紙飛行機、あの子の元まで飛んで行け
二番目は、蒲公英色の狼さん。
背中の翼がユールセレーゼよりも大きく、そして前足が鳥のかぎ爪になっている子だ。どう考えてもこの子が『ワシ』の聖獣だ。
「キョルルルルルッ!」
あ、うん。さすがにこの子は喋らないよね。多分リゼロッドは猿系の聖獣で言語スキルでも持っていたんだろう。レキと同じように。
この子は空を飛んでいるので接触がちょっと難しい……けど、大体私を狙ってくるので、待ち構えているだけであちらから降りてきてくれるようなものだ。
それに、あの子の場合は接触する必要は多分ないし。
リゼロッドと同じようにキーとなる行動があるはずだ。
故に、私は事前にアイテムボックスに入れてきておいたものを用意する。
先に推理してあるからには、キーとなるアイテムだって用意していて当たり前だよね! 用意してなかったら、配信ガバガバになっちゃいますし。
「クァーッ!」
「キョルルッ!」
空からこちらを狙う蒲公英狼と、アカツキが交戦する。
お互いにかぎ爪で攻撃したり、つっついたり、噛みついたりしているのでバッサバッサと抜け落ちた鳥の羽根が降ってくる。ああ、ボサボサになってしまう……あとでブラッシングしてあげねば。
ピシャンッ!
そうこうしているうちに、空から電撃が落ちてくる。蒲公英狼が鳴くたびに強い電撃がアカツキを狙い、そして地面に落雷が突き刺さって、電撃が地面を伝って走っていく。
チャーンス!
「きゃあっ!」
わざとらしく悲鳴をあげてしゃがみ込む。
それに反応したのは、やはりアカツキだ。打ち合わせ通り、交戦をやめて私のそばにやってくる。そして目の前にずしりと大きな三本足が見えたと思うと、大きな翼で私を守るように包み込んだ。
「くぅ……」
「あ、ありがとうございます……アカツキ」
この光景を見て、蒲公英色の狼が硬直する。
――レオ、いつも君は私を守ってくれたね。
――雷が怖くて布団で縮こまる私を、君はその大きな翼で覆って守ってくれていた。君自身が本当は雷さまなものだから、いつしか私もすっかり雷が怖くなくなっていったよ。
――君がいなかったら、私は今でも雷が怖かっただろう。
二番目は『ワシ』の聖獣。
蒲公英色の狼の中身は『レオナード』
属性は雷。
雷属性は黄色っぽい毛色になっていることが多いので、そうだとは思っていたが、やっぱりこの子がレオナードだよね。
でも、もうひと押しが足りない。故に、レオナードには名前を看破したうえで、さらに畳み掛けるように説得を続ける。
先程からずっとやっているが、この子達を自殺させないために必要なのは、生きる意味を与えること。
しかし、『他人』ではこの子達の生きる意味には決してなれない。
友への想いが強すぎて、後を追おうとしてしまうからだ。
だから、私は『赤ん坊』の存在を利用する。
言い方が悪い? うん、そうだね。でも一言で言うとそうなんだもの!
事実、赤ん坊はいつだってキーになっている。だから、この子達全員を友の忘れ形見を生きる意味にして成長を見守って行く存在にする……そんな美談にしてしまえば、この一連の依頼とイベントは完全クリアーだ!
だから、あとひと押し!
「っと、飛んで行けー!」
用意していたものをアイテムボックスから取り出して、思いっきり投げる。
……それは、手紙だ。キーになっていた遺書ではない。中身は読まれることを想定していないので一言だけ『生きて』と書くだけにして、『紙飛行機』にして折った手紙だ。
それを空に向けて思いっきり飛ばす。
そして、硬直していたレオナードは、反射的になのか手紙を追いかけて、急いでキャッチすると、地面に降り立つ。
その時点でハッとした顔になっていたが、私は構わずレオナードに近づいた。
『紙飛行機? なんで?』
『さっきの雷のくだりだけじゃダメなんだね』
コメントに耳を傾けると、そんな言葉が聞こえてくる。
なので、呟くように、遺書の二枚目の内容をそらんじるように口にした。
「遺書に書いてあるレオナードとの思い出はね、続きがあるんですよ」
―― 紙飛行機、どこまでも飛んで行け。あの子に届くように。
――そう願っていつも窓から飛ばしていたら、君がキャッチして彼女に渡してしまうものだから驚いたよ。
――でも、そのおかげで私は彼女と幸せになることができたよね。
――レオは今も昔も、私のキューピッドさ。そうだろう?
ロマンチックだよね!
好きな人へ向けて書いた手紙を諦めて紙飛行機にして飛ばしていたら、パートナーがキャッチして本人に届けてしまった! というストーリーだ。
彼らのパートナーは貴族だと言うし、もしかしたらその妻は身分が違う相手だったのかもしれない。
でも、聖獣を通じて想いを伝えることができて一緒になることができたと思うと、本当にキューピッドだと思う。
いいよね、こういうエピソード。ロマンチックで好き!
だからさ。
「私も、私だって、君達に想いが届くまで何度だって投げますよレオナード!」
目の前にまで来て、レオナードの瞳を覗き込みながら言葉を紡ぐ。
たった一言。『生きて』を伝えるために。
ちなみに、上手く飛ばない可能性や失敗する可能性を考えてあと十枚は紙飛行機のストックがあったりする。
君が! 受け止めてくれるまで! 投げるのを! やめない! ……とする気満々だった。
最初で成功してくれてよかったね。
それから、『忘れ形見』のためにと言葉を繋げていく。
「ねえ、レオナード。成長した子供のキューピッドに再びなれるとすれば、あなたしかいません。忘れ形見の晴れ姿。成長した姿を見たいとは思いませんか? このまま消えてしまって、本当にいいんですか?」
手を差し出す。
「……」
――レオ、君がいなければ私は幸せになれなかったかもしれない。ありがとう、大好きだよ。
レオナードは目を伏せて、それからかぎ爪のついた前脚をそっと私の手の上に乗せた。傷つけないようにと、細心の注意を払った行動だった。
――――――
薄命の合成聖獣は、ふっと微笑んだ
どうやら、見逃してくれるようだ。
――――――
「ありがとうございます、レオナード」
二匹目の説得! 完全勝利だ!
(許せねーぜがミームみたいになってて笑いました。罪深い……)




