もしかしたらあの壁を抜けられるかもしれないが……どうなんだろうね。RPGでありがちな見えない壁とかあるのかな。VRでそれやると違和感がすごいからどうやって対処されているのか結構気になるところだ。


『おっしゃなら速度極振りおじさんがいっちょ検証に行ったるわ〜』

『よっ、おぢさん!』

『いいねえ』

『検証勢の動画も見てみたい気がする』

『いいの? 迷わないとそもそもマヨヒガ行けないし、カラスの神獣連れてないとこの一連のイベント全部受けられないと思うんですが』

『アッ、やめときます』


 ええ!? 気になるのにー! 

 くう、ここは後続でこの依頼とイベントをこなせる人が現れることを祈るしかないな。悲しい……。


「今受けられなくても、高レベルになって速度も申し分ない人ならあるいは……」


 別に今やらなくても、のちのちにやってくれる人が現れたら嬉しいよねってことで。


 さてさて、本題に入ろう。


「三匹目は水色の狼。もう二匹の名前が判明していて、白い狼がユールセレーゼだと分かっているわけですから……あの子はヒュオールですね」

「……」


 ヒュオールは私と目を合わせない。

 水色の体毛のところどころから青い鱗が覗いており、他の子と決定的に違うのは尻尾が手のようになっているのではなく、魚の尾びれのようになっていることだ。


『ケルピーかな?』


 コメントの推測通り、恐らく半馬半魚のケルピーという幻想の生き物がモデルだろう。


 伝承だと黒か灰色、または栗毛という黄色みをおびた茶色い毛の馬の姿をしているらしいけど、このゲームでは恐らく属性の色に合わせて配色されているんだろうね。


 背中に乗るとすごい勢いで水に飛び込み、人の内臓を食べるというめっちゃくちゃ怖い生き物だけど、馬の頭部と口につける頭絡(とうらく)っていう馬具を使って上手く操ることができれば働き者になるとかなんとか。


 これは手紙の内容から重要そうなキーワードを並べてネット検索したときに知った内容だ。まとめサイトって便利だよね。


 あんまり幻想的な生物は知らないが、よく知っている人がケルピーと判断したなら、私の推理も合っていたということだろう。よかったよかった。


『さすがに頭絡(とうらく)は持ってないだろ』

『ええ、伝承だと下半身は後肢(こうし)のない魚じゃないの?』

『いや、完璧に伝承通りじゃないっしょ』

『ゲームですしアレンジくらい利いてて当たり前では』

『狼の姿でも後肢の蹄はあるみたいだし、馬の体に魚の尻尾じゃない?』

『手紙の内容はよ』

『はよ! はよ!』


 うん、そうしたいのは山々なんだけどさ。ちょっと待ってね。


「ブルルッグァーッ!」


 本当の姿は馬だが、今の姿はあくまで狼である。

 ちょっと変な鳴き方になっていて可愛らしさが勝つね。


 ヒュオールは蹄になった脚を高く上げてその場の地面に叩きつけた。

 瞬間、地面から一気に水が溢れ出してこちらに向かって波のように迫りくる! 


「アオオオオーン……!」


 すかさず私の前に躍り出たオボロが水面を一気に凍らせ、次にアカツキが凍らせた水を炎で溶かし波の勢いを殺す。


 それからシズクが私の肩から一気に水の中に飛び込み、水の支配権を奪い、綺麗な水球にしてコントロール。


 最後に手の空いたレキが水球の周りにツタを張り巡らせ、風車のような花をところどころに咲かせた。水辺に咲く花の風車ウィンドミル・フラワーという植物である。ゲーム特産のちょこっとだけレアな植物なんだよね、これ。


 レキは育てたことのある花は樹木操作や植物操作のスキルさえ手に入れてセットしていれば体の一部として操ることができる。


 こうして水球にツタを張り巡らせ、地球儀のように装飾する。

 その中でシズクが泳ぎながら舞い踊った。


 この一連の連携は私が教え込んだものだが、実はこの戦いには必要ない! 必要なのはウィンドミル・フラワーだけなので、これに関してはみんなにお披露目したかっただけである。


『水球の中で泳ぐ演技か!』

『えっいつのまにこんな演技を覚えたの!?』


 ヒュオールも突然のことにびっくりしているけれど、それはそれとして思わずといった様子に見惚れているようだ。傍観しているユールセレーゼも少しびっくりしているみたい。


「見惚れている今のうちに近づきます」


『お、おう(困惑)』

『謎の行動にヒュオールくんちゃんも動けないようだー?』


 水球の中でシズクがくるくる泳ぐ。

 同時に外側の花の風車がくるくる回る。カラカラと音をたてながら回る。


「シズク、来てください」

「シャー!」


 そして名前を呼べば、シズクが水から私の腕の中に飛び込んできてフィニッシュ。

 間近にいるヒュオールはカラカラと回る花の風車と、私達の行動を順に目で追って一歩も動けないでいた。キーはこの植物。手紙で見て、わざわざプレイヤーのトレード市場で購入し、レキに一度育ててもらったものだ。


 全ては、このときのために。


「手紙の内容はこうです」



 ――最初、君に出会ったときは驚いたよねえ。馬なのに魚を食べるだなんて! クイーン・アユが食べたいだなんて聞いたときはさらにびっくりしたものだよ。あれはなかなか市場に出回らないものだからね! 


 ――初めて作った魚のパイ包み焼きは本当にまずくてびっくりしたね。それでも君が残さずに食べるものだから、私は調子に乗って作りすぎてしまったっけ。あのときの君の顔、忘れられないなあ。


 ――君は本当にグルメだったね。分かっているよ、君は私のことを試していたんだろう? よき主人であれ。よき友であってくれって。だって、君はいつでも駆けつけてくれた。


 ――私が大変なときに、いつでも君は一番に駆けつけてそばに寄り添おうとした。どんなに遠くにいても。


 ――覚えているかい? 何度も遠乗りをしたね。そして、道端に咲いているウィンドミル・フラワーをカラカラと回しながら走った。


 ――君に乗っていれば誰よりも速くなれる気がしたよ。地上を走っているときも、水の中だって君は誰よりも速かった。


 ――あのときのように。そう、相手が私でなくとも……誰かが必要としているときには、君が駆けつけてほしい。あの頃のように、風車のような花をカラカラと回しながら。ふふっ、風情だろう? 


 ――ね? 約束だ。



 ヒュオールに関しては直接パートナーが願っている。風車の花を回しながら、自分ではない誰かのために駆けつけてやっておくれ……と。


「ブルルッグァァァ!」


 しかし、ヒュオールは頭を振った。

 カラカラと回る。思い出の花が。目の前で回っている。


 だからヒュオールは目を閉じた。それを見ないように、意思を揺らがせないようにと。


「ダメ押しに、これもどうですか?」


 アイテムボックスから取り出したのは、ジンとのデートで大量ゲットしたクイーン・アユ。それを使って作ったパイだ。魚をパイで包んで焼いた料理。結構良い匂いだと思う。


「グアァァァァゥ!」


 ヒュオールが苦しむように首を振る。閉じた目の下から涙を流す。


 ヒュオールの目の前に思い出の花が揺れる。

 目を閉じてもカラカラと音がする。

 そしてそれさえ否定しようとすれば、今度は思い出の料理の匂いが現れた。


 思い出の花の音と、思い出の料理の匂いとが包囲網のように、優しく包む。


「ヒュオール。その俊足で、陸でも水中でもあなたは駆けつける。どこからでも、どこにでも。今度はそう、成長した忘れ形見のために。友はそう望んでいます。だからお願いです……この手を取って」


 ヒュオールはその場に伏せる。

 そして、涙を流しながら私に背を向け……ああ、これだけじゃ足りないのか……と、諦めかけたとき。


「フンッ」

「え……?」


 尾びれで私の手をパシンと叩いて、それからパイをその場で食べ始めた。

 あっという間にパイを食べ終わって、ヒュオールはリゼロッドとレオナードの元へと向かっていく。


 場外。


 つまり、認められた。生きることを、肯定した。


「……ありがとう、ございます…………」


 待って涙腺がやばい。

 まだユールセレーゼが残ってるのに。


『エンディングまで泣くんじゃない(号泣)』

『あれ、おかしいなあ。VRゲームなのに画面が滲んで前が見えない』

『ツンデレさんなんだなあ……』


「……すみません。上手く喋れないかも、しれませんが……次で、ラスト……です……」


 白梅の下では、優しい目をした白い狼が待ち構えていた。

感想で喜び死してしまう。

いつもご愛読くださり、ありがとうございます!

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