晴天にシャボン玉が飛ぶ
白梅の下、高みの見物とばかりに白い狼が座り込んだ。
その代わりに赤、黄、青の狼が躍り出る。三匹同時に相手にしなければならないみたいだね。ちょっとこれは面倒かなあ……?
「我らを倒し、従えてみせよ!」
「断る!」
薄紅色……猿の宿った狼が声を張り上げて牙を剥きながら襲いかかってきた。
私達はというと、元気よくお断りの言葉を発してからその場から飛び退って襲撃から逃れる。
わお、これ殺す気で来てない?
「いやあ、たぎりますねこれ!」
『ええ? これでたぎっちゃうの……?』
『戦闘狂の言うことは分からん』
『そこは怖がっておけよ〜』
「いやです! ギリ避けが楽しいんじゃないですか!」
言いながら顔の横を通り過ぎていくワシのかぎ爪を避ける。
襲撃を避けてから、通り過ぎていく赤狼の尻尾の先が急に方向転換して私の髪を掴み、地面に引き倒そうとしてくる。
「髪の毛は反則ですよー!」
すぐさま扇子で尻尾の先についた手を打ちつけ、拘束から逃れてバックステップ。うん、まともに戦おうとしちゃダメだねこれ!
一匹ずつ確実に。
そして攻撃を避けながらも『説得』するために話の順序を組み立てる。
あとは誰を最初にするか……。
「オボロは青い子をよろしく! レキは黄色い子を拘束しちゃって!」
私の指示にすぐさま反応したオボロが、地面ごと青い狼の足元を凍りつかせる。同時にレキも背中から出したツタで空を飛ぶ黄色い狼の翼を拘束した。
そう、最初のターゲットは薄紅色の狼。
手紙の二枚目に書かれていた内容を思い出す。
――リゼはやはり、晴れの日がよく似合うねえ。
――君は手先が器用だから、いつも私をお母様に代わってあやしてくれていた。
――覚えているかい? 私が泣いてしまったときにいつだって君は駆けつけて、シャボン玉で遊んでくれたね。
――君の力でいつでも晴天の空にシャボン玉を浮かべることができて、私の心も晴れ渡るようだったのを覚えているよ。
――愛している、リゼ。君はかけがえのない私の友達だ。
視聴者向けに手紙の内容を呟きながらひらり、ひらりと攻撃を避け続ける。
こちらにいるのは頭上を飛んでいるアカツキと、首に巻いているシズクのみ。
だけれどこれでいい。そのためにオボロとレキには拘束する側に回ってもらったのだから。
『優しい人だったんだな』
『あれ、男の人だよね? パートナーって』
『兄弟のいざこざの話だったんだからそうだろ』
『一人称が私なのは貴族だからでは?』
『一人称俺だったハインツが際立っちゃうなw』
出来た弟さんだったんだろうなあっていうのが、手紙の文章だけで分かるのがなかなかいいよねぇ。
それはそれとして、推理だ。
「リゼ……晴れの日がよく似合う。『リゼ』の力でいつでも晴天……」
尻尾で叩きつけられた地面がへこむ。
あれを食らったらひとたまりもないね。
「手先が器用で、母親代わりが勤められる。シャボン玉で遊ぶことができる……聖獣。そして、晴れの属性は原則……赤色。これらから推理することができるのは、ひとつだけ」
うん、やっぱりそうだろう。合っているはずだ。
だから、拘束されていない唯一の聖獣に、目の前の薄紅色の狼に叫ぶ。
「リゼロッド! 話を聞いてください!」
「……なぜ、ワタシの名を」
大正解!
「ふふん、当たっていましたね?」
『さっすが〜!』
『結構推理するよねw』
『手紙の内容はこの先もこんな感じ?』
「ええ、こんな感じです。それぞれの名前と、属性が分かるような一文と、最後にそれぞれの思い出……ですね」
故に。
薄紅色の狼の中身は『リゼロッド』
晴属性の猿系聖獣のメスだ。
母親代わりというからには恐らくメスだろう。
ユールセレーゼ達の名前の全文は『ユールセレーゼ・ド・リゼロッド・レオナード・ヒュオール』であり、この名前は四匹分の名前が合体したものだとも判明している。なら、この中で『リゼ』に当てはまるのは『リゼロッド』だけ。
どうよ、この真名看破! あっちからすれば「だからなに」って感じだろうけども。ここからが重要なんだから!
なお、名前を全部覚えるのに徹夜しています。西洋式のなっがい名前をなかなか覚えられない悲しみ。
そして、もちろんだけど推理だって事前にしてきてるよ! だから視聴者の前でドヤりながら推理を披露できるんだからね! じゃないと不安でカミカミになっちゃうもの!
念のため名前の全文もメモしてあるし、推理もメモしてある。手紙の内容も記録済みなのでそこから推理を繋げて、あとは喋ってどの子がどの聖獣か当て、そして……!
「アカツキ、一瞬でいい。この霧、どうにかできますか?」
「クェーッ!」
三本足の鴉。アカツキが人一人乗せられるくらいに身体を大きくしながら空高く舞い上がる。今のアカツキは太陽の化身だ。だから、なんとかなるはず。
「シズク、優しく泡を飛ばしてください」
「シャーッ!」
そして、強い風が吹いたと思うと、頭上に晴天が覗いた。
キラキラと白く輝く太陽の下で紅白のおめでたい色をしたカラスがくるくる踊る。同時に、肩から身を乗り出したシズクが口からぷうっと泡を次々吐き出していく。
アクア・ブラストの最低出力で泡を浮かべ、風で流す。
太陽の下で虹色に輝く泡が飛んでいく。ぱちん、ぱちん、ときおり弾けながら飛んでいく。
――あの景色は、とっても綺麗だったね。リゼ。
その光景を見て、リゼロッドは硬直したように足を止めた。
そうして、地面からぐるりと首を回して泡の行く末を見守る。私は、その隙にそっと近づき、シャボン玉もどきに夢中になっている背中へ語りかけた。
「シズクのシャボン玉はどうですか? とっても綺麗でしょう、リゼロッド」
「あなた、なんのつもりですか」
キッと鋭い瞳でリゼロッドが振り返る。
尻尾の手がびたんっ、びたんっと地面に叩きつけられて威嚇を示す。
その瞳の中には、まだ敵意が残っている。けれど、その中に迷いも確かに存在していたから。
あとひと押し。
「私はあなたと戦いたくない。私は、あなた達の緩やかな自殺に手を貸すつもりはありません」
「だからといって、契約をするわけにはいきません」
「あなたの友が望んでいるのに?」
「それでも」
交渉決裂? そんなわけはない。あとひと押しなんだ。
「リゼロッド、忘れ形見はどうするのです。あの赤ん坊の成長を見届けなくても良いというのですか? 今度はそう、かつて友にしたように。あの赤ん坊に晴天のシャボン玉を見せてあげてください。それができるのは――あなただけ」
赤ん坊の成長を見届けるようにと、手紙にもそう書いてあった。
「赤ん坊が健やかに成長する、その隣にあなた達がいるべきです。友もそう願っていたでしょう? それでも死を望むのなら、それはひどい裏切りになります。私との契約は仮でいい。その命を存えさせ、いつか忘れ形見と過ごせるように、今だけは、この手を取って」
手を差し出す。
四つあるうちの人間の……猿の瞳と目が合った。
そして、おずおずと出された尻尾の手を握る。
――――――
薄命の合成聖獣は握手に応じた。
どうやら、見逃してくれるようだ。
――――――
とかなんとか、ゲームには出てこないけれども脳内でテロップを妄想しつつ笑みを浮かべる。これ、動画にして投稿するときに編集してテロップ入りのやつ作ろうかな。
「ありがとう」
まずは、一匹目。リゼロッドは端っこに向かい、伏せをする。戦意喪失だ。
さて次は……。
レキがしているツタの拘束を、なんと雷で焼いて抜け出した黄色い狼を見据える。もう一匹の青い狼はまだ氷から抜け出さないようなので先にこちらだ。
あの子の名前は……。
アンテリスペクトしていることに気づかれていなかったと知ってわりと衝撃を受けていたり。
なお、作者の推しはTPルートラスボスとGルートのラストでしか会えないあの子です。
#神獣郷こっそり裏話
Gルート?
PKサーバーでやろうと思えばできます(はあと)
重要NPCを意図的に5人以上殺すと、PLはジェノサイドサーバーへ個別に強制移動させられます。
皆殺しすると称号獲得。
諦めて殺した数だけ巻き戻しの砂時計を獲得すると「悪夢」扱いになり元のサーバーに戻ります。
た だ し
虐殺の悪夢を見たNPC達からの協力を得ることは困難になります。
キルした数だけ依頼やらゲームを進めるのに不利に変化してしまいます。
呪い(デバフ)が常にペナルティとしてかかる形になります。
デバフを解くには悪夢を見た人達相手に善行を積んで地道に「贖罪」しなければなりません。
とか即興で考えてみる。




